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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第10章・復讐者の秘密、解けない愛憎の糸
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第172話・婚約者の声

遅くなりましたが、

明けましておめでとうございます。

本年もどうか、宜しくお付き合い頂けると幸いです。


また

更新期間がかなり空いてしまい申し訳ございません。

ぼちぼちとですが、本年も精進し頑張って参りますので

よろしくお願い致します。




尾嶋 博人もきっと隅には置けない。

理香は警戒心という腹を括りながら

携帯端末に浮かぶ不審な電話番号を部分の欄に『尾嶋』と入力した。




その刹那。

マナーモードにしていた携帯端末が鳴り響き、微かに震える。

電話の相手は案の定、尾嶋からだった。


内心は躊躇っている。

けれど躊躇いを振り払い、腹を据えると理香は通話ボタンをスライドした。


「………はい」

『_____森本心菜さん?」


森本心菜、と言われた瞬間に心がぞっとする。

“心菜”と呼ばれるのはいつぶりだろうか。


心菜は椎野理香として生きてきた。

あの弱々しい少女は死にも殺したにも同然なのだから。

だから、心菜と呼ばれるのは宜しくなく

次第に不快な、喉の奥がざらざらとした感覚を始めた。


そして何より

この一見、青年の優しそうに聞き取れる声音の中に

狂気が潜んでいる事も、理香は知っていた。

理香は一呼吸を心の中で整えると、


「………どちら様でしょうか?」


そう知らぬふりをして尋ねた。



「嘘を付かないでくれ。君は心菜さんだろう?」

「………お掛け間違いではないですか。

私は“心菜”さんではありません。また、“心菜”さんという方も存じ上げません」


真剣に、やんわりと断ってみる。

理香は内心、この青年の返答を待っていた。

返答によっては態度や言葉遣いを変えなければ成らぬからだ。




(____何故、否定するんだ?)


博人は純粋にそう思った。

森本心菜本人なのに何故、それを婚約者の前で否定する必要がある?

あまりにも素っ気なくあしらわれて、博人はショックだった。

しかしこれは彼女なりの、ジョークなのだと利己的に解釈する。



「あはは、ご冗談を。嘘は通じないよ。


お義母さんから聞いていて、君も僕を知っているだろう?

君と話すのは初めてだけど………。改めまして僕は尾嶋博人です」

「…………(知ってるわよ)」


博人の声を聞きながらも、かなりしつこいと理香は苛立つ。

この人物、ただ者ではない。自身の身の危険すら感じた。

しかしこれは当然か。


あの悪魔の下で、

常に傍に居て間近に洗脳を受けてきたのだ。

繭子の元に____傍に居る以上、洗脳を受けてしまえば、

まともな人間さえ、悪魔の都合の良い色に染まってしまうだろう。

自分自身だってそうだった。


悪魔の都合の良い色に染められ、

何時しか気付かないまま、彼女の操り人形と化していた。



(婚約者と思い込んでいるから、

仕方ないけれど、かなり馴れ馴れしいわ)



博人は最初から馴れ馴れしい、タメ口だ。

婚約者だからと思い込み、気を許している様だがあまりにも

馴れ馴れしく天狗になっていると様に感じてしまう。

呆れて言葉が出ない理香との通話には、必然的に沈黙が佇む。


だが博人は彼女の沈黙の理由を自己解釈してしまった。


(きっとお義母さんの事があるから、

彼女は相当なショックを受けているのかも。

だから僕とも気不味くなっているのかも知れない)


心菜は、大人しく物静かな人物だと聞いている。

だからの事もあって婚約者である自分自身にも遠慮気味なのかも知れない。



「君も辛いよな。

お義母さんの、あの嘘のスキャンダルが出てしまったから、

君は実家に帰りづらいのだろう?

良かったら秘密裏に、俺が迎えに行くけれど……」


博人の言葉に、理香は絶句した。



(………もしかして、

“あの人”のスキャンダルを嘘だと思っているの?)


驚きと共に理香は悟った。博人は、

森本繭子に起きたスキャンダルを信じていないと。

話している声音や口調はまるで、さらりとした他人事そのものだ。


(…………やっぱり、この人も洗脳されているのね)


博人さえも洗脳をされている。

繭子ともかなり親しいのだろう。親しくなければ

彼女の事を馴れ馴れしく親しく“お義母さん”と呼ぶ筈がない。


そう思うと、理香は呆れつつも彼が哀れに見えた。

この青年も悪魔の犠牲者となった一人なのだと。

しかしこの青年が危ない人物だという事は、なんとなく察する。


「僕は、ずっと待ち続けていたんだ。

君が行方不明だと聞いて心配したよ。僕は、お義母さんの婚約者に会えないのかと。


でも。電話が繋がって、君の声が聞けて良かったよ。

君は生きているんだって。確信したから。

嘘のスキャンダルになんかに気負けするなよ」


命令するかの様な上からの物言い。

理香は、救い様がない青年に絶句し引くばかりだった。

同時に尾嶋博人は、唐突かつ自己中心的で無理矢理を通す人物だと理解する。

それ故に心の何処かで繭子の物言いと似ている様な気がした。


「大丈夫。

君にはお義母さんに……それに、俺だっているんだから」


だから。

俺に会うまで、元気にしていてくれよ。


そう照れ臭そうに様に言った後、通話は切れた。


理香は緊張感から解放され

安堵感を覚えながら、同時に更なる警戒心が芽生えた。

携帯端末を持つ手をやや震わせながら、廃棟の闇の廊下で強く思う。


(あなた達が味方だなんて、私は絶対に認めない)


理香は緊張感と共に、背筋が凍る思いだった。

しつこいとも取れ、練りのある悪巧みが隠せない、独特な声音。

繭子に”娘の婚約者“と洗脳されている以上、救い様がない。

口は災いの元。下手に抗えば暴走する様な気がして、

良く言えば敢えて理香は聞き手側に、

悪く言えば沈黙を貫き、無視する側に回った。



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