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エルミア

 戦いに敗れた金髪エルフの少女。その彼女を死地から救わんとばかりに、必死に背負い歩く銀髪のエルフ。


 そんな彼女達の従者をしている自分。


 傍から見るとそんな風に見えるかもしれないなと、荷物を抱えながらぼんやりと考える。


 少女を家まで運ぶ必要はなかったかもしれない。


 彼女が目覚めるのを待ち、食料を材料に情報交換をしたら良かったのではなかろうか。


 横を見ると妹が汗を掻きながら、金髪の少女を背負って歩いている。


 ――まだ変化した身体に慣れていないだろうに。


 その様子を見ていると、妹には申し訳ないが彼女を家に運ぶという選択も悪くないように思えた。


 こうやって誰かの世話をしている間は、日本への郷愁の念を感じる暇もないはずだ。


 単なる先延ばしに過ぎないかもしれないが、妹の泣いている姿なんて見たくはない。


 でもきっと現実が押し寄せてくる日が来る。恐らくそう遠い日ではないだろう。


 そして、今の自分にはその現実に対処する術をもたない。


 召喚があるなら送還だってあるはずだ、自分はともかく妹だけでも――


 焦る心を胸に残したまま、我が家へと辿りついた。


 妹と協力し金髪の少女を、リビングのソファーへゆっくり横たわらせる。


 自分は洗面所から大きめのタオルケットを取り出し、少女の上へとかける。


 その間に妹はスリッパをパタパタさせながら、昨日の晩ごはんの炒飯を取り出そうと冷蔵庫を開ける。


 そこで冷蔵庫に電気がきてない事に気づいたのだろう。


 慌ててリビングに戻り、照明のスイッチをパチパチとオンオフを繰り返す。


 朝日は完全に登り、部屋には明るい日差しが入ってきている。


 だが、文明の灯火が消えた我が家は、いつもより薄暗く感じられた。


 「ねぇにぃに、これからどうなるのかな・・・」


 不安気な表情をし、自分のシャツを摘んでくる。


 大丈夫だ。なんとかなるさ。俺がついてる。きっとすぐ帰れる。そんな言葉がいくつも頭をよぎる。


 自分には妹を手を握る事しか出来なかった。




 気分を紛らわすように、一緒に冷蔵庫の中の整理をしようと提案した。


 日持ちしないものと、保存に向いているものをメモ用紙にピックアップしてもらう。


 その間、自分はクーラーボックスを取りに、家の横にある倉庫へと向かった。


 倉庫の中からクーラーボックスを見つけ玄関へと急ぐと、車庫の辺りから黒光りするものが視界に入った。


 どうやら車庫の上についたソーラーパネルが、光を反射しているようだ。


 今も元気に発電してるはずだが、さすがに世界を隔てて売電は出来ないだろう。


 ん?発電・・・そうだ!確か家にはパワーコンディショナーが付いていたはずだ!


 慌てて家の側面に備え付けられたパワコンへと走りよる。


 長方形の形をしたパワコンからはジィーーという音が聞こえる。


 どうやら発電状態のようだ。


 家に駆け込み、リビングに壁に設置されている太陽光システムのリモコンを、スリープ状態から解除する。


 後ろから妹が何事かと覗いてくるが今は後回しだ。


 カラー液晶画面には発電状態中の文字と蓄電池の状態はFULLと表示されていた。


 緊張に震える手で自立運転のボタンをONする。


 暫くするとリビングに明かりが灯った。


 「にぃに、これどういうこと?」


 呆気にとられた様子の妹に簡単に説明する。


 家の屋根・車庫の上にはソーラーパネルが設置されており、停電時にはソーラーパネルと蓄電池から電気を賄える。


 太陽が出ている限りは、僅かではあるが電気は供給される続けると。


 そう言うと、不安気だった妹の顔が安堵の表情へと変わる。


 妹にはそのままリビングで、電化製品の電源を全て抜くようにお願いした。


 自分は洗面所にある配電盤にいき、念のためリビングとキッチン以外のブレーカーは全て落とした。


 そうしてリビングの中心に二人で座り込み安堵の息をつく。


「にぃに、凄いよ!電気だよ!電気!」


 天井にある照明を見ながらはしゃぐ妹をみて、思わず頬が緩むのを感じる。


「あっ、にぃにもやっと笑った。やっぱり電気は凄いよ!」


 ――いや、凄いのは亜奈、お前の方だよ。




「ん・・・いい匂いー」


 日持ちしない冷や飯や卵・青物野菜を使い、IHで炒飯を炒めていると、呑気な声が聞こえてきた。


「にぃに、目が覚めたみたいだよ!」


 ソファーに横たわる少女の横に座り、様子を見ていた妹が声を上げた。


 あいつ設定の事、頭から飛んでないか?


「ん?・・・ここどこ!」


 ソファーからガバリと起き上がり、周囲を警戒する金髪エルフ。


 出来上がった炒飯をフライパンから盛皿の上に広げ、リビングのテーブルの上に置く。


「ここは俺たちの家ですよ」


 そう言いながら妹へちらりと視線を向けアイコンタクトする。


 妹はしまった!という顔してすぐに笑顔を浮かべる。


 こやつ笑い流すつもりか。


 炒飯の匂いに吸い寄せられるように、テーブルへと近づく金髪エルフ。


 「もう日は高いです。まずは食事にしましょう。話はその後で」


 全員の皿へ炒飯をよそうが、未だに警戒気味な金髪エルフ。


 それを見た自分は彼女からよく見えるように、口を大きく開け炒飯をレンゲですくい食べる。


 強火で一気に炒めたので野菜もシャキシャキとしており、米と卵も上手く絡み合い十分美味しい。


 作ってる最中は冷蔵庫を付けてる事もあり、パワコンの総出力が心配だったがIHの強火でも問題なかった。残りの備蓄電力は気になるが。


 自分の隣に座る妹が、美味しそう頬張っている様子を確認した彼女は、恐る恐るレンゲを手に取り炒飯を口に含む。


「あ、これ美味しい」


 そこからは怒涛の勢いで食べ続けた。


 炒飯の盛皿は瞬く間にその底を晒し、更には食後にと用意していたクッキーまでも、一人で食べ尽くした。


「あー生き返ったー。こんなに食べたのは久々だよー」


 ようやく満足した彼女の様子にほっとし、電気ケトルに備蓄用の水を入れお湯を沸かす。


 あっという間にお湯が湧き、紅茶のティーバッグをカップに入れお湯を注ぐ。


 紅茶の茶葉なんて高級なものは家にはないのだ。ゴールデンルールとかも知らないし。


 それでも彼女は香りを楽しむように飲んでくれているようだ。お口に合ってなにより。


 ちなみに妹は猫舌の為、フーフーしながらちびちびと飲んでいる。身体が変化してもそこは変わらなかったのか。


 カチンと金髪エルフのカップが受け皿に乗る音が部屋に響く。


 さて、ここからが本番だ。


「正直、人族から恩を受けるのは癪に障るけど。食事、ありがとう。本当に美味しかった」


「いえいえ、仮にも姉の同族ですからね。それに困った時はお互い様ですし」


 カップの淵に口を付けながらそういうと、彼女は少し困ったような顔をした。


「それで・・・この家は何?あとそんな魔道具、私は知らない」


――魔道具ときたか。魔法とかあるんだろうか。


 横にある電気ケトルに、視線を投げながらそう言う彼女。


「この家は俺達も最近見つけたばかりなんで、詳しい事は分からないです。この魔道具もここにあったので出処とか知りません」


 気持ち彼女の視線が強まった気した。流石に知らぬ存ぜぬでは通らないか。


「まずは自己紹介をしませんか?俺は如月 将登、こちらは姉代わりの亜奈です」


「・・・私はエルミア。会った時も言ったけどナーナリアから出て旅をしてる」


 その言葉を聞いた妹が、思い出したかのように口を挟んできた。


「エ、エルミアさんもですか?ぐ、偶然ですね、私もナーナリア出て旅をしてるんです。そ、それで旅をしてる途中で、この子を拾って弟代わりにしてるんです」


 ・・・開いた口が塞がらないとはこういう事をいうのか。


 あまりの大根役者ぶりに口を挟む事も出来なかった。


 妹の顔を見ると目がグルグルと回りと錯乱状態のようだ。


 背中をバチンと叩くと、正気に戻ったのか背筋を伸ばし正座をして、顔を赤くしながら俯く。


「ねぇ、アンナちゃん。この少年に何か弱みでも握られてるの?ちゃんと言ってくれたら助けるよ」


 先ほど彼女が言っていた「恩」とは一体なんだったのだろうか?


 心なしか彼女の身体が、壁に立てかけてある剣に近くなった気がする。


「よ、弱みとかそんな・・・私はいつもにぃじゃなくて弟に助けられてばかりで・・・さっきも――」


 俯きながらも、そんな事を言う妹。


「ふーん・・・そう」


 瞬間、目の前に座っていた少女が立ち消え、テーブルの上に現れた。


 左手には青い鞘が握られ、右手は剣の柄を掴んでいる。その刀身は淡く輝いているようにもみえる。


 彼女は無表情を顔に張り付かせ、勢い良く右手を振り上げる。視線の先には妹の姿が――


 とっさに隣の妹に覆いかぶさり、瞼を閉じ次の衝撃に身を構える。


 ・・・・・・・・・あ、あれ?


 そのまま体勢で、恐る恐る彼女の方へと目を向けると。


 「いやーごめんねー。私って、腹のさぐり合い苦手なんだよねー」


 そこにはテーブルの上に立ったまま、勝ち誇ったかのように紅茶を飲む金髪エルフ、エルミアの姿があった。


 ――やられたっ!

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