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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第8章・追う度に深まる謎
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第99話・喪失の味



(…………なんか、変だわ)



繭子は、喉元に違和感を覚える。

椎野理香が差し入れにくれたスープを飲んでからだ。

飲んだ際は無味無臭の様なさっぱりとした味だったのに、

何故か気分の悪い後味を残していく。

不思議な感覚。


特に、味は気にしない。

だがこの後味は、何処かで味わった気がしてならない。

きっと気のせいではない。自分は、この味を何時かの昔に口にしていた。


(__じゃあ、何かしらね)


髪を掻きながら

繭子は脳裏の記憶を引き摺りだそうとするが、結局、思い出せなかった。





誰もがまたかと思い、そして好奇心に熱を点す。

それは今朝、出た週刊誌に大々的に乗っていた森本繭子に関する記事だ。


___森本繭子、経歴・学歴詐称。

『ジュエリー界の女王』いよいよ崩壊か、

___auroraオーロラ以外にも、提携を結ぼうとしていた疑惑が浮上。


_____世間を欺いた、冷酷非道な女社長。



携帯端末に映るネットニュースの記事をスクロールしながら、

理香は冷めた眼差しで記事の内容を見詰めていた。


この情報を開示したのは誰でもない自分自身だ。

社長室に入り込んで、悪魔の悪巧みと企みをコピーした後、

マスコミに売り込んだ。騒動は沈黙化して行きつつあったが

マスコミは森本繭子の行動を尾行していたらしく、待っていたかの様に新しい情報にすがり付いた。



元々、森本繭子の経歴・学歴詐称はマスコミに連絡していたが

あのタイミングで森本繭子の館とも呼べる社長室に入り込んで

情報を仕入れた事は理香にとって都合が良かった。


証拠も載せられているので

どれだけ悪事が企む悪魔でも、これだけの証拠を世に晒されたら覆しも否定も出来ないだろう。


(___さあ。貴女は、どうするのかしら)


異父姉に似た憎たらしい娘に、ここまで、奪われて。



実娘とも知らない自分自身にすがり付いて頼り切っていた。

自分自身にすがり付いた末路が、これだ。

けれど知らないのだろう。


これが、“裏切り”だとは。



理香は嘲笑いに似た微笑を浮かべる。

嗚呼、哀れな女。



(………ねえ。

貴女が散々執着してすがり付いた相手に、全てを壊されたのよ。

けれど人のせいにしないで、元は貴女自身が破滅を呼び寄せたの。

その後味は悪いでしょう?)



どれだけ冷酷非道で、狡猾でも構わない。

あの女は理香が成す復讐以上の事を平然としてきた。



不意に画面が切り替わり

携帯端末の上には、着信を告げる音が鳴る。

画面には森本繭子”と表記されていて、理香の心が益々、冷めていく。



「………はい。おはようございます」

『___椎野さん?』



弱々しい、震えた声が届く。

電話越しで表情は分からないけれど、声だけも絶望の色が伺えた。


繭子も事を知ったかと内心

理香は悟りながら、“悪魔のお気に入り”のふりをする。



「___社長…………」

『……今朝、テレビを付けたら…これが流れていて……。

違うのよ。椎野さん、あたしは………こんな事を考えていなかったんだから!!」



(___彼女を無くしたくない)



繭子は、そう思った。

今朝流れたばかりの報道は、繭子の高い自尊心を攻撃し喪失感が支配する。

自分自身の評価を下げ落とす。自分自身の悪評価を受け入れたくない。

だが不安感に蝕まれる中で、それでもお気にいりの人間_特に椎野理香には、逃げられては困る。

彼女には、精神的にも今は傍に居て欲しいのだ。



(___いよいよ否定に入ったわね)


(愚屈にもまだ抗うつもり、か……)


理香は、内心そう思い失笑する。

認めたくないだろう。こんな自分が堕ちていくだけの現実を。

繭子が混乱しているのは理解出来るが、やはり本性は変わらない。


けれどこれが現実なのだ。もう後には引けない。



悪魔には、母親には___

これから絶望の味を知らしめて、奪い落とす。

自分自身は気高いと誤解している自尊心も、名誉も全て。



(___そうよ。私が、全て奪って、壊す)



(貴女は、何も知らず振り回されて居ればいい)


(自分自身が置かれた、哀れで、惨めな現実を見詰めるだけで良いの)






JYUERU MORIMOTOは営業停止。

マスコミの熱は再加熱し、JYUERU MORIMOTO本社や支店に加え森本繭子の家にも押し寄せている。

今か今かと、主役の登場を周りは待ちわびていた。




______プランシャホテル、エールウェディング課)




「___椎野君、久しぶりだね」

「………そうですね。またご指導、よろしくお願いします」


主任は頬笑む。理香も笑顔を取り繕った。


「やっぱり、君がいないとな。

エールウエディングにとって、君は重役だ」

「___そんな。私はまだ未熟者です」


プランシャホテルに、理香は戻った。

プランシャ側の立場に居るとやはり何処かで安心している自分自身がいる。

不意に携帯端末を見ると、芳久からメールの着信が入っていた。


“___こないだの件で気になる事と話がある。

仕事終わりに、少し時間を貰って良いかな”

“___分かったわ”



軽い一言の言葉を返した。





仕事終わり。

あまり誰も寄らない、プランシャホテル喫茶室。




「___話したい事って」

「森本佳代子さんの事件に当時関わっていた刑事に会ってきた」

「___刑事さんに?」

「うん。少し探っていたら、機会が出来てさ。

最初は擬い者かと疑ていたけど本物だったよ。


三条富男さん。

今は退職されているけど、当時佳代子さんの事件に関わっていた一人だ」


芳久は鞄から、三条富男に関する

身辺調査結果と彼の写真、彼が綴っていた英文の文章のコピーを

理香に差し出した。



「それと、」



そして芳久は胸ポケットから、物を取り出す。

取り出したのは、ICUレコーダーだ。

差し出してみれば、彼女は不思議な顔をした。



「__これは?」

「これが今、理香が一番欲しいものだと思う」




青年はイヤホンを取り出してきた。

音楽を聴く気分じゃないと言えば、青年は否定する。

真剣な眼差しでイヤホンを差し出す芳久に、理香は疑心のまま、イヤホンを耳に嵌めるとレコーダーの再生ボタンを押した。

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