表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第10章・復讐者の秘密、解けない愛憎の糸
168/264

第165話・天使を虐め続けた代償


暗雲の空。

強い風が吹いている。


いつ来たのだろう。

気付けば、JYUERU MORIMOTOの屋上にいた。

都心部の街並みの景色が一望出来る、広い屋上に。


強い風を押さえる為に、額に手を水平にし

頬を撫でる風を感じつつ、繭子は前を見た。


目の前には、誰かがいた。

小柄で華奢な体躯に、見覚えのある白いワンピース。

黒髪のミディアムヘアが、さらさらと風に揺れている。


屋上の淵に立っている、目の前の人物見には覚えがあった。


「………心菜」


ぽつり、と溢れた呟き。

屋上に立っていた少女は振り向く。

凛として繊細な顔立ちの、何処か儚さのある雰気。

儚い表情で少女は此方を、ただ見詰めている。





「…………お母さん」


柔い声音。

そして、微かに微笑んだ。



「(…………愛してる)」



声にならない声。

唇だけが、微かに呟く。



一瞬、風に(なび)いた髪。



_________その瞬間。




その体は、

ふらりと投げ棄てられた様に屋上から落ちていく。

柵もないから、人一人簡単に落ちてしまうのは簡単で


突然の事に繭子は、呆然と立ち尽くしていた。





「は……?」


目が覚めた。

どうやら、転た寝していたらしい。



(あれは夢か)



夢。たった数分の幻想。

けれど自棄に現実的で、冷や汗を覚える。

微かに動機を感じながら、大した事のない夢なのだと言い聞かせる。


けれど。初めて見た。

心菜が、自分自身の目の前で消える夢なんて。



だが。

多少の事、胸のざわめきを覚えたのは気のせいだろうか。








「あああああああああ_____!!」



VIP個室病室では、悪魔の悲鳴が木霊していた。

それは悲鳴に似た絶叫。まるで、悪魔が何かに引き摺り込まれる様な叫びだ。


タブレット式の端末には

森本繭子の入院していたという見出しに続き

単独のネットワークの記事には、こう記されていた。



_____ジュエリー界の女王は、娘を虐待し続けていた。



“_____華やかに生きる裏では、娘に古希を使い、

その娘には生まれから長らく暴力的な虐待や精神的虐待を繰り返していたという”


記事には

包み隠さず、繭子のしてきた仕打ちの全てが赤裸々に書かれていた。

暴力的な虐待、心理的な虐待。その内容の一部始終を全て洗いざらいに晒け出されている。


そして何よりも繭子を驚かせたのは。



“森本繭子の娘は、行方不明になったと思われる12年前に自殺していた”

“娘のA子さんが自殺した原因は長年に渡る、母親からの虐待の影響か”

“真偽は分からないが、長年母親から受けた精神的苦痛影響したのが原因ではだろうか”



半分が事実で、半分が嘘だ。

森本心菜は息をしている、自殺なんてしていない。

のうのうと息をして母親である自分自身を屈辱という奈落の底に突き落とした、冷酷非道な女。


けれど、虐待というワードは………。



「………誰が、こんな情報を……」



布団を握り絞めながら、繭子は項垂れる。


誰も、決して知らないこと。

誰も、知らなくていいことなのに。

誰も、知ることのない事実。



ジュエリー界で華々しく生きてきた女社長が、

娘を虐待を繰り返していたという事実を、

誰も知らない筈なのに。


家庭内での秘密事。

だから“あの女”に似ていた娘という女を、虐め続けてきた。

家庭内ならば誰にも知られないだろうと、好き勝手にやっては

快楽に似た清々した気分に浸っていたというのに。


罪悪感の一欠片もなく、

それどころか永遠に世には知られないという

繭子には、絶対的な自信があった。


なのに今更、探られてしまうなんて。


家庭内での、

決して明らかになる事はないだろうと

鷹を括っていた事が世に出回り、騒然としている。

誰も知らない筈の事実が何故、今更になって出てきた?


決して明らかになってはならない事だった。

これが明らかになれば、自分自身の華々しい社長生命も終わってしまう。





(………心菜なの?)


この精神的な虐待を一部始終知るのは、たった一人。

あの女しか知らない。



プランシャホテル廃棟。

前に作った魚のスープを食べたいと青年に言われて、理香は届けに来ていた。


「ありがとう」

「いいえ。こちらこそ、気に入って貰えてありがとう」


天使の羽の様に、理香は微笑む。

その微笑みは、まるで憑き物が落ちた様なすっきりとしたものだった。



渡し終えた後で、壁に背を預け携帯端末を見る。



ジュエリー界の女王の

醜態が晒された記事を見詰めながら、理香は嘲笑を浮かべた。

まさか家庭内のあの出来事が、世に晒されてしまうとは夢にも思っていなかっただろうに。





「…………これで、良かったの?」


芳久は、心配そうに尋ねる。

森本繭子を奈落に突き落としたと同時に

森本心菜の過去が、晒されたというのだから。


しかし理香の表情は変わらない。



「ええ。もう“森本心菜”は、私には関係ないもの」

「……………」




(………さあ、貴女はどうするの?)



華やかな女社長が、此処まで醜態を晒されて。

娘を虐待していたなんて、誰も知らなかった。

森本繭子を奈落に突き落としたのは事実だけれど、此処まで落ちぶれても、あの悪魔はどうする?


(終わりだなんて、安心して思わせない。

貴女が貴女で無くなるまで、私は、貴女を……)





「許さない………!!」


椎野理香。

森本佳代子に似た女は、

何処まで自分自身を、母親を、突き落とすつもりなんだろう。

めらめらと、繭子の心の中で憎悪の炎が燃えたぎる。


(あんたは、いつまであたしを苦しめるつもりなの……!!)


生まれからからも

再会してからも、思えば彼女に苦しめられてばかり。

悔しさを覚えながら、繭子は布団に顔を埋めて、何時までも泣き続けていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ