2回目の引越し 5年生
5年生になる直の春休み、祖母と同居するために
東京へ引っ越した
埼玉では近所の幼ななじみ達とドッジボールをしたり
走り回ったり
藤棚の下に座って
ぼーっと1人で藤の花を眺めたり
のんびりした毎日を過ごしていた
家に帰れば宿題と読書
気ままに過ごしたが
引っ越して
緊張していたのだろうか
我はペースが保てなくなった
違いが一気に押し寄せてきた
今まではクラスが替わるごとに
仲の良い女子が出来ると
必ず1対1で付き合った
休み時間も放課後も
誰かとおとなしく遊ぶときはいつも2人
走り回るときだけ例外。数人で遊ぶ
引っ越してから
そのパターンが崩れた
クラスは仲よしグループが
はっきりと区別されていた
2人組、2人組、3人組
4人組、4人組
どこかに所属したらよいのだろうが
どう願っても2人きりにはなれない
転入生ということで
注目された
我は目立つタイプではないが
1人でいると
誰かが声をかけてくれる
我は各グループの間をふらふらした
慌しい毎日
放課後は常に誰かと遊ぶ状況
クラスの雰囲気は
人をからかって遊ぶ感じ
4年生までとは
まるで違った
我はよく笑う
今もだが
誰かを蔑んで笑っているわけではない
ただ楽しくて笑っているだけ
だが、どうもそれが数人の男子の気に障った
「何がそんなに楽しいんだよ」
「なに笑ってんだよ」
給食の時間、蹴られるようになった
少なくとも班の女子は見ている
だが誰も止めはしない
我以外は蹴られていない
担任の先生に告げた
「もう蹴られるのはいやだ」
昼休みの教室で号泣
先生が男子を呼び出して
終わった
蹴られなくなった
だが、それ以降も
我の混乱は続いた
給食をどう食べていいかわからない
何回噛めばいいのか
いつ牛乳を飲んだらいいのか
食べ終わったら何をしたらいいのか
何をしたら正しいのか
向かい合い、班で食べる時間が
苦痛だった
授業中みたいに背を向けて食べさせてくれたなら
どんなに良かったか
ろくに食べられず、時間を持て余すと
大好きな読書を
給食の時間に始めた
本を開いていれば誰も話しかけてこない
大丈夫
本に守られてる
内容が頭に入ってこない
高速でページをめくり
読むふりをする
いやだいやだいやだ
どうしようどうしたらいいの
連日、大パニック
「本閉じて内容言ってみてよ」
同じ班の女子に言われた
顔から火が出るんじゃないかってくらい
恥ずかしかった
なんにも言えず俯いた
不自然な振る舞いの我
皆みたいになれない
校内にカマキリが出現すると
女子は騒いだ
きゃーきゃー叫び、避けた
我はカマキリが踏まれてしまうのがいやで
つかんで、逃がした
振り返ると
険しい顔
信じられないとでもいうように見開かれた目
埼玉では虫が飛び交うのは日常茶飯事
東京では滅多にないこと
我は異物だった。おそらく
今まで当たり前だったことが
当たり前じゃなくなる
よくあることだが
やっぱりわからなかった
1人で己のペースを取り戻す
見つめ直すのがどんなに大事か
わかっていなかった
全力で取り組むべきは馴染むことじゃない
己を見失わないこと
我は変わった
父も、母も、姉も変わった
家族仲はどんどん悪化していく
家にいるのが辛くなった
中野に、埼玉に
帰りたかった
大好きだったあの空気は
家中、どこにもなかった