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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第9章・悪魔が仕組んだもの、天使の秘密
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第156話・奪った悪魔、奪われた令嬢


___数日前、病室。



なんだか、胸騒ぎがする。

良からぬ事ではないだろうかと思いながら、

理香は心臓辺りを押さえる。


理香の膝の上には、佳代子の日記。

ちょうど読み返し、破ったであろう箇所の根本を指先でなぞっていた。




(芳久に、なにか………)



ベッドの上で、

呼吸器に繋がれ眠っている青年に視線を向ける。

大丈夫だ。パルスオキシメーターが表示するSPO2の数字も安定している。あまり変わりない。


だが暫く意識が戻らないのも事実だ。

意識が戻るまでは安堵は出来ないと思っていた矢先。

青年のパルスオキシメーターが嵌められている指先が微かに動いたのを、理香は見逃さなかった。


「………芳久?」


ぽつり、と呟いた言葉。

優しい声音。それに反応するかの様に、

その灰色の双眸はゆっくりと開かれる。


「………芳久、分かる………?」


「………(理香)」


理香が、声をかけると

青年は此方へ視線を向けて、僅かに微笑んだ。




手術後。

腫瘍は全摘出し、奇跡的に後遺症もなかった。

治療は続けていく為に暫く入院するという意外は

気管挿管は外され、酸素マスクに切り替えられた。


術後の回復も、順調に進んでいる。


せめてでも目の包容にと

買って来た深紅のガーネットが、窓際に添えられている。

そんな花の世話をしている理香に、芳久は語りかけた。


「…………理香」

「なに……?」


「この数日間、何もなかったか」



心配そうに言う芳久に、理香は目を伏せる。




「……ええ。嵐の静けさというのかしら。

あの人からの連絡も世間の騒動も何もなかったわ」

「………そうか」


「………でも」

「…………どうした」

「妙な胸騒ぎがするの。止まない。何故かしら?」


己の胸を押さえながら、理香は呟く。

抱いた違和感も、覚えた胸騒ぎも、全く止む気配はない。

繭子を気にした事はないけれど、無視をしようにも胸騒ぎは無視出来なかった。

そんな理香に、芳久は



「………何かが起こるのかも知れない。

静けさとは裏腹に何かが、あるのかも知れないよ」

「………何かって……」


理香が此方へ視線を向ける。

芳久は話を続けた。


「あの人がどんな人か、どんな事を起こすのか

一番知っているのは理香だと思う」

「…………」


理香は目を伏せ、俯く。


そうだ。

森本繭子は、自分自身の為になるならば手段を選ばない。

“嵐の静けさのふり”をしているだけで、水面下では

何かを企み考えているのかも知れない。


芳久に言われて初めて

何処かで感じていた。繭子が何かしら起こすのだと。

だが改めて言われて胸騒ぎの理由に確信した様な気がした。


(………何かを考えている気がする)


認めたくはない。

認めたくはないが、何処かで娘の勘が働いた気がした。




「一度、他人のふりをして様子に見に行ったらどうかな?」

「…………ありがとう。そうする」


悪魔が種を蒔く前に、その種を潰さなければ。


(____貴女の思惑を、順調に進めはしないわ。

私が潰す。………“貴女”を)







時刻は日付が変わり、草木も眠る夜。


そろそろ寝ようかと繭子が

ソファーベッドに横たわろうとした瞬間だった。

_______インターホンが鳴ったのは。


眉間に皺を寄せて、険しい面持ちになりながら

重い腰を上げて繭子は壁掛けのインターホンまで

歩きモニターを見る。


モニターに映っていたのは、知らない女性。

見るからに気品を感じる、例えるならば姫君というべきか。

しかし繭子は違和感を感じた。


外は、

寒いだろうにパジャマに、スリッパという装い。

明らかに冬の装いとしては寒く異様に映ってしまう。

もしかしたら変装した記者かも知れない。

そう警戒して、女性を無視する事にした。


ソファーベッドに戻ろうとした、その瞬間。



ガンガン、とけたたましい音が聞こえる。

慌ててモニターに振り替えり戻ると、女性は門扉をこじ開けようとしている。

何をしているのか、と呆気に取られた後で繭子はモニターに釘付けになった。




「開けなさい、開けなさいよ! 森本繭子!」


怒りと狂気に満ちた声が、静観な住宅街に響く。

明らかに女性は正気を失っている。

モニターからは無論、外からも充分に聞こえる大声だった。


繭子は、引く。

一体、こんな時間に来て何の様なのだろうか。


(_______誰なの)



ガンガンと激しく揺らしている内に鍵が外れたのか、門扉は開いてしまった。

その刹那。千尋はずかずかと森本邸へと入っていき、

今度はドアをこれよがしに何度も殴る様に叩き

ドアノブをガチャガチャと何度も回す。


「逃げるんじゃないわよ、大人しく開けなさい!」

「無視する気!? 開けなさい!! この女狐!!」


拳は容赦なく叩き続ける。

何度も壊す様に叩いた手は、痛みが走るがそんな事はどうでもいい。

否。余裕のない心はそれ処ではなかった。



(______嫌、こんな女狐にパパを取られるのは……)


(……………そんなの、許さないから………!!)


千尋は、正気を失っている。

否。森本繭子に順一郎を取られてしまいそうな、

焦りと恐怖に支配され、気付いたら此方へ来ていた。


こんなに叩き続けたら、ドアが壊れてしまいそうだ。

それに静観な住宅街故に、周りに噂になれば見も蓋もない。

警戒しながらゆっくりと繭子は近付き、鍵の施錠を外し、ドアを開ける。



「やーっと、開けてくれた………」


ドアが開く。

中に入ってきた女性は、狂気に満ちた顔をしている。

纏う雰囲気はどす黒く、背筋を凍らせる程の勢いがある。

本音を言えば、椎野理香よりも怖いと感じた。


彼女はスリッパのまま、森本邸に上がり

物を容赦無く踏み潰しながら、ゆっくりと繭子へ近付いていく。

そのオーラから逃げる様に繭子は後退りして、やがてリビングまで到達した。


「あんた、誰よ!

夜中に、喚き散らして何様なの!?」


虚勢でそう叫んだ瞬間、千尋の目の色が、顔付きが変わった。

刹那。繭子の方はがっしりと掴まれ、相手しか捉えられない様になる。


「……誰ですって?

一番知っている筈よ。パパの事…………」

「……パパ?」


相手は嗤う。

その微笑みは正気を亡くし、まるで狂い咲きの様に。



「私は、小野千尋。小野順一郎の娘よ!」


千尋はそう叫んだ。

小野順一郎の娘だと叫んだ瞬間に、繭子は固まる。


(順一郎の娘?)


「あんた事、一番知っているわ。

パパの愛人なんでしょ? 証拠もあるわ。

パパを誘惑して、あたしとママからパパを奪った! ……そうじゃない?」


声音に熱が籠る。

がっしりと掴んだ肩の力が、更に強まっていく。


「………小野順一郎? 誰よそれ。言いがかりもやめて!」

「嘘言わないで? パパを誘惑して、パパとの間に、娘まで作ったそうじゃない?

どう言い訳出来るのよ、パパをたぶらかして娘まで、作って!



_______この女狐が!!」




バシン、と乾いた音が響く。

正気を亡くした心は、脳は、歯止めを利かない。

脳の血管が切れてしまいそうな程に頭に血が昇る。


激昂した千尋は、

繭子の肩を離した後で、繭子の頬を叩いていた。


きっ、と叩かれた頬に手を当てながら、睨む繭子。




「やめるんだ!」




その刹那。

いつの間にか順一郎が来て、千尋を止めていた。

しかし千尋は順一郎の腕の中で暴れる。


「離して!! この女ね。

あたしとママから、パパを誘惑して奪ったのは!!」



娘の暴れる(さま)

阻止出来ず、順一郎は飛ばされ投げ出された。

痛みで蹲る繭子を、正気を亡くした千尋は足で蹴り続ける。



「止めるんだ、千尋! 落ち着け!」


暴れる千尋が、落ち着く気配はない。

発狂しまだ繭子に手を出そうとしているのを、

全力で、順一郎が止めているという状態だった。


荒れた部屋。

壊れた女性。


そんな場に______。




「……………小野さん………?」



呆然と、ぽつりとした声音。



其処にいた人物は、

呆然と、修羅場の惨状を見詰めている。

知人が悪魔の女に足蹴りをし、罵倒している。


もっとやれ。

惨めな姿になっている繭子を、

心の中でそう思ってしまい嘲笑っていた。


(…………でも、どうして?)



追ってきた理香は、そう思う。



「………心菜」



蹲っていた繭子が顔を上げ、口から溢れた。



「…………心菜?」



暴れていた千尋は

ぴたりと止まり、順一郎は唖然とする。

繭子の溢した呟きに、理香へ小野親子の視線が集中した。


・補足

繭子は、千尋の顔を知りません。

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