表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第9章・悪魔が仕組んだもの、天使の秘密
148/264

第146話・忠犬のふりをした狂犬



まさか自分自身の身元も

記者に此処まで探られてしまっていたとは。

理香は暫し、思考を巡らせた後で、


「_______言った筈です。

私は、“あの社長に良い感情は持っていない”と」

「それは解る。だから、あそこまで追い詰めたんでしょう?」

「ええ」


理香の表情は、微塵も変わらず冷静沈着なままだ。

けれど一瞬だけ伺えた冷酷な声音。


何処かで警戒されているのは理解出来る。

なるべく事を荒立てず、相手を丸く収めるのはそれ相応の話術が必要だ。



「ただ、頭の良い貴女ならお分かりでしょう。

記者は人の内情を暴き、其処に土足で踏み込む生き物である職種だと」

「…………」


「森本社長から目をかけられていた、とまでは解りません。

ですが確かにJYUERU MORIMOTOの騒動の際も、社長の傍に居りました。


お尋ねを返す返答で申し訳ありませんが

私の内情を知ったところで、どうするおつもりですか?」

「……………」


健吾が黙る側になった。

けれど繭子を蹴落とし、佳代子の秘密を知るには

この目の前の女性が何かしら関わりがあるに違いないだろう。

引くわけにはいかないのだ。

此処で諦めてしまえば、前には進めまい。


「貴女の情報は、秘密裏です。

敢えてわざわざ公開理由もないでしょう。

私は森本繭子、JYUERU MORIMOTOの事が明らかになれば良い。

貴女の事に、興味はありませんよ」

「………私の内情を明かさない、それは約束出来ます?」


理香は冷静な物言いで尋ねながら疑いの眼差しを向ける。



安易に人は信用出来ない。上辺の関係ならば尚更。


人の言葉を簡単に信用出来る訳でも呑み込める訳でもない。


だが、それ程に警戒をしないと己を守れないのだから。


今も尚、警戒を見せる理香に健吾は身を乗り出した。



「ええ。約束しましょう。それに申した筈です。

私も森本繭子には良い感情は持っていないんです」

「……………」


健吾の言葉に、理香は微かに驚く。

確か、前に会った時もちらりとそんな事を呟いていた。

あんな切ない眼差しを見せた表情、

呟いていた言葉を脳裏に霞め思い出すと、忘れられない。

だからなのか。



「______それが、

私のリーク情報を受け入れて下さった理由ですか?」



そう尋ねると、健吾は気怠い面持ちを抱えながらも

やや微笑を浮かべた。

何かそれは毒味を含んだ表情にも伺える。



「ええ。ですから

貴女から森本繭子のリークを持ちかけられた事は意外でした。

けれど好都合でもありました」

「………」


だから。

憎しみを抱いているからこそ、繭子の裏情報を明らかにしてくれたのか。

それは目を見れば解る。


実際に出来上がった記事も、

自分のリーク以上にえげつない言葉を書かれていた。

言わば、自分が思っている繭子の感情も自分と同じなのだろうか。



「だから、貴女の気持ちも察します。

かなりご執着があるのではないですか。でないと

人一人をあそこまで蹴落とす事は出来ない」


探偵の如く、健吾の事はそう探る。

信じた訳でもない信じるつもりも殊更無い。けれど。

大概、この記者も、森本繭子に対して何かあるのだろう。


「もう一度、お聞きします。

貴女は何故、森本繭子しか知らない裏事情を知っているのですか?

貴女は一体、何者なんだ」


「………………」



(______降参だわ)



話すつもりもなかった。

けれど記者に此処まで悟られてしまったら、隠れそうにもない。

この”切り札”は差し出すつもりも、明らかにさせるつもりもなかったが。


「………本当に、私は秘密裏にいられるのですね?」

「はい」



理香は、一呼吸を置く。

そして、口を開いた。



「………これは、話すつもりはなかったのですが」



その蜂蜜色の瞳に闇色の表情が混ざる。



理香は、微笑を浮かべながら、呟く。





「_______私は」




まだ言わないが、

少しの破片を見せて落としてしまおうか。



(_____相手は、どんな顔をするかしら?)



“あの事実”を、告げれば。






「______森本 繭子の娘です」




凛とした顔で、理香は静かに告げる。



その瞬間に健吾は愕然として、固まる。

世界に取り残された様な、時が止まった様な感覚がして

カチカチ、とした時計の秒針だけが聞こえる。



(_____森本繭子の娘?)



健吾は目を見開いた。

そして嘘かと、一瞬だけ思い疑う。



森本繭子には娘が居て、

その娘はある日を境に行方不明になった筈だ。

それは事前に調べて追いた事柄で……。


目の前にいる女性、椎野理香がそう告げたのならば

彼女は、森本繭子の娘という事だ。



母親である繭子には、一寸も似ていない。

けれど佳代子には生き写しな位にそっくりで。

何故、森本佳代子に似ているのだろうと、一瞬思ったが


繭子と佳代子の関係を思い出した時

全ての点と線が繋がってしまった。



(______近くに見てきた、というのはそういう事か)



娘ならば、母親を近くで見た事に違いない。

佳代子に似ている理由は、”そういう理由“。


「母を落とす為に私は、

白石さんに情報をリークしたんです。

母を落とす為なら手段は(いと)いません」


目の前にいる端正な美貌に浮かんだのは微笑。

一瞬、違う人間にも伺えて、冷酷な天使に見える。


(意味有りげな微笑が何を意味するのか)


彼女が、母親を奈落へ突き落とした理由は?

何故、娘だと告げたのに名前が違うのか。

でも浮かんだ理由の数々は、彼女の浮かべた微笑が答えを出している様にも見える。



全てを悟った瞬間に、椎野理香という人間が、

森本繭子の情報と、佳代子の事も、謎が解けた様な気がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ