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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第9章・悪魔が仕組んだもの、天使の秘密
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第140話・陰謀の蜘蛛の糸



それは、唐突だった。



『___椎野理香を JYUERU MORIMOTOから解雇します。

金輪際、JYUERU MORIMOTOに入る事は許しません』


繭子の言葉に英俊は、驚きを隠せない。

突然にしてかかってきた電話は、唐突で、いきなりも甚だしい。

__森本繭子が、椎野理香を解雇するというのだから。


「かなり唐突だと

思いますが………椎野が何か不手際でも犯しましたか?」


森本繭子からの電話を久々だというのに、

以前の弱々しい声音とは違い、相手の声音は強気だった。




英俊は唖然としながら、電話越しの女社長に伺う。

都市の活気付いた街は眠る事を知らず、鮮やかに夜の世界からはネオンの光りは消えない。

繭子は社長室から見える夜景を見詰めながらも、険しく不機嫌な表情を浮かべている。


(____早く、椎野理香を遠ざけないと)


彼女を置いていれば、自分の身が危ない。

このまま自分のお城が惨めに晒されて行くと思うと耐えられない。

繭子は据わった声音で、告げた。



「__ええ。彼女には期待していたのに

あたしが思っていた結果も出さず、残念ですわ」



“優等生の塊”である、椎野理香の株や価値を落としてやる。

良い社員の面をしていただろうから、相手は打撃を受けるだろうに違いない。

自分自身の地位を危うくする者は許しはしない。

それが、憎しみを抱く異父姉に似た娘なら、尚更。



「分かりました」



(____何故だろうか)



電話を切り、英俊は首を傾ける。

椎野理香は非常に優等な社員で_森本社員のお気に入りだと思っていた。

その名の通り、JYUERU MORIMOTOでも良い成績を残していた筈だ。

なのに。


JYUERU MORIMOTOに数人、兼任や派遣として

人を送ってはいるが、椎野理香だけは特別で別格だった。

何せ彼女は他の社員とは違い、女社長の強い推薦により、

兼任社員となったのだから。





派遣先の会社を解雇されてしまったら、普通は嘆くのだろうか。

失望感を覚え落ち込んでしまうのだろうか。


信じられない程に、心は無情だった。


単に昔に戻ってしまっただけ。

プランシャホテルのウェディングプランナーとしての役職に。

あの頃に戻り帰ってきただけだろう?



理香に、浮かんだのはそれだけだった。



しかし批判を受けるのは、承知の上だった。

今頃、プランシャホテルでは“派遣先の会社を解雇された女”として噂が広まっているだろう。

その批判を浴びる覚悟の腹を括り理香はプランシャホテルに出勤した。


(___良いものではないわよね。これは)


無断欠勤。

周りには言わないけれど、復讐心から相手の会社を潰し壊した。


理香は既に腹を括り据え

批判的な声も受け入れる心構えであった。

あまりにも解雇されたなんて事は、良い物ではないから。


けれど、周りの反応は

理香が思っていた物と360℃違うものだった。



「椎野君、良かったね。大変だっただろう」

「あの不手際続きの会社から解放されて正解だよ」

「JYERU MORIMOTO社には居ない方が良いに決まってる。

椎野さんはプランシャホテルの優等な社員なんだから………」



理香は、唖然とした。

批判を受ける、仕舞いにはプランシャホテルも解雇される覚悟で出勤したというのに。

それとは正反対で、殆どが同情票ばかりだ。

悪口を探す方が難しかった。


(何故、こんなに同情票ばかりなの?)


今時パワハラだの、妬み嫉みだの山積みの世界だというのに。

批判は一つもなく、無く寧ろ良心的で、周りには『あの会社から解放されて良かった』としか、一切言われなかった。

だが。


(___それ程に、落ちぶれたのね。あの女の城は)



周りのJYUERU MORIMOTOに対する評判は、良くない話ばかり。

その悪評を聞くのは寧ろ、復讐者として本望だった。

確実にあの女も会社も信用を無くし、奈落に堕ちたのだと。

そう思えば、自然と内心嘲笑いが浮かんだ。


(____そうよ。貴方は堕ちれば良い。

それが、佳代子叔母さんと私を蔑ろにした報いよ)




___プランシャホテル、理事長室。



英俊にとって、

椎野理香がJYUERU MORIMOTOから解雇された事は喜ばしい事だった。

寧ろ、胸を撫で下ろしたとでも言おうか。


JYUERU MORIMOTOの評判は、

どんどん奈落へ、落ちぶれて行くばかり。

提携経営としているプランシャホテルにもいつ巻き添えを喰らうか分からない。

相手側の会社がどうなろうと興味は無いが、代々続くこのホテルだけは守りたい。


元々、プランシャホテルとJYUERU MORIMOTOとの提携経営は解消するつもりだった。

そんな落ちぶれた会社に、我が社の優秀な社員を置いておく等、何処か気が気ではない。



「失礼します」



慎ましやかなノック音に、落ち着いた声音。

上品な凛とした面持ちは変わらない。



理事長に呼び出されるとは、尋常ではない。

周りはあんな気遣いにも似た言葉をかけてくれるけれど、

プランシャホテルのトップには、そんな同情は通じないであろう。


悪魔に振り回されるつもりは無いけれど

プランシャホテルは別物。念の為に辞職届も持参してきた。


理事長の玉座に座る英俊に、理香はデスクを挟んで前に立つ。

そして御辞儀するかの如く、頭を深々と下げてから


「____この度は、申し訳ありませんでした。

全ては私の不手際です」


偽りのない、誠実性のある謝罪。

曲がらない真っ直ぐな謝罪の姿勢と物事低い物言い。

提携経営の会社から解雇された、というのは自分の不手際であろう。

そんな理香に、英俊は静かに告げる。


「___頭を上げなさい」

「……………はい」


理香は英俊の言う通りに、頭を上げた。かなりの緊張が走る。

英俊は威厳のある、厳しい面持ちをしていた。



「良く聞きなさい。

今回の件は確かに君の不手際だろう。


だが。君はこの会社に深く貢献している。

君の様な優秀な社員は滅多にいないのは如実だ。

君がJYUERU MORIMOTOで勤めている間、此処での仕事は疎かになっていた」

「……………」


英俊の厳しい面持ちに、微かに微笑の色が混じる。



「君がJYUERU MORIMOTOから身を引いた事は良かった。

これからは、元通りにプランシャホテルの仕事に専念しておくれ」

「___はい。努めて参ります」




(___どうして?)



内心で浮かんだ疑問。

悪魔に清々しながらも、プランシャホテルの人々は何故、

自分自身を責めずに加護してくれるのだろうか。






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