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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第8章・追う度に深まる謎
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第110話・復讐者が下す決断




家に入り、一通り支度を済ます。

眠りに着く前に不意に、パソコンへと向かい起動させた。

理香が睨んだのは、森本邸に仕込んだスモールサイズの監視カメラのファイル。




悪魔はどんな状況に居るのか、

どんな状態なのか見張る為に、悪魔が目を離した隙に、

あらゆる視点から悪魔を観察出来る様に、数個程、小型カメラを仕込みカメラを増やした。

録画記録機能性もある。暫く観ていなかったが、

この悪魔はどう過ごしていたのか。



部屋の明かりを全て消し、カーテンも締め切っている。

明かりと言えば、夜の光りだけがカーテンの隙間から差し込むのみ。

質素な部屋で、理香はパソコン画面に全神経を集中して、視線を向ける。



(……………?)



理香は疑問に思う。

夜になっても、部屋の明かりはないからだ。


元々、繭子は暗闇が嫌いで

明かりを煌々と付けるタイプの人間なのだが、

今回ばかりは、やはり外界の視線を気にしているのだろうか。



夜明かりの光を頼りに部屋を凝視する。

前よりも物が散乱して、酷くぐちゃぐちゃになった部屋。

そんなゴミ屋敷の部屋にあるソファーベッドに横たわったまま、繭子は動かない。

しかし。


(___おかしいわね)



“異変”を、理香は見抜いた。



別視点から見えるカメラ映像に切り替えた。

場所はキッチン角に仕込んだカメラ。そのカメラは鮮明に繭子の表情を捉えていた。

正気がなかった表情に覇気が戻ってきている。

明らかに自分自身の記憶にある“あの女の顔”だ。


否、夜のせいか。

窶れた表情に中で目がギラギラと光り、目力が強い。


その浮かべる表情は、弱々しい

絶望という名の奈落へと落とした後の森本繭子ではない。



(___どうなっているの?)



理香はそう思ってから、繭子の溢した発言に目を見開く。




『____椎野理香が、首謀者なの?」


ぽつり、と溢れた呟き。

驚かなかったと言えば、嘘になる。

ただ何処かで悟っていた自分自身が居た。

……嘘は、偽りは、いつか剥がれてしまうものだから。


そして、気付いた。

繭子に、悪魔の表情に覇気が戻り

悪魔の形相に戻りつつあるのは、自分自身を疑い始めたからだと。


自分自身が首謀者ではないかと、いよいよ繭子は疑い始めたのだ。

軽く息を飲みながら、理香は繭子の行動を見据えた。


『___あたしはちゃんと育てて面倒を見たじゃない。

なのに、貴女は、どうして言うことを聞いてくれなかったのよ…!』


怒りを露にする悪魔に、復讐者は嘲笑う。

娘を育てた? 娘の面倒を見た? ふざけるな。

それは(こちら)の台詞だ。自分自身の方が悪魔を支えて、衣食住の面倒を見ていたじゃないか。


繭子の発言を聞く度に、理香の心は凍り嘲笑う。



そして___。



『今に見ていなさい。後で後悔させてやるから。

あたしを裏切った裏切り者には只ただでは済まさないわ。いざとなれば、息の根だって止めてやる___』


繭子の言葉に、理香は鼻で笑った。


(___身の程知らずの哀れな女ね、貴女は)



やれるものなら、やって見ろ。



(私が黙って見詰めているとでも?)



そして理香は確信した。

繭子は絶望に“落ちていたふり”をしていただけだと。

やはり悪女の本性も性根も何も変わっては居なかった。

悪魔が壊れたと一瞬でも思った自分自身が、馬鹿みたいだ。



自分自身の操り人形に成りかけていたと思っていたが、やはり違ったみたいだ。

悪魔が自分自身を疑い始めたのなら、仕方がない。

それに___。


(何時までも、

答えの出ない茶番劇を繰り返しても、答えは出ないわ)


今のままでは、知りたくて追っている謎達にも堂々巡りで、真相には近付けやしない。

あまりやりたくない方法だったが、繭子がまた欲望を剥き出しにしてきたのなら、理香にも考えがあった。


(___“私”の正体を明かすしかないわね)



森本繭子に、自分自身が娘だと明かす。

だが理香には、この復讐劇の舞台を降りるつもりはない。

ただ身元がバレつつある以上、これしかもう手段はないのだ。

“椎野理香は森本心菜”だと明かしても、理香にはこれからも悪魔を攻撃する術はある。

偽りがいつかバレてしまう時が来るのであれば。

悪魔があれだけ言うのなら、此方も腹を括ろうじゃないか。

拳を握り締めて、理香は決意した。




暗い部屋の中。

ソファーベッドに膝を抱えて座りながら、

繭子は悔しい思いで唇をきつく噛み締める。


あの頬笑みが、今ではおぞましいとさえ思う。

考えて見れば、自分自身はこんなに落ちぶれて惨めな様なのに、椎野理香は高みへ昇り詰めていくばかりだ。

彼女のありふれた才能も存在も、繭子にとって妬ましい。

最初に出会った頃の嫉妬と怒りが、繭子の心を占拠し、理香への憎悪が増してゆく。


(____でも、どうして)


繭子の中で、疑問が残る。

何故、椎野理香は自分自身に近付いて、

惨めな奈落の底へと突き落としたのだろうか。


彼女とは、何も接点がない筈なのに。


ただ、その疑問だけが佇んだ。



夜、遅くに電話するのも迷惑かと思ったが

青年から丁度、メールが来ていたので理香は電話をかけた。

協力者で味方、と言ってくれた彼にも知らせておかなければならないだろう。

___“この事”を。




『______娘だと正体を明かすの? 自ら?』

「ええ。あの人はもう私の仕業だと気付いたみたい。現に怒りに狂っているわ」


芳久は驚きを隠せなかった。

なんせ復讐者自ら、相手に正体を明かすというのだから。

それは大した根性と勇気の要る事だ。


「それに、今では堂々巡りのままよ。何も変わらない。

それに、まだあの人は自分自身の欲望を捨てていなかった」

『そうか。理香の決意は堅いんだね』

「………うん。向こうが身を乗り出す前に

もう反撃に備えられる様にして行こうと思う」

『何かあったら言ってよ。力になるからさ』

「………ありがとう。おやすみなさい」

『おやすみ』


そう言ってから、通話を切った。

理香は携帯端末に視線を落としながら、考える。

もう計画は練ってある。___後は、実行に移すのみだ。


(___負けはしない。

とことん追い詰めてあげる。貴女が私の息の根を止めるというのならば、私は、貴女を、息苦しさの底の無い沼に突き落とすわ)



もし、

自分自身が目をかけていた女が、自分自身の娘だと知れば

混乱の最中にいる悪魔は、どんな顔をするだろうか。



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