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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第2章・12年後の思い
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第12話・核心の思いと決意の誓い



夜の街の夜景は、酷い程に、鮮やかだった。

ホテルから伺える景色を目に焼き付けた時、

不意に窓に反射して写る自分の姿に気付く。


(______酷い顔)


緊張が走ったままの、暗い顔。

あの裏事情を知ったあの日から、ずっとこの表情のまま。

目の下に出来た隈は、衝撃的な事実を知って眠れなかったからに違いない。


重く気怠い思考の中で

自分の姿に、心の中でそう思った。

人のせいにするものではないが、あの悪魔の事になると

自分自身の表情はこんなにも変わってしまうのかと、理香は段落する。


絶縁してから、12年。


もう関係無い。忘れたいと、思い続けてきた。

時を重ね記憶が遠くなるに連れて(ようや)

“椎野理香”としての人格を確立してきた自分自身は、

あの操り人形の奴隷同然の様な生活から抜けだしたと

ずっとそう思っていたのに。


けれど心内では、未だに束縛されている。

それは変わっていない。


(______私には、まだ森本心菜から抜け出せていないの?)


染々と自分自身は

ずっと弱いままだったのだと今更ながら、そう実感した。


(……………私は)


そっと窓鏡に映る彼女に手を伸ばし、窓には指先が触れる。

窓鏡に映る彼女も同じ動作をし、窓鏡に指先に触れていた。

当然だが窓鏡に触れる指先から伝わるのは、無慈悲な冷たさ。


悪魔の様な、あの女。

その悪魔に操り人形、奴隷の様な自分自身。



あの言葉を聞いたから

何かを知らせるかの様な、胸のざわめきすら治っていない。

彼女には、心が締められる如くの苦しさが続いていた。




あれから、エールウェディング課とJYUERU MORIMOTO(ジュエルもりもと)との提携経営の話は順調に進み、もう決定と言っても過言ではない。

それが決まった中で、理香の心は言葉には出来ない

複雑な渦を巻き続けていた。


提携経営する。

そうなれば、いつか、嘘は明るみになってしまうのだろうか。

あの日に壊れたままの、偽りで固めた自分自身を。


そんなことよりも、

あの悪魔といずれ接触してしまう事が理香にとって怖くもあり、恐ろしかった。

自分自身が心菜だと知られれば、繭子が無視する筈がない。大人しくいる筈がない。


悪魔に会えば、自分自身の憎しみの理性が外れてしまうだろう。

紛れもなく自分自身が森本心菜で、森本繭子の娘だと知ってしまったら……。

自分はあの悪魔に連れ戻されて、また操り人形の様な生活になってしまう。


そうなってしまったら、またあの日に逆戻りになってしまう。

毒母は実娘を人間として、実の娘としてさえ扱ってはくれない。

そうなったら、自分自身の積み上げ組み建ててきた物も全て無かった事になる。

全てが崩れ水の泡になってしまうのだ。


森本繭子の元に戻る事は、

“操り人形として、自由を奪われ生きること”を意味する。

それだけは避けて置きたかった。


__________では、どうすれば良い?




そう思った時、突然

傍のナイトテーブルの置いていた携帯端末が音とともに震え出した。

素早く手に取って、耳に当てる。



「はい」

『椎野君かい?』

「はい主任。椎野でございます。何かありましたか?」

『ああ、聞いてくれ。さっきの会議で我が社と

JYUERU MORIMOTOと提携経営する事が正式に決まったよ』

「……………」


その言葉に、呆然としてしまう。

決まったということは、接点があると決められた事だ。

これからプランシャホテルには、悪魔が交わるのだろう。


そう理解した刹那。

悪魔が関わる事になるのならば。

此方も弱音を吐いて怯えている場合ではない。


腹の底から沸き上がる感情。

そつなく会話を交わして通話を終えてから、

理香の生まれた決心は、地を固めていると気付いた。


(…………このままではいけない)


心菜の哀しみの片鱗が、理香の心に影を落とす。




刹那。腹の底から沸き上がる感情。



答えは、出ている。

戻りたくなければ、それに抗うしかない。

あの日、本当の“自分自身の意味”を思い知った瞬間に、生まれたのはたった一つ。





復讐。



その二文字だった。



唯一出来る策。

自分自身を守る為に抗うとともに、母という悪魔に仕返し出来る方法。

今まで奪われてきたのなら、その分、奪い返せば良い。


怖いと思っていた念が、滲む様に変わっていく。

これは、絶好のチャンスではないか。



「__________決めたわ。私、もっと強くなる。

あの女にまた奪われてしまうというのなら……」



鏡越しに写る自分の姿に微笑する。

そうだもう、あの弱かった森本心菜じゃない。今は椎野理香だ。

そっと鏡に指先を置いて微かに動かすと、彼女は、誓いを呟いた。


まだ、間に合う。

絶対に、二度と同じ過ちを繰り返しはしない。




「奪われたものは、奪い返すわ」







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