表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第9章・悪魔が仕組んだもの、天使の秘密
146/264

第144話・父親への執着





「………妹? 私に妹が居るの?」



千尋は呟く。


順一郎の言葉が脳内に響いた。

けれどそれを認めるのを、千尋の心が拒絶する。




自分自身には、腹違いの妹がいる。

驚く事に順一郎は愛情との間に娘を儲けていた。

単なる“腹違いの妹”だけならば、気にはしない。けれど。



森本繭子の娘。

彼女は、森本心菜。

遠い昔、自分自身が自分勝手にも

激しい憎しみと嫉妬を抱いて、虐めていたあの娘。


(_____心菜が、私の妹?)



順一郎は何も言わず、静かに頷いた。

順一郎の悟り切った表情を見た瞬間、千尋の中で

ドミノ倒しの如く何かが、崩れて壊れ始めた。



「…………あはは」


掠れた嘲笑が聞こえた。俯いている女性の表情は伺えないが

その渇き切った笑いが、雨粒の様にぽたり、ぽたりと溢れていく。


リビングルームに、沈黙が走る。



_____その刹那。




「ああああああああ____!!!」


狂気に満ちた声音。

千尋の叫びが豪邸内に響き渡る。

先程、己が花折った花瓶を、順一郎に向かって投げ付けた。


千尋が投げた調度な花瓶。

その花瓶は順一郎に当たり、そして壁に激突する。


ガシャン、と硝子の割れる狂喜の音。

床にばらばらに砕け散った破片と、少しの水滴。

その後を追う様にぽたりと雨粒の様に落ちた赤。


赤は、順一郎の血だった。


投げられた花瓶の破片が、順一郎の額に当たっていており

額からは一つの線が浮かび上がり、血が流れている。

額の痛みと流れる赤を押さえながら、順一郎は呻く様に



「千尋、落ち着きなさい……話を聞いてくれ……」


と呟く。


だが、“腹違いの妹” ”腹違いの妹“がどんな女か

知っているせいか千尋の瞳は正気を失った。

(やが)て絶望から狂気の色が心に移り、表情も毒の様な狂気的なモノを交えている。

そんな見たこともない表情を浮かべる娘に、順一郎はぞっと悪寒を覚え、腰を抜かした。




「ふざけるなあ____!!」



千尋は、狂気の声音を撒き散らす。

心にある喜怒哀楽が全て混ざり合い、どう表していいのか分からない。

まるで何かに憑依されたかの様に、千尋は手当たり次第に物を倒し、壊していく。





(パパの全ては、森本繭子だった)



順一郎が大切なのは、

娘の自分でも、妻である母親でもなかった。

たった一人だけ。愛人として身を置いていた森本繭子だけ。




その女との間に娘を作っていたなんて。



妹がいるなんて、信じたくなかった。

それも自分自身が嫉妬を抱いて虐め抜いた森本心菜。

_______彼女が妹が、自分自身の異母妹だったなんて。




狂気を抱き狂った感情は留まらなくて、

千尋はただただその感情を父親へとぶつけ、物に当たる。


「パパが大事なのは、私でもママでもないんでしょ!」

「それは違う!」

「何処が違うのよ!」


狂気に狂い、そう叫びながら、

順一郎の前でローテーブルを振り下ろした。

間一髪で千尋によって振り下ろされたローテーブルを避け

順一郎は額を押さえながら、狂気に満ちた娘から逃げ回る。


何処かで違和感を感じていた。

資産家の、不動産王の娘として何一つ不自由もなく大事に育てられ

一身に両親からの愛情を独り占めしていた筈で、愛されていたのに。

けれど、順一郎の眼差しは何処か複雑だった事を。


それが、その複雑な眼差しの理由が、“今”解った。

順一郎の心に居るのは千尋(じぶん)ではない。もう一人、繭子との間に生まれた心菜(むすめ)の方だ。





(………愛されていたのは、妹の方だった)


それが、腹立たしくも悔しい。

本当の娘は、順一郎の傍に居た娘は自分自身なのに、

傍にもいない娘の方が順一郎に目をかけられていたなんて。

心菜が父親の愛情を受け奪っていたなんて。


嫉妬と憎しみ。

脳裏には少女時代に虐めていた森本心菜の、怯えた顔が浮かぶ。

全部奪っていたつもりだったけれど、本当は


(あたしのもの全て、心菜に奪われていた)



何故?

本妻の娘は、自分自身なのに。心菜は、愛人の娘なのに。

順一郎は本妻の娘を蔑ろにして、愛人の娘ばかりに視線を向ける?




「あはは……あはは……………」



哀しみ、憐れみ。憎しみ。

順一郎にとって、自分自身なんてどうでも良かったのだ。

千尋は正気を失い狂気に狂いながら、嘲笑う様に泣いて、

その瞳からはぽたり、ぽたりと雫が零れる。


壁に飾っていた絵画は、

ローテーブルを持ちながら狂気に狂っていた千尋により

ローテーブルの脚で硝子がぶちまけられ、絵画は形を無くして

絵と硝子がバラバラ木枠は歪んでいる。


ワインセラーにあるワインは、

ローテーブルの脚により全てのワインがぶちまけられ、

その微妙に色彩の違うワインの色がカーテンや、ソファーに染みを作り、

複雑な赤色は、人間の鮮血の様に鮮やかだった。

その地獄画図と化したそれは、絵の具に扮して絵でも書いたと言わんばかりに。


リビングは物が壊れ、散乱している。







「ねえ、パパ?」



その硝子の破片を握る。

途端に痛みが走る。けれど、狂気により正気を失った女にとっては、そんな事はどうでもいい。


硝子の破片を握り締めた、その華奢な手は赤に染まり

ぽたぽたと、床に赤の雨粒が零れていく。

ふらり、ふらりと覚束無い足取りで、父親に向かって歩き、父親の前で止まると


「パパにとって、大事な娘は、どっち?」



正気を失った、狂気に満ちた声音。

夜空の光りに照らされたその表情は、なんと言えば良いのか。

こんな娘の表情は見たこともなかった。




「私なの? それとも、心菜?」



「……………」



「答えないのね。なら、」


沈黙が答えになっている、という事だと解釈した。

千尋ではなく心菜の方が大事、という事だ。



「心菜に向けられている視線を、私しか見れない様にしてあげる!」


「_____止めろ!」



狂気に満ちた表情と、叫び。


心菜に向けられている視線を、

自分へ移すのなら、手段は厭わない。



握りしめた硝子の破片。

硝子の破片という鋭利な刃物を、自分に向けた千尋は_____。



第145話になっておりました。

申し訳ございません。(現在は訂正しております)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ