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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第8章・追う度に深まる謎
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第106話・疑念のウェディングプランナー




「___JYUERU MORIMOTOの記事は、

毎回、注目を浴びています。今回も前回も。お分かりでしょう」

「___そうですね」


白石健吾は、言った。

理香は冷静に返す。


真剣な表情の中で、時折に見せる

その透き通った蜂蜜色の瞳や表情は何処か憂いを帯びていて、掴めない。

たが、その見せる表情や仕草、全てが綺麗としか言えないのも事実だ。

まるで彼女の様は、何処かの良家を思わせる。



『___私は、椎野理香と申します。

プランシャホテルのエールウェディング課に勤めています』


プランシャホテル。

ホテル界では最高峰と唄われる、あのホテルに勤める女性。

一見、無害で平凡な、自分自身の目の前に居るこの女性が

森本繭子の裏情報を伝えてきたとは、信じがたく思える。


(見た目も、中身も、何処にでもいる女性ではないか)


こんなにも若く、

凛とした女性が現れる等、健吾には予想外だった。

森本繭子の醜態を暴きリークしてきたのは、

あの有名なホテルウェディングに勤めるウェディングプランナー。


清楚な素朴な、容姿端麗で

愛想も良く、礼節をわきまえている、

非の打ち所のない完璧で素敵な女性としか言えない。



そんな彼女が、

JYUERU MORIMOTOとは、

森本繭子とは何の関係や接点があるのだろう?

それは彼女を見ても、考えても結び付きやしない。

けれど知りたい。彼女という人間も、森本繭子との接点も。


(もう少しだけ、引いたふりをして押してみようか)


健吾はそう思った。


長年の職業病故に、相手を探りたい、

その本性を引き出してしまいたいというのは悪い癖だ。






謎の記者。


(慎重に控えめなふりを身を潜める。

警戒心は外さない方がいいわ。幾ら顔見知りとはいえ、

今までは電話だけの付き合いだったのだから)


理香はどんな時でも隙を見せない。


電話では、森本繭子の事しか話さなかった上に、

多少の雑談しか交えなかった為に、当然 互いに相手を知らない。

理香は冷静を装いながらも、謎の記者に相当な警戒感を抱いていた。

詐欺かも、と内心疑っていた自分自身もいる。

こういう類いの話も詐欺もあるというのだから。

だが。



『白石健吾と申します。記者をしています。

貴重なお時間を頂きすみません。お会い出来て光栄です』



誠実さと共に、彼が出したのは名刺。

彼の名前や所属の会社の情報が記載されている。

彼の所属する会社はTVでもよく耳にする有名で、信頼を寄せても良いのだろうと、ようやく理香は不信感という名の荷を少し下ろした。


自然なのか、作っているのか分からない無造作な髪。

気品を備えていながらも、自然体のまま生きている様な雰囲気を纏っている。

ベテラン記者で50代というが、容姿は自分自身と変わらない位に若々しい。

そしてよく見れば驚く程のダンディーな端正な顔立ちは

まるで、映画から出てきた映画俳優のようだ。


だがそんな中で、

苦労人の顔付きと雰囲気をしている事を理香は見透かしていた。


(……………やはり、人の過酷な境遇は

言葉にしなくとも、少なからず顔付きに現れるのね)


その無造作な髪に所々に伺える白髪も。

何処か人生を悟り疲れていた表情も。



「ここまで、裏の情報があったとは意外です。

森本繭子については、良いイメージしか伝えられて来てませんでしたから」

「……そうですね」



全盛期には『ジュエリー界の女王』と呼ばれ、

森本繭子はもてはやされてきた。健吾の言う通り良いイメージしかない。

キャリアウーマン、良き母親。

世間は皆、そう思い込んでいた。


その裏では、

誰かが血の涙を流し続けたというのに。


だから

この森本繭子の裏での情報は世間に衝撃を与え、

周りの好奇心を見事に揺さぶったのだろう。


森本繭子の隠しネタなら、山程に知っている。

ただ。一度に出すのが惜しいだけだ。

徐々に情報をリークして、相手に感じた事の衝撃と絶望感へと落とす。


たちが悪い。

そう言われるだろう。

けれど、これが理香のやり方だ。


一気に破滅させるよりも、徐々に追い込んで破滅へと誘う。

その方が追うダメージも大きいだろうから。


それは繭子が心菜に向けて、かつてやった様に。

悪魔を堕とす為ならば、もう手段は選ばない。


「周りはこの話題に夢中の最中にいる。

忘れていた頃に新しい情報が出ていますが、新しい情報は今までに、それらを上回るものです。報道各所も、雑誌編集からの興味を注いでいます。


僕自身も、長年記者をしてきましたが、これ程に長期間、

報道が過熱している記事は久しぶりでしょうね」

「……そんなに注目の的に居るんですか?」

「はい」


知らないふりをして、

そう言ってみれば健吾は強く頷いた。

その言葉に心の内で理香は嘲笑う。という事は、

あの社長の評価が堕ち続けているという事だ。


多少の事実と、他愛のない雑談が進んだところで

健吾は、ずっと聞きたかった本題へと身を乗り出した。



「それで、椎野さん。こんな事をお聞きするのは難ですが

JYUERU MORIMOTOの社長_森本繭子とは、どういう関係が?」


「……………………」



沈黙寡言。

途端に椎野理香は、無表情になる。


なんと言おうか。



森本繭子の娘?

それとも、彼女を地獄へと追い詰める人間?


もし、自分自身が

森本繭子の娘と言えば、相手はひっくり返るだろう。

ただそれを抜き取って見て、なんと答えたら良いのだろうか。

考えてみれば、今の自分には “復讐”以外に森本繭子との接点は無いような気がする。


色々と考えた末に、理香はやや目を伏せながら告げた。



「…………あの人を、一番近くで見て来た者、です」



「___一番近くで見てきた?」



理香は冷静に答える。

健吾は呆然自失とした表情で、そう呟く。


間違いではない。

ずっと彼女を見てきた。今も、昔も。

これが、“椎野理香”としての答えだ。


(___一番近くで、か)



どういう意図の、言葉なのかは分からない。

理香の言葉を聞いて、健吾は悟った面持ちをする。

なんだか、彼女は昔の自分自身みたいだ。


繭子に振り回された挙げ句、落ちぶれた自分自身のよう。



「___ただ、良い感情はありません」

「でしょうね。じゃないと、ここまで出来ないだろう」


良い感情があれば

こんな、相手を破滅に追いやるまでしないだろう。

彼女自身もあの社長、あの女を良くは思ってはいない。そんな事はすぐに解った。


「__でも」



どうして。



「___何故、白石様は、

私の話に耳を持って下さったのですか?」



ずっと疑問だった。

マスコミにリークしても、相手にはされない。

最初、別の人間に電話をかけ話を持ち寄った時は門前払いされたのに。


だがすぐ電話はかけ直されてきた、相手は白石健吾だった。

そうだ。目の前にいる人間は、すぐに取り持ってくれたのだ。

__それは、まるで待っていた、と言わんばかりに。




白石は、暫し無言になった後で呟いた。



「__僕も、貴女と一緒です。

あの女社長には、良い感情なんてないですから」




(__一緒、なの?)



どういう事だろうか。

ただ、それには問えなかった。



一瞬、彼が見せた表情は

何処か儚く寂しげな、ものだったから。



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