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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第10章・復讐者の秘密、解けない愛憎の糸
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第171話・婚約者に会う前に


尾嶋 博人。



電話の主は、彼だった。


ならば、こんな時間を置かずに連絡してくる理由も解る。


(何故、今頃になってから?)



理香の脳裏にある疑問符が浮かんだ。

婚約者と知り、境地に立たされた事もあったが

繭子と会ったとしても、婚約者とは会う事も連絡がかかってくる事もなかった。



(それに、あの危機的状況は誤魔化せた筈よ)


前に一度、繭子に理香が心菜だと暴露されかけたが

あの時はなんとか相手を誤魔化しやり過ごせていた。

尾嶋博人は婚約者と言え、彼は、森本心菜は知っていても

別人と化した“椎野理香”としての自分自身は全く知らない。




最近になり、急に連絡の量は増えている。

理由は森本繭子のスキャンダルだと推測は出来るが、

今まで繭子のスキャンダルが何度もあったが、

その際に連絡等は一度も、なかったのに。



何故急に、こんなに電話を寄越してくる様になったのだろう。

顎元に指を組み立てながら考え込み、俯く。

考えれば考える程、謎は深くさせる。


理香は俯いて項垂れたままだった。

やや表情は髪に隠れてはいるが、時間が経つにつれ

顔色が悪くなり、気分が悪そうな面持ちをしているのは明白だ。



「……大丈夫?」

「……ええ。少し驚いてしまっただけだから………」

「……この電話主、理香の知っている人?」


心配な面持ちで尋ねてくる青年に

理香は一瞬、伝えるまいか躊躇ったが、恐る恐る口にする。



「………婚約者、なの」



そのぽつりと呟かれた言葉に、芳久も絶句した。






(………君は、僕を知ったらどう反応するのかな?)



恐らく心菜は、きっと驚くであろう。

婚約者の自分自身の声を聞いて、彼女はどんな言葉を返すのだろうか。

そして、どんな言葉をかけてくれる?


早く彼女の声が聞きたい。

早く彼女の人となりを、どんな人物なのかを知りたい。

そして自分自身が、婚約者だと彼女に伝えたい。



心菜を思えば思う程に心が弾んで、

繭子から連絡先を聞いてからは、よく連絡している。

気付けば頭は心菜の事ばかり考え、携帯端末を取れば彼女の番号に指先が向けていた。



まるで遠足を待つ子供の様に、博人は心を踊らせていた。

心菜と自分自身が接触して、彼女と親しくなってしまえば

もう結婚まで時間等、要らないのだから。

もう心菜は自分自身のもの。


誰にも奪わせない。


早く声を聞きたくて、会いたくて何度も電話をかけた。

けれど電話は繋がらず、肝心な心菜の声を聞く事が出来ない。

心菜が電話の応答がない度に、博人は焦りを覚えていた。



(どうして、彼女と逢えないんだろう)


また、彼女が遠退いてしまう。

全てはあのガセネタの記事のせいだ。

あの記事のせいで、また自分自身と心菜との距離が出来てしまった。


何故。彼女との距離が出来、彼女は遠退いていくのだろう。

これでは今までの堂々巡りになってしまうだけだ。

その要因であるマスコミを心底、博人は恨んでいた。







「あの人は、自分自身の人生計画の為に

娘の人生計画も決めていたの。人生にレールを

敷いていて、全て娘の事は自分自身で決めていた。

………本人の意見は無視してね。


娘の学校や就職も決めていて

娘の結婚相手は自分自身のお気に入りの部下で

その人と結婚する様に決めていたみたいなの。

…………それが、その人よ」

「………そうだったのか」



全て洗いざらい、理香は芳久に話した。

偶然、森本心菜には母親が気に入った相手である青年が、

婚約者として選ばれている事。

それが尾嶋博人を知ったのは最近だという事。


芳久は驚きながらも、すぐに理解を示した。

そして。


(______あの社長も、父さんと変わらないな)



一通りに説明した内容に理解を示し、芳久は頷く。

理香が顔面蒼白になり顔色を失っていた理由が(ようや)く解った。




(______父さんよりも、強者かも知れない)


否。

彼女の話を聞く限り、自分自身の父親を上回りそうな人物だ。

子供を操り人形の様に操り、勝手に子供の人生のレールを敷く。


自分自身の知らない間に婚約者を決められ、何の感情も

持っていない結婚相手がいると知れば驚いただろう。

ましてやその相手と婚姻させられるのは。


だが。


(…………その婚約者もきっと、理香の敵になってしまう)


理香は誰も寄せ付けない。

きっと孤独と共に生きていくのだろう。

他人が立ち入る事を彼女は、望んではいないのだから。


婚約を断るとなってしまったら

尾嶋博人も、森本繭子も黙ってはいないだろう。

尾嶋に関してはこの連絡の量から、狂気さえ芳久は感じた。


どちらにしろ、尾嶋博人も敵になってしまうだろう。



そんな中、

芳久に理香は声をかける。



「わざわざ、ありがとう。

…………お陰様で、腹を括る事が出来たわ」

「………いや、俺は何もしてないよ」



何時もの無表情の面持ちながらも微笑んだ。

だが先程とは違う凛とした面持ちの

理香の様子が違う事は、芳久から見ても明らかだ。

けれど深入りすれば逆鱗に触れてしまいそうな、そんな気がした。





理香は腹を括る。

相手は尾嶋博人____繭子が婚約者に指定した相手だ。

繭子の傍に居たのだから、心も洗脳されているだろうと予測が付く。

簡単に説遇出来る相手ではないのは、明白だ。


(____あの人は、人の感情を懐に納めるのは特意義だもの)


人の感情を操り丸め込むのは、悪魔にとっては簡単な事だ。


何故ならば

あの女は、自分自身をか弱いふりをして相手を

己の(ふところ)に納めるというのが特意義なのだから。


博人が今になって連絡を寄越し始めた理由は分からない。

だが婚約者が動き出したという事は

共犯である繭子の身にも何かしらあったのだと悟る。

理香はそれらを悟った瞬間に、何か良からぬ胸騒ぎがし出した。





繭子から一粒からも愛情等、

感じ取った覚え(など)は一切ない。

理香にとっては、自分自身から自由を奪う魔性の女。


けれどこれが、母親の愛情に餓えていた心菜ならば

自分自身の為に選び考えてくれた結果だと思うだろう。

母親からの無垢な愛情を渇望していた哀れな少女が

考えてしまい、錯覚してしまいそうだ。




電話の主が悪魔が定めた婚約者だったとは予想もしていなかった事だ。

彼が今になって連絡を寄越してきた理由は分からない。

だが_____。


(この人も一筋縄ではいかなそうね)



繭子のお気に入りの手下ならば、尚更。




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