表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第9章・悪魔が仕組んだもの、天使の秘密
139/264

第137話・隠されていた陰謀の欠片



繭子の不幸は、二つだけ。


一つは、森本佳代子が異父姉だったこと。

二つは、森本心菜が娘だったこと。


それだけだ。




「あんたなんか、産むんじゃなかった……!」



繭子の本心に理香は嘲笑う。

嗚呼、何処まで自己中心的なのだろうか。



「そうよね。

貴女にとって、私は失敗作でしかないでしょうね」

「_____………!」



「自分だけ幸せになれれば、

満たされれば良いんでしょう、貴女は。

自己欲を満たす為に周りを潰して自分だけ幸せになろうと?」



冷静沈着で感情を出さなくなった理香の表情が読めない。

だが珍しく変わらず、その声音には熱が籠っている。

それが繭子には意外であった。


「いつもそうだったわね。

周りを蔑んで威圧して自分だけ幸せになる。___最低な女」


語尾にどす黒い口調を籠らせながら、理香はそう吐き捨てた。

理香の言っている事は的確だが、繭子は耳を塞ぎたくなった。

誰でも自分の不都合は認めたくはないのだ。


繭子が言葉を詰まらせ、

自信有りげな表情から不穏な表情に変わる。

理香はそれを分かりながらも、話を止めずに続けた。


「そんな貴女の本質を知らずに

振り向いて欲しいと操られ続けた私が馬鹿だったわね」


理香は蹴散らすかの如く微笑する。

それは強気な物言いながら、悟りつつも何処か後悔する様な

口調と寂しげな表情と眼差し。その表情は美しくも儚い。

それは触れれば壊れてしまう陶器の様に脆く映った。


「でもね?

私を責めるのは、お門違いではないかしら。

貴女の計画を潰したのは、貴女自身よ。

自分だけ幸せなろうと目論んだ、貴女の単なる身勝手な___“独りよがり”」


繭子の悲劇は、自分自身で招いたもの。

理香が責められる筋合いはない。


(私は、馬鹿だった)


愛されたいと

振り向いて欲しいという欲に渇れ、必死だったあの頃。

現在(いま)思い振り変えれば全てが無駄で、抱いた無垢な愛情の渇望は操り人形として

利用されすぐに泡として消えてしまう物だと。




「佳代子さえ消えれば、居なくなれば良いと思った?」



繭子は、黙って聞いていたが。やがて、



「アイツが!」


繭子は叫ぶ様に吐き出した。

繭子の目は血走り、表情は鬼の様な形相と血相に変わった。

まるで鬼が憑依したかの様に。


(____本性が出たわね)


やはり、この女は欲望の塊。

もう少し追い詰めれば、佳代子の事を吐き出してくれるだろうか。

理香は内心で微笑を浮かべつつ、冷めた眼差しで繭子に視線を向けている。


「佳代子が全部悪いのよ!

佳代子があたしの物を奪ってばかり。苦しめるの。

いつもあたしを惨めに晒すから……!あたしはいつも惨めだったわ。

佳代子が居たらあたしの存在が薄くなるばかり」


本夫の子として生まれた佳代子とは反対に、自分は愛人の子。

周りは、特に母親は___佳代子にばかり目をかけて、彼女の才能を称えた。


いつも主役は、自分自身ではなく佳代子。


佳代子がいる限り、一番にはなれない。

一番になり注目される事に飢えていた。そして、それを望んだ。



「……………自分の事を棚に上げて、

自分自身を悲劇のヒロインにするのね。相変わらずだわ」



ふっと、悟り笑う。

この女は変わらない。



「だからあの日、清々したわ。佳代子が消えたんだから。

あたしが、あれだけ用意した甲斐があるって」



「____…………え?」


理香は、呆然とする。

けれど、聞き逃しはしなかった。



(____“あたし”が用意した?)


用意した甲斐がある、とは何だろうか。

佳代子は不慮の事故死から命が奪われた筈だ。それなのに。

基本は不慮の事故死を、“用意した”とは言わないであろう。





仕事中、携帯端末に連絡が入った。

仕事の手を一端止めて、健吾は連絡の入った携帯端末を取り出す。



“______森本佳代子の家族構成の情報を送ります”



三条富男から送られてきたメール。

送られて来たそれは、自分自身が最も欲しがっていた情報だった。

森本佳代子の知り合いがあたれない以上、警察機関に頼るしか方法はない。


健吾はスクロールをしながら、内容を見る。


森本佳代子には、両親と7つ下の妹が一人。

“森本”という名字に目を遣いながら、健吾は注意を払いつつ見詰める。

名字は気になる為に、この件だけは見逃せない。


両親の情報を凝視した後に、妹の情報が映る。


“氏名:森本 繭子 事故当時:20歳

事故当時大学二回生。姉が事故死した日には大学の講義を終えて、友人の家に泊まっていた。友人宅から帰宅した翌日に姉の訃報を知る”


健吾は目を見開く。そして項垂れる。

森本という名字を怪しんでいたが、まさか予想が当たるとは。

……………………佳代子の妹が、森本繭子だった。





繭子の言葉を、理香は聞き逃しはしなかった。

理香は呆然としながら、繭子を見詰める。


「用意した?

用意したって、どういう事?」


もしかして。

あれは事故死に見せかけて、本当は違うのだろうか。



(___しまった)


理香に問いかけられ其処で初めて

繭子は、自分自身が口を滑らせてしまった事に気付いた。

つい感情的になり言葉を吐き出してしまったのだが、もう叫んだ言葉は仕舞えはしない。


理香は少し凝らした表情をし、険しい眼差しを向ける。

繭子ははぐらす為に睨んでみたが、理香には通用しなかった。



「____聞いてどうするのよ。あんたには関係無いでしょ?」

「関係無い? どうしたの、急に手のひらを返して。

私とそっくりな、憎い人間なんでしょう? 十分、関係と思うけれど」

「__あんたは知らなくて良いのよ!」


繭子は急に感情的になり、声を荒げた。

繭子の表情には明らかに焦りの色が、伺え始める。

明らかに怪しいと理香は内心で睨んだ末に、弱味に付け込んで身を乗り出した。


目の前には、

椎野理香が背筋が凍る程の微笑を浮かべ、首を傾けている。



「___知りたいの。私とそっくりな人だから。

貴女が私を壊す程に執着して憎んでいる事、見逃せない」



疑念が確信に変わる。

きっと森本佳代子は不慮の事故死で亡くなったのではない。

ならば。



「改めて聞くわ。

佳代子は“消えたのではなく”、“消したの”? __貴女が」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ