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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第2章・12年後の思い
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第10話・動き始めるきっかけ




“私には、一人娘がいるんです。

ですが娘が高校卒業してから、しばらく交流をしていましたが

約12年前から、音信不通になってしまって今では行方知れず

なんです。

娘も大人になり自立したからと思っていたのですが、

やはり母親としては、娘がどうしているのか、気になってしまって心配なので、最近、娘のことを捜しています”




________馬鹿馬鹿しい。



身に染みる程に、そう思った。

此処に書かれているのは、“娘の存在”以外全部嘘だ。

自分自身はあの日、自ら計画を組んで待ち侘びていた高校卒業後の次の日に夜逃げ同然に家を飛び出したっきり、

母親に会ってすらいない。


悪魔が今、どう過ごしているのかは予想はしても、

悪魔の現実を見たいとも思わないのが本心だ。


(………当たり前の様に、嘘ばかり並べて)


くす、と理香は笑う。

それは戯言を笑う様に。


“華やかな女社長”は

自分自身は如何にも、娘を心配する母親を装って、幾度でも偽りを並べ尽くす。

本当は一人しかいない娘を思った事も、自分自身の家庭を顧みた事もないのに。

実娘を心底憎み、精神的虐待を繰り返していく事しか、悪魔は実娘対して、それしか出来ないのに。


あの悪魔は、

嘘を書いてまで自分自身の地位と評価を上げたがる。

その為に吐いた偽りも、事実にまで変えてしまう。

けれどこれも自分自身の地位を上げ、事実の評価を上げる為の道具に過ぎない。

理香には分かっている。


自分自身は、操られていると。

あの悪魔に付き合わされるのはもう懲り懲りだ。

『森本繭子の娘思い』 な文章を、頬杖を着いて薄ら笑いを浮かべる。

だが。



(けれど、この事実が本当なら?)



そんな考えが、脳裏に浮かんで、理香ははっとした。


12年前に行方知れずになった娘を捜しているというのは

嘘ではなく本当の様な気がして、胸がざわざわとし始めた。


自分自身はあれだけ憎まれ蔑まれてきたけれど、

今更になってこんな“娘を心配する母親”を急に出してきたのは、嘘ではない気がした。


これが本当の事で

もし見つかって、悪魔は娘をどうするつもりだろう。

そう考えて眼を閉じ一瞬で答えは、直ぐに出てきた。

きっと____。



自分自身を利用するに違いない。



切れない血縁の束縛。

離れても、その娘とは、自分自身なのだから……。








「出張ですか?」

「そうだ。まあ、派遣みたいなものだがね」


主任の言葉に、理香は意外と思ってしまう。

出張などしたことがない。むしろ派遣なんて事はまっさらだ。

社会人として入社して数年、プランシャホテルから、

エールウェディング課から、飛び出した事もない。


思わぬ事に漠然としながらも、理香は上司である主任に尋ねた。


「私は、何処へ出張するのでしょうか?」

「ああ、それなんだが……」


主任は、タッチパネル式の端末で何かを検索すると

理香の前に映された画面を、差し出した。

其処で理香は、驚く事になってしまう。


それは、昨日 自分自身が閲覧していたサイト。



「________JYUERU MORIMOTO。

君も知っているだろう。あの宝石会社に出張して欲しんだよ」



JYUERU(ジュエル) MORIMOTO(もりもと)

あの悪魔が頂点に立つ、大企業の宝石会社のトップ。

社長である森本繭子はその華やかな経歴から『ジュエリー界の女王』と呼ばれている程だ。


この会社の名前を聞いて知らぬ者は居ないだろう。



其処に自分自身が行けと?

最初はあの悪魔に会ってしまえば、

昔に戻ってしまう様な気がして、思わず後退りしそうになる。

しかし理香はそれを表には出さずに、冷静に心の芯を保ち見据えた。


「実はだね。

うちの会社と提携しないかという話が進んでるんだ。

大企業のウェディング会社であるうちと、向こうの宝石会社と提携すれば

より良くお客様にも喜んで頂ける。最高の話だと思わないか?」

「………………」

「それに、向こうの社長さんの志向で、君に来てほしいそうだ」

「________はい?」


思わず理香は、呆然としてしまう。

あの悪魔が自ら呼んでいる。実娘だった、自分自身を。

もう姿も名前まで変えてしまったのだから、気付いていないだろうが。



この会社の人達も、知らなくて当然だ。

自分自身が、あの会社の一人娘だということは。


知らなくて当然、自分自身もそれをひたすら隠し通してきた。

12年前に自分自身が森本心菜を殺して、それからは一貫して

椎野理香としてだけ生きている。


だからこそ、自分自身、

椎野理香の本当の素性なんて誰も知らない。


「…………私、が」

「当然だろう。君は我が社で最も優秀なウェディングプランナーだ。

それを知ってね。うちとしても、君に行って来て欲しいんだ」


流石、入社して仕事人間を一貫して

真面目に仕事だけにしがみついて来た甲斐がある。

上司からの期待されている眼差しに、断れない。

それに、自分自身も________。



怖いけれど、知りたい。



あの会社の今を見てみたい。

理香の中で恐怖心の何処かで生まれたにわかな好奇心。

何処かで震えている自分自身が居ると自覚しながらも

その震えを抑えて、理香は、



「分かりました。有難くお受けします」



そう微笑んで答えて見せた。


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