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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第2章・12年後の思い
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第9話・消え去った行方



「そう。じゃあよろしく頼むわ」

「分かりました。必ず社長のご希望を、持って帰って参ります」


そう言い終わると、通話を切った。

携帯を傍らに置いて繭子は、ちらりと部屋に視線を移す。


仕事の資料の束や郵便物、果てにはゴミまでが散乱している。

着替えた服も、洗う洗濯物や要るや要らない物も散らかり放題で沢山ある。

(かつ)ては、綺麗に咲き誇っていた庭の花は枯れ果てて、見るに耐えない。

このリビングルームを言葉にして例えるならば、『ゴミ屋敷』という言葉が似合うだろう。


繭子は、家庭面で何も出来ない。

それが現に、今のこの家の有り様として現れている。

この根本をどうしたら良いのか、繭子には全く感じずに分からない。



あの少女がいた頃は、

モデルルームのように家は整えられていた。

部屋は何時も清潔さを保ち、庭には、鮮やかで柔らかい色合いの花が咲いていており

全てが全て、綺麗に整理整頓されていて汚れた処は、見た事さえ無かった。



家に帰れば、

料理も掃除も何もかもが出来上がっていて、自分自身のする事は何もない。

何処から習ったのか料理もシェフ並みに作り、

洗濯もアイロンがけも綺麗に整えられ、服にも皺一つない。


否、自分自身の忙しさに追われ、

彼女を___娘を、奴隷の様に扱ってきた。

それが憎たらしいと思うが、身の周りの事を完璧にやってのける彼女は無償の家政婦。

何も言わずに、ただ淡々と家を綺麗にしてくれる人間。


使えるモノは、例え憎たらしい奴でも利用すれば良い。

自分の為に色々とやってのけてくれるのなら、都合のいい人形。


あの器用な少女が

大人の器量を超越する様な事を、此処までやってのけていたのは

不思議でませているとも思ったが、今となれば、その事だけが良かった。

この豪邸に似合う。セレブの様な暮らしに浸っていたのだから。


全てを娘に押し付けて任せてきたせいか、自分自身は女王様の気分だった。

このまま良い様に操って利用していけば、これからも安泰だと思っていたのに。

けれど、それは、あの日無残に打ち砕かれた。



娘を利用して、虐める事で

優越感に浸ってきたけれど、もう彼女は此処にはいない。

あの日、忽然と最初から無かったように消えていた。


何も残さずに。

高校を卒業した次の日に、彼女は消えていて

あれから、行方も何も無いまま気付けば、12年が過ぎていた。


あれから、暫くは邪魔で目障りな人間が消えたんだと

清々した気でいたけれど、今はその気持ちが揺らいでいる。


このまま、このゴミ屋敷の家で生活するのか。

一人寂しく、最期は孤独死したまま発見されるのか。

それは、あまりにも不様だ。有名な社長としては似合ない末路。


世間に顔向け出来ないまま、成仏出来なくなる。

それだけは、避けたかった。


世間体と自分の地位と評価が落ちることを

繭子は何より恐れて、嫌っている。


じゃあ、どうすれば良い。

そう思って考え込んだ繭子に、一つの思惑が浮かんだ。



________娘を、心菜を、連れ戻せば良い。



娘を連れ戻して、また昔みたいに利用すれば良い。

あの少女は、また母親の顔色を伺いながらなんでもやるだろう。

産んで養育してやったんだから、その恩返しをするのが当然だし、世間体にも良い。


このゴミ屋敷もあの小娘の手に寄れば、すぐに元通りの清潔さを保つだろう。

そんな歪んだ思惑が、繭子を動かし始めていた。

このままでは、気高きプライドが許さない。


まずは、消えた娘を捜さないと始まらない。

だからこそ、繭子はまた、娘の行方を捜し始めている。



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