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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第9章・悪魔が仕組んだもの、天使の秘密
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第138話・悪魔に迫る足音



「改めて聞くわ。

佳代子は“消えたのではなく”、“消したの”? __貴女が」



佳代子は__“亡くなった”のではなく、“殺された”。

前から疑いを抱いていたけれど、繭子が口を滑らせた言葉に、後者だと気付く。


繭子は、言葉を詰まらせた。

先程の威圧感のある威勢は何処へ行ったのか。

途端に流れる重い沈黙が、空間に流れる。



「……………………………」


(___やっぱりね)


繭子は何も言わない。

否。この沈黙が問いかけの答えというべきか。



「どうしたの?

何も無いなら、堂々としていれば良いじゃない?

それを何故黙り込むのかしら?」


理香は、冷静にそう告げた。

煽っている。確実にそう取れるが、これも理香の計算内。

繭子は言葉を失っていたが、煽られていると気付いた刹那に、頭に来た。


「佳代子と一緒になって、あたしを苦しめるつもりなの!?

大人になったからって良い気になって!」

「___……………」


「そうね。

私は貴女を苦しめるのよね? けれど自分自身だけ

苦しめられているなんて思っているなら、とんだ被害妄想にも程があるわ」


何時も周りを敵にして、自分自身は悲劇の気取り。

慣れているつもりだ。理香の佳代子にそっくりな容姿が苦しめている事も。

けれど自分自身が繭子を苦しめる前に、心菜は理由も知らず

ずっと苦しめられてきた。


昔は恨めしく思ったかも知れないが、

今の理香にとっては、この佳代子と同じ容姿や性格が好都合だ。

寧ろ有難いとすら感じた。


この容姿は、

悪魔を苦しめ追い詰めるには、十分な材料なのだから。

理香は微笑を含みながら、冷静に言葉を紡いで、一歩だけ歩み寄ってみせた。


「私は真実が知りたいだけよ。

どうして、無実のあの人が亡くなる事になったのか。

どうして、心菜を殺して私が生まれたのか。


それを知る為には、手段なんて選ばないわ。

例え貴女を苦しめる結果となっても、ね?」


(___この女は何様のつもりなの。あたしを苦しめて何がしたいの?)


心は強気だけれど

理香の存在感に、浮かべる頬笑みに、心身が震えている事に繭子は気付いた。

恐怖にすら感じて体も、口すらも、感情のままに動かせない。


その浮かべる頬笑みが、おぞましい。

いつの間にこんな微笑を、表情をする事を覚えたのだろう。

繭子にとっては酷い違和感となって、色濃く痕を残す。


繭子はぞっとした気分になりながら、理香を見た。

辺りに散乱している物は何もかも一色になって、

空間に溶け込んでいるというのに彼女の存在感はくっきりと現している。


長い髪に、凛とした顔立ち。

華奢なすらりとした出立ちは、整っているとしか言えない。

絵画から抜け出してきた人形の様な人物は、何処か人間離れしている。


(____誰なの、誰?)



佳代子でもない、心菜でもない。

この女は何者なのだろう?


未だに沈黙を貫いている繭子を見れば

自分の思い決断した事と同一という事なのだろう。

佳代子の死に、やはりと腹を括っていた為に驚きは無いが、


嘲笑う様に、理香は煽る。



「いい加減、白状したら良いのに。

佳代子は、自分が殺めたと。その方が楽にならない?」

「勝手に決め付けないで!」


繭子は、声を荒げた。

言葉が上手く浮かんで来ない。今の繭子には声を荒げる事しか出来なかった。


「大体、何処に証拠があるのよ!

佳代子があたしの姉?じゃあそうだと言う証拠は?

あたしが佳代子を殺したなんて証拠なんて何処にも無いじゃない!!」

「____…………」


そうだ。

心菜は知らない筈だ。佳代子が姉だと言う事も。

少女の耳には一切入れていなかったのだから、彼女の単なる狂った妄想にしか過ぎない。



(___否定に入ったわね)



焦りが、切羽が詰まっている事は見え見えだ。

言葉を紡いでいく内に自分の首を絞めている事を、繭子は気付く暇もないだろう?


「言った筈よ。“何も無いなら堂々として居られる”と。

けれど貴女はどう? 挙動不審で焦ってばかり。逃げようとして見苦しいわ。

何をそんなに焦っているのかしら? 無関係なら何故、そんなに声を荒げる必要がある?」

「それは、あんたがあたしを急かすからでしょ!

勝手な思い込みで苦しめないで頂戴!」


異性とは反対に、冷や汗が浮かぶ。

繭子にどんどん表情が失せ、余裕が無くなってしまう。

逃げ場が無い程に追い詰められていた。

焦りを覚えていく繭子とは反対に、理香は変わらず冷静沈着なまま。


「思い込みなら

どうして、佳代子の日記や服を隠すのかしら?

それは見つかれば自分にとって不味い事があるからじゃない?

だからそんなに焦っているんでしょう?


それに証拠ならあるわ」

「何処に!? あるなら言って見なさいよ!?」


証拠は全て消した筈。

佳代子に関わった人間、思い出、全て闇に葬った。

誰にも知られない様に。奴さえ消えてしまえば良かったのだから。


繭子には、焦りながらもバレない絶対的な自信があった。

けれど何故、日記だの服だの彼女は言っているのか。

逃げ場の無い繭子に理香は煽る様に微笑を浮かべた。



「_____その証拠なら、“貴女”と“私”よ?」




だから。

そろそろ正直にならない?




そう言われて、ぞっとした。



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