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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第9章・悪魔が仕組んだもの、天使の秘密
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第121話・悪魔の仕掛ける罠



「待っていたわ。久しぶりね。 __尾嶋さん」

「はい。ご無沙汰しております社長。連絡もせずに帰国し、誠にすみません」

「良いのよ。そんな事は」



そう律儀にお辞儀するのは、尾嶋 博人。

繭子が自ら選んで置いた心菜の婚約者だ。


「___研修。長旅だったわね」

「いいえ。社長の婿になる身としては、逞しい姿で戻ってきたいと思っていましたので平気です」

「それは立派な心得だこと。まあ、座って頂戴」

「__はい」


応接間スペースに、博人は座る。

繭子も社長の玉座から離れ、応接間スペースの椅子に腰かけた。


彼には大事な話があるからと、退社時間_退社する前に社長室に訪れる様にと繭子が釘を指したのだ。

尾嶋を呼び出したのは、他でもない。

“大事な、あの話”を持ち出す為に。





「___あの、話とはなんでしょうか」

「ええ。話しにくい込み入った話でね。貴方を呼んだのは、他でもない。けれど、喜ばしい話よ」


繭子は笑う。

喜ばしい話と聞いて、まだ何か分からず博人は内心で首を傾けた。

そんな青年に、繭子は言った。



「心菜が、娘が見つかったのよ」



その瞬間。博人は目を丸くして呆然自失とする。

突然の事に状況を飲み込めなかった。が、それを理解した途端に、心が弾んだ。


「___娘さん、見つかったんですか?」

「ええ。貴方には待たせたわね。ようやく心菜が見つかったのよ」


博人の表情が明るくなり、自然と微笑みが込み上げてくる。

待ち焦がれていた、好きな人が、婚約者が見つかった。

彼女が見つかったとなれば、婚約から結婚に移る。いよいよ思いが晴れるのだ。



「良かったですね。社長」

「ええ。貴方には待たせてしまったけど。あの子が見つかったから、すぐに結婚に移しましょう」

「はい」


ようやく、思いが報われる。

待ち焦がれていた彼女に会えるのだ。

女社長の娘が見つかったという吉報を聞いて、博人は心底、喜んでいた。





JYUERU MORIMOTO。

騒動の最中に居る会社を億劫な眼差しで見詰め、彼女_理香は目を伏せる。

会社の周りには人っ子一人、誰も居ない。世間とマスコミは勝手に騒いでいるだけの様で、実際は来ていないらしい。





数時間前。

プランシャでの、休憩時間の際だ。

繭子から直接、理香の携帯端末に連絡が来たのは。

慌てて人がいない廊下に隠れると、理香は連絡を取った。





『はい』

『心菜』


心菜、と聞いて、頭に来たのは気のせいではない。

捨てた自分自身。(かつ)ての名前を、憎らしい相手に再び呼ばれたのだから。

込み上げてくる繭子への憎しみを感じながら、理香は平常心を保ちつつ口を開く。


『____どういう事です? いきなり営業を再開するなんて……』

『あら。あれだけ人を脅しておいて、急に敬語になるのね。

良い?あたしは落ちぶれたりしないの。あんたのあんな脅し如きで大人しくなんてしないわよ』


図太い。やはり、欲望が蘇ったか。

全てを知り蘇った悪魔が大人しくしている筈がない。

理香はそう悟る。


携帯端末_通話の向こうにいる彼女は、昨日とは違いかなり強気だった。

あの脅しを差し出した時は腰を抜かし、怯えていたというのに。

急変した繭子の態度に、理香は不信感と違和感を覚える。

こんな強欲心が丸出しの物言いや態度をする彼女は久しぶりだった。



『___今日プランシャを退社したら、JYUERU MORIMOTOの社長室に来なさい。

耳に入れておきたい大事な話があるから』



粘りのある媚びた声音。

繭子の声を聞く度に、理香の心は冷めていく。


自分が正体を明かした瞬間に、繭子は心菜に接する態度に切り替わっている。

自分の意見は、悪魔の耳には入っていない様だった。

あの弱気な声音は消え、いつもの、“自分が娘だった頃”の威圧感のある強気な口調になっていた。



憎らしい。

娘を人として認めず、物として利用する悪魔の女。

無意識に携帯端末を握る手の力を強くなる。

だが。理香となった故に、怯えはない。


理香は、微笑う。


『そうですか。解りました。

けれど。其処にはどういう理由と思惑が、あるのです?』

『そんなの、どうでもいいでしょ。あんたには拒否権はないわよ。あたしが来いと言えば来なさい。良いわね、必ず来るのよ!』

『__待って…』


そう言い終わらない内に、繭子から一方的に電話を切られた。

無機質な音ともに画面を見ると通話終了という表示。


理香は呆れて、片手で頭を支える。

悪魔の言う通り、自分に拒否権はないという事だ。

それは繭子が、もう理香ではなく心菜として接しているからだろう。


だが。


繭子が言った、『耳に入れておきたい情報』。

それはなんなのだろうか。




(___どういう事なの?)




突然の営業再開。

それに加えて、“娘”として突然の呼び出し。

理香には予想出来なかった事を、繭子は次々と仕出かしている。


恐らく良い事は無いだろう。理香は不信にそうに思いながらも、

JYUERU MORIMOTOに足を運び、今に至る。

考えるだけで悪い予感がする。理香は不信感と悪い予感を抱えたまま、関係者入口から、会社に入った。



会社は見違えていた。

退社時間で誰も居なくなった筈なのに、廊下は煌々と照明が付いている。

ますます募る不信感と違和感を抱え、警戒しながら理香は社長室に向かう。

静寂な廊下に、自分自身の靴音だけが響く。



社長室の前に着くと、一息を着いてからドアを見詰めた。

悪い予感は消えない。始まった胸騒ぎと強まる警戒心。

理香は腹を括る。


そして三回程、ノックをした後に__。



「___はい?」



「___椎野理香です。失礼致します」





(___来たわね)



理香の声に心が踊り、繭子は微笑する。

いよいよ来た。待ち焦がれていたこの時が。




理香は、部屋に入ったとしたら

乗り込んで何か言おうとした。だが、その考えは部屋を見た瞬間に消える。



悪魔の向こうには、青年がいた。

自分自身にも見覚えがある。確か、この会社の社員だったか。

何故、彼が居るのだろうか。そんな事を思いながら、内心、首を傾けた。


そんな理香を見つつ、繭子は微笑を深めた。

そして__。



「__尾嶋さん。待たせたわね。

この子が、あたしの娘。帰ってきた、森本心菜よ」




(____良い? あんたは、私の人形かざりなの。

まだ利用価値があるから、その役目を果たして貰うわよ………)


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