表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第2章・12年後の思い
10/264

第7話・他者から見る彼女



____何かが違う。



芳久はコーヒーを飲みつつ、

ドレスを凝視している彼女に視線を向けた。

何十着と並べられたウェディングドレスを一着一着丁寧に手で取り、触れて確認している。

それらを繰り返しては、深く考える素振りを見せて、メモにペンを走らせていた。


彼女はこのホテルのエールウェディング課では、有名人。

決して気を抜かず、自分自身の担当になった顧客には

誠心誠意に対応して、尽くす。

優しく誠実な姿勢と態度は、顧客だけではなく

『麗人』と呼ばれる程の実力と才能を兼ね備えた中で、

彼女自身も決して引けを取らない。


『麗人』と呼ばれる根拠の一つとして

中身だけではなく、彼女の容姿も関係していた。

それは誰もが認める容姿端麗さ。



長くストレートな茶髪。

黄昏をそのまま表した様な温かな双眸。

凛として端正に整った綺麗な顔立ちに、優雅な出で立ち。

それは誰もが認める美人で、その性格も相まって容姿から

時に惹かれ、時に羨ましがる者も居るのが事実だ。


全てが全て完璧なのに、

努力を惜しまない努力家で穏やかな気の利く性格。

彼女の良い評価は聞いたとしても、悪い評価は聞いた事がない。

上司からの熱い信頼も、部下からの尊敬も厚い。


これほどに、理想の人格者は居ないだろうに。けれど、

彼女は周りの言葉にも、向けられている周りの視線も全く気付いていない。

あれだけ、誰からも好かれているというのに。


気立ての良い、後腐れのない、麗人は。

今日も努力を怠らずに、ただ顧客の為に精進し動いている。


「……芳久」

「あ、ごめんごめん。なに?」


呼ばれた事に気付いて芳久はそう返すと、

理香は一つのウェディングドレスを一つ取って芳久の前に差し出した。

その目は真剣そのもので、怠け等は一切見当たりはしない。


「このドレスは、どう思う?」

「どうして俺に聞くの?」

「女性の意見だけじゃなくて……男性の意見の聞きたいの。

着る当事者も大切だけれど、相手も大切でしょう?だからね

相手にはどう見えているのかな……とか気になって。良かったら、意見を貰えたら、と思って………」


手段も努力も抜かりない。

断わる気も最初からなかったから、

芳久は立ち上がって、近くでドレスを見る。

腰に手を当てて、少し屈めて指先を顎元で組み立てて凝視した。


「そうだな………この花の刺繍が入ったレースは、良いね。

チュールを混ぜた生地で出来てる袖も膨らんでいて、

腕は細く見えると思うよ。

スカート部分も刺繍レースで二層に重ねられているから

全体的にふんわりとしていて

綺麗で優しい、例えるなら妖精の様なイメージだと思う」

「……ほう」


ドレスを傍らに掛けて、

青年が言った言葉を詳細的に彼女は手際良くメモしていく。

やはり彼女は抜かりない。仕事の為には一切手抜きはしない。

メモを書き終えた後、理香は感想を見詰めてから、頷いて

ふと顔を上げると


「……他には、ある?」


そう問いかけられる。

真っ直ぐな眼で尋ねられて、思わず目を惹かれてしまう。

芳久はそれを隠し、無意識的に目を反らして、その返事を返した。


「……他はないよ。俺が思うのは、これくらいだよ」

「……そう。良い意見が聞けて良かった。 ありがとう」


理香はやんわりと微笑んで、

並べられているドレスに視線を戻して確認する。

その後ろ姿に見詰めながら、芳久は諦観の思いを抱いた。

_____まるで、肩の力が抜けていくみたいだ。


この思いは、届かない。

彼女自身の鈍感な面もあるけれど、一番の要因は彼女の雰囲気と佇まい。

優雅だが儚げで、何処か寂しく孤独な雰囲気を醸し出し、

それは一度触れれば壊れてしまいそうになる感覚を覚えてしまうからだ。


そして、芳久は気付いていた。

彼女は、隠していたい何かがあると。

彼女は、好かれている割には、他者と距離を置きたがる。


もうかれこれ2年間、ずっと彼女を見てきた。

でも、彼女の事を知っている事よりも知らない事の方が多いだろう。

その不思議なミステリアスな面が、何処か人を遠ざけようとしている。


今は、見守っているだけで良い。


いつか

本当の彼女の事を知れて、役に立てるようになれる日が

来たらいいな、なんて有りもしない事を考えながら

そんな淡い思いを隠して、また青年は彼女に対して同僚の振りをした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ