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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第10章・復讐者の秘密、解けない愛憎の糸
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第166話・森本心菜の利用価値



今や、理香にとって“心菜”は良い利用価値の代物だ。

心菜という武器を使えば、繭子を脅かす材料となる。

繭子は何だかんだ言えど、心菜の存在は無視は出来ないのだから。


(過去なんて、どうでもいいわ。

所詮、心菜は繭子の操り人形だったんだから)


今はもう違う。

理香は、れっきとした一人の人間だ。

心菜はとっくの昔に葬った、彼女の記憶だけを引き継いだに過ぎない。


(私に出来るのは、あの人を突き落とすだけよ)



奈落に。

侮辱、屈辱という奈落の地獄の闇に。



______森本繭子社長、いよいよ再起不能か。

______華やかな表、その裏では娘を虐待し続けた、毒の女社長。



世間での森本繭子の評価は、日々どん底へ落ち続けていた。

森本繭子の会社の業績や学歴不正、まさか一人娘を虐待し続け、その娘を自殺に追い込んだ。

もはや犯罪者と言わんばかりに。





_______プランシャホテル、理事長室。



夜空の帳に包まれた理事長室。

ひっそりと淡い白銀の月明かりだけが、微かに差し込む。



「こんな記事が出てしまっては、我が社の名誉も落ちてしまう」


森本繭子の記事が載った週刊誌に、放り投げる様に

社長室のデスクに置いては、英俊は冷めた眼差しで

週刊誌を見る。


まさか、森本繭子が、こんな女だったとは。

JYUERU MORIMOTOが批判の波に晒されば、

提携経営元のプランシャホテルの評価も株も下がってしまう。


(こんな疫病神の会社との提携等、いらない)


早く提携経営を切ってしまわねば。

こんな疫病神の会社と縁を結んだままでいたら、危うい。

英俊にとって理事長の地位、プランシャホテルの名誉を傷付けるものなら、排除する。

そうすればいいだけだ。


森本繭子は、精神的な体調不良で入院したまま

退院の目処は立って折らず、雲隠れしているらしい。


そう考えた所で、慎ましやかなノックの音が聞こえた。

はい、と生返事を返した後では、相手は礼儀正しく此方に入ってくる。




「______お久しぶりです。理事長」



端正な顔立ち、長身痩躯のスタイル。


以前と姿も顔立ちも変わっていないのに

何処か雰囲気も顔立ちも変わったのは気のせいか。

久しぶりに目の前に現れたのは、暫く見ていなかった次男(よしひさ)だった。



「久しぶりだな。

お前、長期休暇を取っていたらしいが、何処に行っていた?」

「…………」


鋭い眼差しが、此方に注がれる。

けれど芳久にとっては計算済みのことだった。


「僕は理事長の後を継ぐ身です。

兄になる訳でもありますし、理事長の勉強と

兄になる覚悟を考え、備える為に暫く長期休暇を取らせて頂きました」


「…………そうか」

「勝手な真似をしてしまいすみません。けれど、

終わった後に理事長にお会いしたいと思っておりました」


心にもない、微笑みと言葉を紡ぐ。

脳腫瘍を抱え、手術しリハビリしていたとは決して

奴の耳には入れられないから、ありふれた言葉を並べた。


そう真剣な眼差しと表情で

言葉を言って見せれば、英俊は喜んだ様な表情を浮かべる。


「そうか。お前にも理事長の責任を担う気持ちが出来たのか」

「はい。理事長の後を継げる様な、人間になって見せます」


(_____そうやって喜んでいろ。俺が乗っ取ってやる)


芳久は、微笑する。



地位も名誉も。

母親を殺した意味を口にするまでは、

偽善者の息子を演じ、いつか追い詰めてやる。




「…………随分と、“いい子法式”で行くのね」


理事長室を出た後、

廊下の人目に着かない場所に、理香がいた。

彼女は何時も通りに何処か憂いた表情と、真剣な眼差しで此方を見ている。


「まあね。“今”は」

「…………そう」


理香は聞いていた。

理事長と芳久の会話の一部始終を。

親子とは思えない他人行儀な口振りは、(かつ)ての自分自身を見ているようだった。


「………まあ、最初は穏便に行きましょう?」

「ああ、そうする。けど、そっちは穏便に行けるの?」

「……………」


そう尋ねた途端、微かに理香の表情が険しくなる。

森本繭子は危うく、“娘を自殺に追い込んだ女“と囁かれるようになった。

森本心菜の過去を暴いた時点で、自分自身の地位も危うくなるかも知れないのに。

理香は一切、そんな素振りは見せない。



「私ね、気付いたの」

「………何に?」


「あの人は、なんだかんだ言って

“心菜”というワードを出されたら、無視出来ないと。



私は理香。心菜じゃない。他人だわ。

どちらにしろ娘というワードを出されたら、

世間もあの人も無視出来ないでしょう。平穏ではいられない筈よ。

それを、利用する」


「だから。

私は、これからは心菜を使うわ。武器として。

それは、私にとって復讐に好都合なものだから



…………それが狙いよ」




繭子を、奈落に突き落とすには心菜の存在が不可欠だ。

佳代子が効かなくなった事を薄々感じていたが、

佳代子と心菜のワードを、悪魔に憑き纏わせれば、繭子は平常心を保てなくなる。


今の虚像で積み上げた華やかな名声も、名誉も

無くなってしまう。



理香は微笑した。

堕ちるところまで、堕ちてしまえばいい。



森本心菜の利用価値。

それは、森本繭子を苦しめ、窮地に追いやる事が出来るもの。

利用出来るものは、なんでもしてやる。

悪魔を、堕とす為ならば。


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