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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第9章・悪魔が仕組んだもの、天使の秘密
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第116話・足掻く悪魔が下すもの


もしも。

あの女に似た娘を見なければ、良かったのかも知れない。






空は__雨は変わらず、泣き降り続いていた。



酷く荒れ果てた部屋。

昂った感情に任せて、無我夢中で辺りの物をばら撒いた。

……椎野理香への、娘への、ショックと憎悪の感情が湧き上がり止まらず収まらない。


その感情を吐き出した果てにあるのが今だ。

何が何だか分からない有様で、足の踏み場すらなくなっている。

一心不乱に乱れた部屋は、まるで繭子の心の内を表しているようだった。




(___どうして、どうして、貴女はあたしを壊すの…………。

惨めな思いを、佳代子と同じ事をするのよ…………)


肩で息をしながら、繭子は項垂れ叫ぶ。



佳代子にそっくりな、人間。

佳代子の仮面を被って生まれた娘。

だが、佳代子はこんな仕打ちを実現化させ、実際に奈落に落としたりはしなかった。


心菜は、娘は、

何もかも佳代子に似ていたと思っていた。

その容貌も、性格や才能_全ては佳代子に似たと思っていただけなのに。


椎野理香は、心菜は、

単に佳代子に似ただけの、復讐の首謀者だった。




憎しみが募る中で、繭子は思い気付いた。



(___許さない)



こんな奈落に落とした、あの女を。

自分自身を惨めに晒して、自分自身の隠していたものを暴いた事も。

優しいふりをしながら付け込んで、自分自身を騙して利用した事も。


だが。

椎野理香と身分を詐称しても、所詮は自分自身の娘だ。

彼女が自分自身の娘_森本心菜である事は代わりない。

娘は見つかったのだから、連れ戻して、自分自身の計画通りの人形にすれば良い。


そう。心菜を使えば__。

自分自身を着飾る為の道具として、心菜を産んだのだから。

逃がすなんて真似はしない。連れ戻して娘としての役割りを果して貰う。

否。そうでなければ、駄目なのだ。



「良いわよ。貴女を利用してあげる。

まだ貴女には、あたしの娘として利用価値があるんだから……」


椎野理香も生憎、器量だけは良い。


(__利用価値があるだけ、感謝しなさいよ)


(あたしから全てを奪って奈落に突き落とした奴を、拾って上げるんだから………ね?)



椎野理香を、森本心菜に戻し利用する。

自分自身から全てを奪い、惨めに落とした罰を償って貰わねば。

繭子は、微笑した。





__プランシャホテル、 エールウェディング課。



昼下がり。

エールウェディング課はしん、と静まり返っている。




ふと彼女はペンを置いて、一息つく。

我に返り腕時計を見詰めると休憩の時間になっていた。

ふと辺りを見回すと、デスクには同僚や上司の姿はない。


ふと手のひらを見詰め、理香は目を伏せた。



(___何故かしら)



自棄に、胸騒ぎがする。



あれから

自分自身が心菜だと明かしてから、繭子はぱたりと音沙汰を無くした。

現に復讐の刃を向け続けてから、繭子はその度に打ちのめされ壊れていた様だし

今は喪失感で埋め尽くされているのだろうか。


(____でも、変だわ)



あの気性の荒い女が、静かにしている訳もない筈だ。

理香は、繭子の本性や性格を一番、身近に見続けて知っている。

知っているからこそこのまるで、嵐が去った後の静けさが異様にすら思えてしまう。


森本邸の監視カメラもチェックしているが、

いつも通りに項垂れ果てた悪魔の姿しか理香は観られていない。

繭子は、世間的にも、家でも借りてきた猫の様に静かにしているのだ。


それは、理香にとっては異様に映る。



だからなのだろうか。

気のせいかも知れないのに、こんな胸騒ぎがするのは。


最近では

JYUERU MORIMOTOの関連ニュースも、本人が出てこないせいか

JYUERU MORIMOTOに関しての世間には情報も一切流れてはこず、沈静化している。


自棄に静かになったのは良いが

あの欲望の塊である悪魔が、大人しくしているのはなんだか不気味だ。


では

この無性に湧いてくる胸騒ぎはなんなのだろうか。




___森本邸、リビングルーム。




相変わらず、カーテンで光りと遮断された、



物の分別も付かないリビングルーム。

家の主が一心不乱に暴れ回ったせいで、床は更に物で埋め尽くされ見えない有り様になっている。

だが。繭子は気にしない。


繭子はノートパソコンと向かい合い、

慣れた手付きでキーボードを打ち込み続けていた。

いつぶりだろう。パソコンに向かい合うのも、仕事らしい仕事をするのも久しぶりだ。


あの事があってから、失意のどん底に沈み

暫く仕事らしい事も、自分自身の業務も果していなかったが、

___繭子が、大人しくノートパソコンに向かい合い、

書類を作っているのは、仕事外での理由があった。





『___弊社の兼任社員でありプランシャホテル

エールウェディング課にいる、椎野理香は____』




椎野 理香は。




__長らく行方不明になっていた、私の実の娘です。



白紙のページに浮かび、打たれた文字。



(___このままでは

許さないわ。あんたの首を締めてやるから…………)



所詮、女王の小娘の分際で。

自分自身を惨めな奈落に突き落とし、屈辱に晒した女。

繭子にあるのは、理香への、心菜への憎悪が湧き上がり心を満たす。


女王である自分自身を惨めな思いをさせた。

繭プライドを傷付けた、それが腹の虫が収まらず、繭子は許せなかった。

本当は自分自身は高貴な夫人でいるべきなのに。


女王を惨めにさせたのなら、

その見返りも、屈辱も味わわせないと。

そうでないと許さない。


__彼女は、母親の情報を、週刊紙に売った無慈悲な帳本人。



そう書いた。

これが明らかになれば、彼女は窮地に追いやられるだろう。

今までの華やかなキャリアも、人望も一瞬で崩れ去る。


(___見返りは、貰わないとね。

娘という下の立場なのに、あたしを惨めに晒すなんて_)


娘への、憎悪が止まらない。



きっとこれを情報開示し、

世間に撒いたら、世間はざわめくだろう。

書き上げられた自分自身の文章を見ながら、繭子は嘲笑った。


(___見てなさい。心菜…………)






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