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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第9章・悪魔が仕組んだもの、天使の秘密
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第123話・母娘、立場の違い



繭子は、バンと力のままデスクを叩く。

昂る感情のままに叩いた手には痛みが走ったが、止めどなく

溢れ込み上げて来る憎悪の感情が阻み、痛みは気にならなかった。


ピンヒールの音が響く。

繭子は理香に近付くと、発狂するかの如く



「よくも人に恥をかかせたわね!?」



そう叫ぶ。

娘だと婚約者に紹介し結び付ける筈だったのに、見事に理香は思惑を砕いた。

結果、心菜の存在は否定され、繭子は赤っ恥をかいただけだ。


怒りに震え、怒りに昂る繭子に対して

理香は相変わらず冷静な態度のまま悟り、無情にふっと嘲笑う。


無情な頬笑みを浮かべた理香に、繭子はぞっとした。

娘は、こんな無情な頬笑みを浮かべられる人間だっただろうか。

どんなに記憶を辿っても、心菜にこんな表情は浮かべられない。

____なのに。



「___また、全てを戻したとして

貴女の“娘”が自分の思い通りになるとでも?」

「なんですって!?」


理香の冷めた言葉に、繭子は逆上する。

まだ解らないかと思ったが、娘に対して理解力を示さない女は理解する筈もないだろうと理香は悟った。

自分は、あの弱々しい頃から何も変わっていないと思い込み、思い通りになるとばかり思っているらしい。


(貴女が、異常にそんなに欲張っても無意味なのに_)


自分が娘と解っただけで、また繰り返し操ろうとする悪魔。

例え、心菜が嵌まる罠だとしても、理香となった今はそんな悪魔が仕掛けた漆黒の罠にも掛からない。

否。死んでも掛かるまい。掛かるまい。



「___自分で蒔いた種なのに?自業自得ではないの?


もう昔とは違うのよ。それに私は“貴女の娘の心菜”ではない。

そんな私を連れ戻そうと思っても、思う様に行かないでしょう?」

「何時までもふざけた事を言わないで!!」


繭子は、再び感情に任せ絶叫する。

何故、彼女は冷静なままで居られる? そんな微動もせずに居られるのだ?

凛にしている繭子には、分からなかった。


繭子のヒステリックな怒号は広い社長室に響くが、理

香は微動一つもせず、ただ哀れみ染みた冷めた眼差しで、ただ見ていた。


「良い?あんたは、あたしの娘である以上、

あたしの言う通りにして生きていないと駄目なのよ。

子供なら、親の言う事を聞いて言う通りにするのに_

どうしては、あんたはあたしの言う通りにしてくれないの…!!」


両手で顔を覆い、勝手に悲観に暮れる繭子。

どうして思い通りにならないのだろう? どうして、

目の前の憎い女は娘に自分自身の元に戻らないのだろう?

この女のせいで、上手く行かない事ばかり。



(…………変わらないわね)



嘘ではない。何故だろう。

この女の感情を見る度に、心がみるみる冷めて行くのは。

繭子の仕掛けた罠は、理香には女々しく子供っぽく、

ただ自分自身の思い通りにならない子供が、無駄な地団駄を踏んでいる様にしか見えない。


(哀れで、無駄な抵抗。大人がする事ではないわ。見るに耐えない)



まるで、悲劇のヒロイン気取り。

いつもそうだ。自分自身の計画通りにならなければ、泣き(わめ)き暴れまくる。

大人気ない態度を見る度にますます、心を冷めさせる。


そんな繭子に、理香は変わらない。

手元にあった飾られた花の花弁を、細く綺麗な指先で触りながら目を伏せた後に悟り、冷めた眼差しを注いで嘲笑う。


状況が状況だというのに理香は傍観視するだけで、

身のこなしや振る舞いは蝶の様に、華の様に優雅だった。



「___他人の私が、

何故、貴女の言う通りにしないと駄目なのかしら?」



自分自身でも解っている。支離滅裂なのは。

心菜が繭子の娘だという事は変わらない。しかし、そ

れは森本心菜の使命であって、森本繭子とも、森本心菜とも絶縁した椎野理香である自分自身のする事には見えない。

寧ろ、他人となっている今は、矛盾が生じるだろう?


この女が、自分の思い通りにする為に、

自分を娘という型に嵌め込み戻そうという魂胆は見え見えだ。

そんな穢れた罠には死んでも嵌まりたくはない。



心菜が帰ってくるから、

婚約者同士を面会させるに取ってくっ付けた様に、舞台をセッティングした。

この豪華絢爛な花もその祝いの場の為に、引き立て役として用意された筈だ。

胡蝶蘭の香りは優美だけれど、中には毒が潜んでいるだろう。

これがお祝いの花ならば、自分自身も贈ろうか。………悪魔に向けて。


この理解力のない悪魔には、白爪草の花がお似合いだろう。


「____いい加減、悟って。私は、思い通りにはならないと。

もう森本心菜はいないと。__貴女に残されたのは、それしかないのよ」


(___貴女と付き合う事もないのよ。本当は)


その欲深い我が儘に、もう付き合ってはいられないと呆れながら

悲観に暮れる繭子を置いて、理香は社長室を去った。

理香への憎しみが増殖していくのを繭子は覚えながら




(___許さないわよ…)



自分を屈辱に晒したのなら、見返りを貰わなければ。

憎しみの存在だが、ここまで来ると娘に戻して、自分自身の

計画に従って貰わねば、憎悪に満ちた腹の虫が納まらない。






JYUERU MORIMOTOを出ると、もう空は夜空に変わっていた。

マスコミ関係者はいない。寧ろ、問題児の会社として世間に知れ渡ったせいか、JYUERU MORIMOTOの周りには人はあまりいなかった。



誰も居ない路上。

そんな道を歩きながら、理香はふと立ち止まり、憂いを持った表情で、静かに溜め息を吐く。

吐いた息は白く、やがて空へと消えて行った。


どっと、疲れが来た。

しかし今回は自分自身が悪い。


自分自身が_のこのこと付いて行ってしまったせいで、

悪魔の罠に掛かってしまったのだから。



それよりも

事は、上手く回避出来ただろうか。また繭子が暴れなければ良いが________。

考えても答えは出ないとなるべき様に成ると割り切り、家に帰ろうとした時だった。


電信柱に背を預け、持たれかかっている人間。

長身痩躯のスーツ姿の青年。少し髪がぼさぼさになっている。

しかし、その姿は凛々しく、まるで映画の男優を思わせる姿だった。

彼の灰色の瞳は、遥か彼方の夜空をただ呆然と見詰めている。


見るからに

その整った姿は非常に絵になるだろう。





(___あの姿は………)



理香は一瞬、見惚れただけで

相手に気付かなければ、素通りするところだった。

顔を見て、気付く。__見慣れた青年の、高城芳久だと。



「…………芳久?」

「………理香、か」



一瞬、青年の方も理香に気付いたらしい、

芳久も、理香に気付くと歩み寄った。


「___どうしたの?」

「いや、個人的な用事で此方に用事があって来たんだ」

「……………そう」

「それと」



「昼休みの後から、どうも理香の様子が可笑しかったから。

何かあったのかなって、様子見に来てしまっただけだよ」

「__そう。………わざわざありがとう」


青年は、そう言った。

そして良く見てから、何処かで理香は気付く。

何故だろう。気のせいだろうか。

そう言った青年の、表情や姿が心なしか痩せて、窶れて見えたのは。

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