表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第10章・復讐者の秘密、解けない愛憎の糸
176/264

第173話・復讐者が抱く婚約者の不信感



尾嶋博人の声音を思い出すのは、何故か寒気がする。



尾嶋博人は、森本繭子の

この度のスキャンダルを全く信じておらず、ガセネタと言ってみせた。

また理香が電話を受け取った事から、心菜は生きていると確信したらしい。


(理香(わたし)が、心菜だという事は知られてしまったのね)


理香はそう悟った。

せいぜい身元が心菜だとバレぬ様に

慎重に行動していたが、明らかになってしまえば仕方ない。

前に繭子の罠に嵌められかけた際に出会った時ははぐらかせたと思うのだが

悪魔によって洗脳された人物の思考回路は計り知れないのだ。


(…………婚約者に、執着しているのは分かったけれど)


母親が勝手に定めた、見知らぬ婚約者。

しかし相手に深い情が存在していたとしても、此方は見知らぬ人間に情は湧いて来ない。


(………あの人が婚約者に執着している意味は、なに?)


いつ尾嶋博人が、森本心菜の婚約者に決まったのは分からない。

当時は母親の愛情に渇望し求め、母親の世話に追われていたから

他の事に視点を向ける余裕さえ無かった。


繭子の私利私欲と欲望は尽きない。

心菜が知らなかっただけで、実は水面下で事は動いていたのかも知れない。


JYUERU MORIMOTOは今でこそ、

数々の森本繭子のスキャンダルによって

白い眼差しで見られ没落しつつあるが

一昔は『ジュエリー界の女王』『ジュエリー界最高峰』と呼ばれていた会社だ。

株価が上昇していた時期もある、そんなジュエリー界の女社長の一人娘_____社長令嬢と婚約が持ち上がる話は多いに有り得る話だった。


だが。


(____どうも腑に落ちないわ)


上昇企業だった頃に、水面下で話が決まっていたとしても、

今のJYUERU MORIMOTOは株価、評判も没落しつつある。

正直言って、今のJYUERU MORIMOTOには昔の勢いはない。


なのに何故、未だに婚約話が続いている?

相手は断っても不思議ではないのに。


JYUERU MORIMOTOの社内パソコンソフトには、

社員の経歴書等の含めた社員のページが閲覧出来る。

だから尾嶋博人の経歴書、所属部署は見れるのだが、

生憎、今、椎野理香は森本繭子によってJYUERU MORIMOTOの出禁を喰らっている羽目だ。


(………どうしようかしら)


しかし、無計画にJYUERU MORIMOTOに乗り込むのは危険過ぎる。

それに見知らぬ婚約者如きの情報を覗く為に、

JYUERU MORIMOTOに乗り込む気も更々ない。

だが。


(身の危険を感じる。この人は徹底的に調べた方が良いわ)


素性から、“尾嶋博人という人物に対して”。

JYUERU MORIMOTOのデータよりも、個人的に調査した方がした方が良いだろう。

理香は身辺調査に乗り出した。





電話を切った後、

青年は携帯端末を胸に握り締め微笑んだ。



(………やっぱり心菜さんは生きていたんだ。

マスコミの報道なんて、所詮は出任せばかり……)



婚約者の声が聞けた事、心菜が生きているという事だ。

電話だったけれど、彼女の会うのは初めてだった。

けれどそれだけで、博人は十分だった。


初めて聞いた彼女の声は、凛として落ち着いている。

婚約者としても電話に戸惑いを見せていた様だけれど

彼女は和む冗談を見せてくれた。


(…………けれど、本当に優しい人だな)


片手で手を隠しながら

狂気的な面持ちで、微笑みを博人は浮かべ高笑った。

なんと思い遣りに溢れた儚い存在なのだ。




『………どちら様でしょうか?』


『………お掛け間違いではないですか。

私は“心菜”さんではありません。また、私は“心菜”さんという方も存じ上げません』


彼女は“心菜”だとは告げなかった。

きっと母親のガセネタのスキャンダルが露になり

母親にも、婚約者の自分自身にも気を遣っての、発言なのだろう。


母親と婚約者を気遣いを見せた時点で、優しさが滲み出ている。

気を遣っているこそ、彼女は実家に帰れないのだろう。

きっと遠くで身を潜めているに違いない。



『貴女にとっては不都合でしょうね。

バレてしまったんだものね、バレないと思ってた?』


『………もう絶縁したも同然じゃない?

会社からも追い出した癖に、まだ何を求めるというの?』


あれは騒動の最中だったから、

敢えて自分自身に近付かない様にわざと、きつく言った発言だったのだろう。

その節からも母親思いな女性である事は感じ取れる。


そんな無理矢理な、

被害妄想にも似たこじつけ方な解釈をしては

また博人はまた一つ、心菜に惹かれ溺れて行った。


(美しい上に、なんと気遣いに溢れた女性なのだろう。

自分自身の事を犠牲にしても、彼女は常に周りの事を思っている)


(僕は君の心を射止める。何としてでも。

君が僕に惹かれて、心の中にいる大切な人になれば完璧だ。

だって、僕達は婚約者同士だ。


僕が、君の大切な人になれば、僕達は結ばれる)


いよいよ長年、抱き続けた片想いが晴らされる。

彼女と結ばれるのはもう簡単だ。

婚約は決まっている。後は、彼女の心を手に入れるだけなのだから。


(待ってろよ、心菜。

必ず、君を迎えに行くから。そして君をものにしてみせる………)


消灯時間が過ぎた、待合室のスペース。

淡い暗闇の中、青年は微笑んだ。



(やが)て、微笑は嘲笑に変わる。

片手で隠しながらも、指先の隙間から見えた漆黒の()

青年の心は狂気に満ちていて、あわよくば理性が外れた姿だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ