2年生
進級して
クラスはそのまま
担任の先生だけ変わることになった
F先生は他の学校へ転勤
新学期、壇上に転勤する先生がずらっと座っていた
我は花束を渡すことになっていた
ひたすら悲しかった
幼稚園の先生との別れを経験し
もう会えないということを学習していたからだ
新しい担任の先生が紹介された
Y先生
おっかない厳しい先生だった
花束を渡し終わって戻る列がわからなくなった我の腕を引っ張り
「なにグズグズしてるのっ!」
と一喝
しょ、初対面なのに
先生が黒板に板書中
チョークが折れると
以前と同じように同級生皆で
「チョークが生きてるー!」
と唱和した
先生は顔を強張らせた
「それは何?」
「F先生が、こういうときはそう言えと言いました」
「そう……チョークは生きていません!」
はっ?この先生は何を言っているのだ?
我は面食らった
休み時間、教室のあちこちで飛び交った
???
「え、どうしよう」
「先生なんであんなこと言うの」
「こわかったねー!」
「チョークは生きてるのにね!」
「Y先生は知らないんだよ」
「そっか。そうだよね!」
その後、黒板消しが落ちても
「黒板消しが生きてるー!」
と言う者は減っていった
チョークが折れても黒板消しが落ちても
何か言おうとすると
先生が睨み付けるのだ
2ヶ月も経つと
誰も何も言わなくなった
チョークと黒板消しはしんだ
F先生は楽しいクラスを作りたかったのだろう
Y先生は本当のことを生徒に伝えただけだ
ただ、我は最初に教えられたことが
染み込んでしまう性質で
それを上書きも、書き換えることも困難だ
今も苦労している
F先生が
「人の話を聞くときは人の目をじっと見ましょう」
と言ったから
我は今も人の目をじっと見る
障害の中で積極奇異型に分類されるから
余計にそうなのかもしれないが……
授業中も先生の目をじっと見る
中学生、高校生、大学生になっても
目が合って当てられる
周囲の人からは散々嘆かれた
「もう見るのやめてくれ!」と
やめられなかった
だから高校生になっても
胸の中で
チョークが生きてるー!と自動的に言ってしまう
話を2年生に戻す
厳しさはこんな所にも
漢字テストでほんの少し
はね、とめ、はらい
が甘いとすかさずバツをつける
保護者から非難の嵐だった
すごかった
しかし、規則でがんじがらめにするわけでなく
愛情に溢れていた
どんどんクラスに笑顔が増えた
終業式の日
生徒全員にハンカチをくれた
とても2年生に似つかわしくない
大人びたハンカチ
「これが似合う、素敵な大人になってね」
の一言を添えて
先生は泣いていた
女子も、男子も数人泣いた
Y先生も転勤が決まっていた
またお別れだ
Y先生宛に
就職しても年賀状を書いた
特別な先生だった
素敵な先生だった