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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第10章・復讐者の秘密、解けない愛憎の糸
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第170話・電話の主




「理香の番号を知っている人はあまり居ないよね」

「………ええ。なんだか、気味が悪い」


あまり知られていない故に、不審な者が来る

内心に抱えた警戒心と不信感が騒ぐ。



「気にしないで。何とも思っていないから」



その軽くあしらい気にしていない表情に、

芳久は怪しんだ。


(______何かの前触れか?)



“前”の椎野理香ならば、素通りするだろう。

けれど“今”の椎野理香ならば、素通りは出来ない。



復讐者としての今の彼女に、敵は沢山増えた。

実母、理香を異母妹と思い込んでいる娘、娘だと思っているあの御曹司の社長。

理香を害だと思い執着している人間はかなりいる。


それに_____。


あの日。

カフェで見た理香と一緒に居た、謎の男。

お互い神妙な面持ちをして理香と話し込んでいた。


(…………あの人は、誰だろう?)


理香と話していた男の姿は

ダンディーでまるで西洋映画に出てきそうな、

端正な顔立ちとラフなスタイルを持った男だった。

芳久にとって、彼も怪しいのだ。


復讐者の敵なら、段々と増えてくるだろう。

………即ち、彼女の身は危ない。





理香はあまり気付いていないだろうけれど。

不審な番号を気にしないという彼女の顔は寂しそうだった。

気にはしていないと言っていても、何処かで警戒し怪しんでいるのではないか。


「その番号って、よくかかってくるんだよね?」

「……ええ」



「怪しいな、なんだか細工されている気がする」

「………え?」


理香は、呆然とする。

対して芳久の表情は真剣そのものだ。


「大丈夫よ? 単なる電話でしょう?」

「いいや。考えてみてみなよ。

セールスマンとかは間を開けてから。

少なくとも1日に繰り返しかかってはこない筈だ。

…………何かある気がする」

「………そう言えば、そうね」


電話は約一週間から、1日に時間を問わず何十回。

頻繁にかかってくる電話に余計に気味が悪く感じて受け取らなかったのだが。

芳久にそう言われて、理香は思い直し怪しむ。



「その番号、教えて貰ってもいいかな?」

「ええ」

「此方で少し調べてみるよ」

「でも……」


理香は口籠った。

躊躇う様な表情な理香に芳久は立ち止まる。


「芳久はお父様の事があるでしょう?

私の問題まで、となるとなんだか申し訳ない」


今の芳久は、

母親の死の真相する為に、父親の事を探っている。

父親の事があるので自分の問題を任せるのは、

何処か申し訳なく感じてしまうのだ。


(全く悪い癖だな)


芳久は、軽く笑った。

復讐者となってから少しは図々しくなったと思っていたが

やはり何処か遠慮がちな本質は変わらない。


「何を言っているんだか。

俺は君の復讐に加担した人間だ。今更、気を使わなくていいよ」

「…………ありがとう」


優しく笑う芳久に、理香は観念した。




悪い花が開花しない今の内に、悪い芽は摘んでおこう。





人生の全てを、婚約者に、

森本心菜という女に捧げてきたと言っても過言ではない。

婚約が決まってから博人の頭の中は、結婚後のプランも考え、

心菜という女に恋い焦がれ続けた。


(やっぱり、君は綺麗だ)


博人の手にある携帯端末の写真フォルダには、

普段の不意打ちな、椎野理香が其処には写っている。

彼女を見付けた際に後を追って、密かに隠し撮りした大切な写真だ。


密かに、博人は理香を尾行している。


森本心菜が、

椎野理香だと知っても博人の心は変わらず

益々、婚約者への感情は将来の期待を胸に燃え上がっていく。


彼女は、美しい。

まるで、優美な羽根のようだ。



婚約を交わした以上、その契りは覆せない。

もう椎野理香は自分自身のものと言っても過言ではなかろう。

自分自身のものとなった彼女を、絶対に逃すつもりは殊更無い。



(____待っててくれ)



博人は嘲笑にも似た微笑みを浮かべる。

もどかしくも何年も、何年も待ちわびた甲斐があった。




森本心菜は、彼女は、

見つかったのだからもう心配は要らない。



後は____彼女の心を手に入れるだけ。



(なんとしても、君を手に入れてやる)




「………」

「………」



部屋には、沈黙が流れている。

芳久が向かい合っているパソコンで、端末を探している。

その傍らには、神妙な面持ちで理香も覗いていた。




誰にも知られていないが

実はプランシャホテルには、秘密裏に携帯会社とコネクションがある。

それは、ホテルの部屋に携帯端末を忘れた持ち主に元に戻すというのが、表向きの理由だ。


理事長の仕事で慌ただしくしている父親に代わり

携帯端末の持ち主を探すのは、決まって芳久の役割だった。


兄は跡継ぎとしての勉学に、母は家の事で忙しかったから

唯一、蔑ろにされてきた中で、この役割は雑用は

全て芳久に任された。


(あの頃は、嫌でしかなかったのに)



あの頃は面倒だと思っていた事が今になって跳躍するとは。

今は、密かな芳久の特意義となってしまった。



携帯番号を、位置情報アプリを用意て探しながら

携帯端末の持ち主を探してみる。


だが其処からは、

秘密裏の芳久の特意義。

付録の如く携帯端末の情報がずらりと並べられた

それを、念入りに読み解いてゆく。


携帯端末の情報を独自に取り込み、解析した後に。



相手は分かった。

理香にしつこく電話をかけてきた電話の主は、若い男性。

ローマ字で書かれた名前を読んでいく。




(…………オジマ ヒロト?)



聞いた事がない名前。

見知らぬ女性にしつこく電話をしてきているのは、何故だ?


しかし名前を悟った瞬間、

理香の表情は顔面蒼白となり、みるみる青ざめていく。


「オジマヒロト、か……。理香、心当たりはある?」



(……まさか)



忘れる筈がない。

森本繭子が仕組んだものを、隅々まで調べ尽くした。

だとすれば、あの電話の主は_____。


「………理香?」



芳久の問いかけも届かない。


理香は、俯いたまま動けなかった。



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