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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第9章・悪魔が仕組んだもの、天使の秘密
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第118話・奪う者同士の再会




「____来ると思っていたわ」



理香は頬笑みを浮かべながら、そう告げた。

繭子は両手で口許を押さえる様な仕草のまま、固まっている。

まるで怪物を見たかの様な表情を浮かべ、驚きを隠せない。


何故? 何故、彼女が、彼女が自分のテリトリーにいるのだ。



(____予想通りだったようね)




理香は、夜景からドアの前で固まっている悪魔に近付く。

デスクの脇の隣に片手を置いて、止まった。

繭子は驚きの表情と感情を抱えたまま相変わらず動かない。



そんな繭子に、理香はそっと微笑した。




会社から出てからも収まらなかった良からぬ悪い予感の胸騒ぎ。

これは普通の事ではない、と判断した理香はそのまま、

JYUERU MORIMOTOへと向かっていた。



報道後、微塵の変化も見せない森本繭子に、飽きたのか

もうJYUERU MORIMOTO社の前には、マスコミ関係者も記者もいない。




けれど止まない胸騒ぎは、

この場所になにかあるのでは、と無性に感じた。

社内に何も無かったが、理香はこの胸騒ぎの原因を知っていた気がするのだ。



___予感は、的中した。



悪魔が訪れる事を、胸騒ぎとして忠告していたのか。




固まったままの繭子に、理香は微笑しながら言う。



「どうしたんです? 固まったまま?」

「あんた_!!」


何も変わらない変わらない微笑。

佳代子が浮かべていた頬笑みと瓜二つ。

目の前に居るのは、佳代子の面持ちをした娘。


忘れていた佳代子への、

思い続けていた心菜への憎悪が益々 湧き出して止まらなくなる。

奥歯を噛み締めながら、繭子は

感情の赴くままに理香へと近付き、そして腕を振り上げた。





「____何をするんですか?」



微塵も変わらぬ、冷静な声音。態度。



繭子が、感情のままに

理香を叩こうとしていた腕は、彼女によって止められる。

理香は繭子の手首を掴みながら、やや怪訝な表情をしていた。

華奢な手にしては、握力は力強く掴まれた腕は微塵も動かせない。



「___感情だけで、動くのは止めなさい? 見苦しいわ」



「あんたがあたしに上から目線で言える立場?


大人しいふりをして、

よくも_このあたしを、惨めに晒してくれたわね!?」




腹の虫、憎悪は留まらない。


悪魔の叫びが、社長室に響く。

繭子は鬼の形相で、天使に食ってかかったが、理香の表情は変わらないままだ。

理香は冷静にただ繭子を見ていたが、(やが)て彼女の手を離す。

そして。



「…………気付くのが遅いわ。

惨めに晒されて絶望して、塞ぎ込んでいたと思っていたけれど、やっぱり貴女は執念深く蘇るのね」


理香は憂いの目を伏せながら、そう呟く。


悪魔が天使に絶望に落とされ

塞ぎ込んでいたのは確かな事実だが、ムカデの様に蘇るのも事実だ。



「あんた偽善者だったのね………。優しいふりをして近付いて、

あたしのものを奪って、惨めに晒して………最初からそういう魂胆だったの?」


繭子の怒りは収まらない。

散弾銃の様に相手へとそう叫ぶと、理香は悟った表情で俯き

手に視線を落とし微笑う。


暗闇の部屋に、僅かに灯された淡いランプ。

ディスプレイウィンドウから一望できる夜景の光り。

表情は見えないが、端正に整った横顔だけが見えた。

それはまるで、天使の様に、女神の様に美しい。


彼女は、己の手を見詰めながら


「そうよ。最初から計算付くだった貴女を知った瞬間からね。

復讐の為に貴女に近付いたの。


復讐の為に近付いた。それだけよ。

復讐以外に貴女には近付いたり、関わる必要なんてゼロでしかない」

「____っ」


「___あの日、“私の秘密”を知った日から、貴女に憎しみを抱いたわ。

でも。あの頃の私では何も出来ない。


だがら。力を手に入れた。大人という権利を、そして_椎野理香という人間を。

ただ、それだけ」


理香への言葉に熱が籠る。

自分自分を知り、この悪魔への憎しみを抱いた瞬間を。

子供であり、“森本繭子”の娘という弱い立場を消し殺し、

大人になり悪魔の鳥籠を壊し飛び立つ代わりに“椎野理香”という人権を手に入れた。


繭子の中で湧き出てくる。怒りと、憤り。

椎野理香の表情は、冷静沈着のまま微塵も変わりやしない。

憎悪が交差する中で、繭子は腹の底から、叫ぶ様に言った。


「JYUERU MORIMOTO(ここは、あたしだけで、あたしの一代で創り上げた会社なの。誰にも真似の出来ないあたしの会社よ。

会社も、あたしも華々しいものだった!


それを………貴女は、簡単に、壊したわね!?」


JYUERU MORIMOTOは自分自身が、一代で築いた会社。

誰にも真似の出来ない、自分だけの華やかなお城。

感情が高まり、思いのまま言葉をぶつけたせいか、繭子は肩で息をしている。そんな状態だった。


繭子の怒りに、理香は微笑しながら言う。



「___それは、異父姉あねに、与えられる筈だった権利を奪って?」


異母姉。そのワードを告げた瞬間に一瞬、繭子の表情が固まる。

相手の痛い所を突いた所で、理香は視線を移しようやく繭子に向けた。


あれだけ感情の赴くままに

叫んでいた人間が、急に大人しくなったのだ。

だが。


(何故なの?)


椎野理香が何故、異父姉の存在感を知っている?

森本佳代子の存在は、絶対に耳には入れなかった筈だ。

心菜は知らない筈なのに。娘の耳の入れた事なんて一度もなかったのに。



理香は、薄い微笑を浮かべながら、一歩だけ近付く。



「____森本佳代子。忘れる筈ないわよね」



森本佳代子。

忘れようとしても、忘れらない。

それに、森本佳代子の容貌を持った彼女が、此処にいる。



「___私があの人にそっくりだった事、そんなに憎かった?」



両手を持ち上げ、その両手は繭子に触れる寸前で止まる。

相手は、あの頃より背丈が高くなっていた事に繭子は気付いた。

………彼女の背丈は、自分自身が見下げられる立場になったのか。


理香の謎の威圧感に、繭子は何も言えない。

天使は、悪魔に向けて深い微笑を浮かべつつ


「…………」

「いいえ。忘れさせはしない。

私を見る度に、異父姉の_佳代子叔母さんを思い出していれば良いわ」


首を少し傾けて、理香はそう告げた。

心菜の面影はもう微塵もない。佳代子に似た_佳代子でも、心菜でもないと感じる。

だが。どれだけ否定したとしても、紛れもなく目の前に居るのは、自分自身の娘。



「何の為に___こんな事を!?

あんたは、心菜は、こんな仕打ちをしない、出来ない筈よ!」


心菜。

そのワードを出した途端に、理香の瞳は冷たくなる。

それは一度(ひとたび) 触れれば凍ってしまいそう、思う程に。



「………心菜か。

懐かしいわね。でも、心菜は、もういない。

あの子は死んだのよ? 私が、殺したの」



そう呟きながら浮かぶのは、深い微笑。


それは

心菜が浮かべたものではない。理香が浮かべたものだ。

森本心菜と椎野理香は同一人物な筈なのに、繭子はどうしても心菜と理香が同一人物とは思えない。



「____何を言ってるの?」

「言った通りよ。森本心菜は、貴女の娘はもういない。

私は椎野理香。貴女の目の前にいるのは、貴女の異父姉にそっくりな__他人なの」




繭子は、絶句した。

そして、ある事に気付いた。


(____どうして、何も言えないの)



どうして、自分から何も言い返せないのだろう。

昔は何でも言い返し、威圧感で彼女に物を言わぬ様に操縦していたのに。今は、それが出来ない。



しかし、憤りや怒りは十分、繭子の中に留まっている。

理香を見た瞬間に、蘇った感情は変わらない。

理香への憎しみで、我に返った繭子は告げる。


「___良い身分ね。けど、貴女には此処で終わって貰うわよ」

「……………?」



理香は、首を傾けた。

繭子には、ある“計算付くの計画”を握っている。



「貴女は、あたしの娘。

娘が見つかったとなれば、“あたしの娘”としての役割を果たして貰わなきゃ」



繭子は、言う。火種を。



「世間にあんたが、あたしの娘だと言うわ」


そうだ。

理香が心菜で同一人物というのなら。

自分の計画を、娘として、果たして貰わないと。



(____あたしを惨めにした、見返りを渡しなさい)




そんな繭子の言い分に、理香は一瞬驚いた表情をしたが

やがて悟った表情を浮かべて言った。

まるで、嘲笑うかの様に。




「___相変わらず、自分勝手な人なのね」



怒りを通り越して、呆れた。

自分勝手な、その性格や欲望、微塵も変わっていない。

だが。




「___言った筈よ。貴女にも何も残ってはいないと」


「それが何よ」

「今の貴女は、提携会社を裏切った裏切り者。自分の学歴や会社の功績を詐称した人間。まあ前者のイメージが強いわね。

そんな女社長の話に誰が耳を傾けると思う?」


天使は、嘲笑ながら、そう言った。



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