表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第9章・悪魔が仕組んだもの、天使の秘密
154/264

第152話・協力者が産声を上げる時


『おかけなった電話は電源が切られており、

お繋ぎ出来ません。コールセンターに_____』


耳元に当てた携帯端末から聞こえるのは、無機質な声。

理香はコールセンターに繋がれる前に、打ち消した。



芳久がいなくなった。


それは、まるで神隠しの様に。

電話も2回程かけてみたが繋がらず、

メッセージ送ったはいいが既読にはならない。

彼の住む廃棟にも行ってはみたが、いない様子だった。


会社には有給休暇を取っている。

理事長の息子だから……好きにやっているんだろうとの噂が飛び交う。

芳久がどういう措置を取ったのかは、知らないけれど

もう二週間。青年の姿は全く現れてはいない。



(どうなっているの、かしら……?)



理香は気がかりだった。

余命宣告を受け死を待つ青年が、連絡もなしに消えた事に。

もし何処かで倒れていたら…………。





ずっとどうでもよいと思っていた。

父親は自分自身が嫌いだと。だから次第に生きる欲も

薄れ、捨ててしまう筈だったのだけれど。


淡いランプの光りの元、青年は項垂れていた。

その生気を失った瞳。やがて、床に置いていた手を強き握り締める。


まるで、何かを潰す様な仕草で。



(_____許さない)



泥酔していた後妻の願いを聞き入れる為に

母親の死を早めた、だなんてこと。

冷酷非道な男がやりそうだとは思っていたが、母を殺めた張本人を、


軽蔑すると共に、嘲笑う。

声を殺しながらも悲しむ様な笑う様な泣き声し

そして、青年は人生で二回目の産声を上げた。


英俊を許さない。

あの冷酷非道な男に、勝る位の力を、理事長の地位を奪ってやる。




優子が闘病、入院していた病院にアポを取った。

もう10年前も事だから、カルテが残っているかは不安だったが。


「高城優子さん、ですか?」

「はい。そうです」

「ありました。カルテが……」


優子が亡くなってもうすぐ10年に到達する。

この病院は、過去の患者カルテは10年経つと破棄されてしまうらしい。


優子のカルテも

そろそろ破棄されてしまうところだった。





カルテをコピーして貰い、封筒に入れられ渡された。

中身に入っているのは高城優子のカルテと経過観察を記した紙。


カルテに書かれた患者の経過観察は

緩やかそのものだったが、ある時から険しい結果のグラフが表示されている。

____何故だ?



『私が、優子の死を早めるから』


不意に、芳久の脳裏にその浮かんだ。

死を早めるから、というのは嘘ではないだろう。

現に優子は亡くなってしまった。


何かあった筈だ。

英俊は、優子に何をしたのだろう?



けれど。

母の仇を取らなければ。

そんな事を言うには大袈裟だろうが、自分自身の気が治まらない。


ふっ、と芳久は嘲笑う。



「…………」


(______父さん。貴方のお望み通りに、俺は後を継ぎましょう。

でも。俺が理事長になる時には、貴方を惨めに落とします)


理香に、復讐の手段を手解きを受けよう。

復讐の事ならば、彼女の方が大先輩なのだから。

………それと復讐を始める前に、まずはやるべき事がある。




「______僕、手術をします」




診察室。

そう宣言した青年に、主治医はやや驚いた顔をした。

余命宣告を受けても、手術を受ける様に促していた時

その気はなかった青年が、手術を決めたのだから。


主治医は、芳久の顔を見た後で

脳のMRIのレントゲン写真を、凝視する。


「_____奇跡的でしょう。

今のところ、現状は前とは変わりません。

けれど転移の可能性が高い。早めに手術をしましょう」



全ての準備は整った。

今からすぐに変える必要事項はなく、今まで通りに生きていれば良い。

じわりじわりと父親に従っているふりをして、母親を殺めた父親を責めれば。


母親が、何故亡くなったのか。

父親の、『死を早めるから』というのは、なにを意味するのか。


夜の帳の中、久しぶりに自室へ、

プランシャホテル廃棟の自室へ帰ろうと歩く。



嫌だったのに、身辺整理が重なりいつしか

居心地の悪い高城家へ2週間も滞在していた。

そう思うとぞっとしたが、


もう高城家に来る事もないだろう。



プランシャホテルには、

ドームの広さのある公園を横切る。

裏地の道をぼちぼち歩きながら、空を見上げていたが


ふと前を見た瞬間。

向こうから、此方に来る人影に気付いた。

最初は影で誰か分からなかったが、街灯の光りで相手が浮かび上がる。


「…………理香?」



ぽつり、と呟いた声音。

すると相手は驚いた顔をして、ゆっくりと此方に来る。

足が驚いて微かに震えていたのは分かっていたから、

此方から距離を縮める。


「………久しぶり」


柔らかい表情で告げると、理香は驚いたまま

呆然としていた、が。



「………芳久、なの?」

「失礼だな。驚かなくても、俺だよ」


心配そうに見詰める理香に、芳久は笑う。

何故だろう。計算の上でしか笑みを浮かべる事は

ないのに、彼女の前だと自然と顔が綻んだ。



「………大丈夫?」

「………うん。“今は”」

「………そう」



伸ばしかけた

細く形の良い指先が、触れる事はなかった。

そんな芳久に理香はまだ心配そうにしている。


「ねえ。理香。

相談があるんだ。少し話を聞いて貰ってもいい?」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ