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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第8章・追う度に深まる謎
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第101話・協力者の休息、悪魔を追う者と…


とぼとぼ、と靴音が響く。

あまり人気のない閑静な場所に理香の住み()はある。

無言のまま、芳久と理香は歩く。


スーツの上着を掛けられているお陰で

寒さは感じず温かかった。が、長身痩躯の青年はシャツだけだ。反対に彼が寒いだろう、と思うと理香は忍びない。


「………寒いでしょう? ……ごめんなさい」

「いいよ。気にしなくて。俺がやった事だから、

理香は何も悪く思う必要はないよ」


歩き続けていたらマンションが見えてきた。

エントランスを抜け、理香の部屋の前まで来る。

理香は掛けられていた上着を脱ぐと、青年にかけて元に戻す。


「__今日はありがとう。ごめんなさい。

………芳久も帰らないといけないのに……」

「気にしなくていいよ。それに俺は今、実家にはいないし」

「え?」


理香は、きょとんと目を丸くする。

てっきりあの理事長と暮らしているのかと思っていた。

芳久は視線を落とし、悟った表情を浮かべと眼差しを落としながら呟く。


「……居心地、悪いんだ。

父さんはあの性格だし、俺は先妻の息子だから

後妻の人からよく思われていない。だから、

普段はプランシャホテルの廃棟になった部屋に間借りして暮らしてる」

「………そう、だったの」


悪い事、聞いてしまった。

まるで、人の領域に、土足で踏み込ような真似をして。



芳久は母と兄と死別し、今は愛人だった女性が妻の座にいる。

芳久は何処にも居場所がない。だから、

誰からも気付かれ無いように身を潜めているのか。

たった一人で。


何も知らない。

彼は、協力者で色々と行動をしてくれているけれど、

対して自分自身はどうだ?


自分自身は何が青年に恩返し出来ているか?

そう言われれば。


(___私は何も、出来ていない)



理香も視線を落としていたが、やがて行動に出た。



「___ちょっとだけ、待ってて貰える?」

「……………え、うん。いいよ」



そう言うと、理香はそそくさ家に入り暫く出て来なくなった。

芳久は何処かで呆然としながら、ドアの前で待つ。



数分経っただろうか。

ようやくドアが開き、中から理香が出てきた。

彼女の手には、水筒に握られていて、それを差し出す。

なんだろうか、と芳久は不思議に思う。


手に取ると、温かさが伝わる。

さっきまで寒空にいた影響か、冷たさが(ほぐ)れる。


「__魚のスープ煮。お礼だと思って?

味は美味しいか、口に合うかは分からないけれど」

「良いの?」

「ええ、私に上着取られていたから体も冷えたでしょう?

せめて温かいものでも……」


芳久にとって外食が、殆んど。

家庭の味は実母が亡くなってから口にもして居らず、無縁だった。

誰かの手料理を頂くなんていつぶりだろう。

無意識の内に心の何処かで、心が暖まった気がした。


「___ありがとう。頂くよ。じゃあね」

「うん。ありがとう」



青年の背中を見送ってから、理香は部屋に入る。

シャワーを浴びて服を着替えた後でベッドに身を投げると、どっとした倦怠感が襲う。


額に腕を起きながら、天上を見据えて呆然とする。

ベッドの傍に置いたICUレコーダーを憂いた瞳で

ぼんやりと見詰める。ICUレコーダーには全てが詰まっている。

あの刑事の証言は、何よりの証拠だ。


誰かが言った憶測でもなく、

事故の当時に関わった当事者だからこそ言えるありのままの事実。


まだまだ問題はありそうだ。

あの悪魔がどう動くのかも、叔母の死の真相も。

そう思うと目の前は暗闇だが、それを無視して理香は、

うつらうつらと襲う眠気に、そのまま瞳を閉じた。







編集者は、ただキーボードを打ち続ける。

内容はあの今、騒動と話題を持って行っているJYUERU MORIMOTO女社長_森本繭子に関しての記事だ。


かつては、『ジュエリー界の女王』と呼ばれた女社長。

しかしある女性からリークされた森本繭子の本性の内容は

あまりにもドス黒く、欲望が剥き出しのものばかり。



「___白石さん、また残業ですか?」

「ああ。早く終らせたくてな。それにこの記事は書き甲斐があるんだ」

「そう言えば、この件を取り上げたのも、書いているのも全て白石さんでしたね」




白石しらいし 健吾けんご

今では、この社の右腕的な存在の、ベテランの敏腕編集記者であり、ライター。

その熱心な記者魂と、まるで読む側を引き込む様な魅力的な文才の才能は一腕を買われている。



彼が全てJYUERU MORIMOTOに関する記事を書き続けている。

仕事と言えば世間にセンセーショナルを巻き起こす良いスクープ材料だが、健吾にはれっきとしたもう一つの理由がある。



__嘗(かつて)て、森本 繭子という女に振り回された男として。


そう考えれば、意地でやっている面は否めない。



タイピングを終えた後で一息着き、珈琲を飲む。

森本繭子のスクープは、あまりにも大々的で衝撃を与え、

まさかと思う者も居たが、それは全て事実だった。


まだ温かさの残る珈琲を飲みながら、健吾はふと考える。



(___“彼女”は、誰なんだろうか)


森本繭子の裏情報をリークをし続ける人物。

リークする女性と健吾とは電話でしかやり取りをした事がないが

声音からして落ち着いた、上品な女性を連想させる。


彼女は森本繭子の裏情報を提示し、

話題が沈静化した頃に彼女は電話で、また森本繭子の裏情報を出してくる。

何度も、何度も。


毎回、仰天する様な内容ばかりだからか

雑誌に掲載すれば、社会の注目を独り占めする。

勢いを止まる事を知らずに益々、過熱していくので、

健吾にとって何処かで森本繭子の情報のリーク元の椎野理香の事も気になってしまう。


彼女は、一体、誰なのだろう。

どうして誰も知りえない森本繭子の裏情報を、自分自身の様に知っている?


彼女の素性、何故、森本繭子の裏情報を知っているのか。

それらは全くの謎だ。自分自身は声しか分からないけれど。



何処かで会ってみたい、という好奇心が健吾の中で芽生える。

不意に携帯端末を見ると、森本繭子の情報をリークする彼女の番号に目が行く。


もし、会いたい、と電話をかければ

彼女はどんな対応を見せるのだろうか。


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