その覚悟の先に
こちらへと迫る一体の魔物。
その魔物の姿は全身緑色の巨体で、片手には巨大な斧を持っている。
どこかあの三つ目のオーガと酷似した風貌に、若干恐怖を覚える。
「どうするね。この距離ならまだ馬車で逃げ切る事も可能じゃが」
ターシャさんは、御者台の収納スペースからショートソードを取り出して、はるか遠くの人影を見つめている。
「いえ、完全にこちらを捉えてるわ。夜中に奇襲された方が厄介だし、敵は一体とはいえ等級の高いオーガよ、早めに駆除しておきましょう。それで少年――あなたどうする?」
エルミアは馬車の収納スペースから弓矢を取り出し、こちらを試すような目つきしてくる。
その瞳を真っ直ぐ見つめ返し、自分にも言い聞かせるように返事をする。
「昨日の夜も言っただろ、行かせてくれ」
「そう・・・ならフォローは私に任せて。危険だと判断したら無理矢理にでも割り込むから」
エルミアは胸当てを装備すると弓を素早く組み立て、青い鞘の剣を剣帯に腰へと下げる。
「ちょ、ちょっと待ってよ!なんでにぃにが戦う事になってるの!エルミアさんやターシャさんじゃないの!?」
慌ててこちらに駆け寄ってきて、両手を広げオーガへの進路を遮ろうとしてくる。
「亜奈、前から決めてたんだよ。俺もこれから戦おうって」
「エルミアさんの時みたいに、また死にかけるような怪我をしたらどうするの!?なんでそんな無茶ばかりするの!」
「アンナちゃん、これは少年が決めた事よ。私達が口を出すべきじゃないわ。それに何故、少年が戦おうとしてるのか分からないの?」
「そんなの分からない!分かりたくもない!またあんなにぃにの姿なんて見たくない!」
瞳に涙を浮かべながら頭を左右に振り、自分にしがみついてくる妹。
「子供みたいに駄々をこねないで!少年が誰のために――」
エルミアが妹へと歩み寄り肩に手を掛ける、その前に彼女の腕を掴む。
彼女と視線を合わせ、ここは任せてくれと意思を伝える。
それが伝わったのか、彼女は溜息をつきながら妹から手を引き、両腕を組んでオーガの方へと向きなおった。
矛を収めてくれた彼女の感謝し、未だこちらにしがみついている妹の頭を、安心させるように撫でる。
「大丈夫だよ、亜奈。エルミアとの模擬戦も見ていただろ?前みたいな事にはならないし、無理そうだったらちゃんと逃げるから」
「・・・私がこんなに言ってもきいてくれないんだね」
妹は腕で涙を拭うと、決意を秘めた目をして口を開いた。
「分かった。それなら私も、にぃにと一緒に戦う!」
その思いもよらない言葉に、一瞬息が詰まった。
「な、何を言ってるんだ!亜奈が戦う必要なんてない!ここは俺に任せておけばいいから!」
「それなら、にぃにだって戦わなくてもいいじゃない!精霊さんに頼んで私も――」
刹那、背筋にゾクリと悪寒が走った。
慌てて顔を上げて前方の荒野に意識を集中すると、そこには身体中から血を噴出させながら、苦しんでいるオーガの姿があった。
「エルミア!あれは一体何だ!」
「分からないわ!私もあんなの見たことがない!」
血なまぐさい風と共に威圧感が一気に押し寄せてくる。一刻も早くこの場から立ち去れと本能が警鐘を鳴らす。
これは――そんなまさか!
オーガ周辺の粒子を操作し、その変化していく様をつぶさに観察する。
そこには半透明の粒子が、オーガに次々と吸い込まれている様子が視えた。
意識を更に先へと加速させると、オーガは大量の半透明の粒子を取り込み、元々巨体だった体躯は更に巨大になっていった。
そして身体は赤熱化し流れていた血が赤い蒸気となり、額には今にも開きそうな瞼が現れ――
「エルミア!あのオーガが三つ目のオーガになりつつある!俺が時間稼ぎするから、結界を張ったあとに援護を頼む!」
妹の身体をターシャさんに預け、抜剣して荒野へと走りだす。
「にぃに待って!お願い行かないで!!」
背中に伸ばされる手を置き去りにして、更に身体を加速させる。
オーガを視ると身体の一部が膨張し始め、それに続くように付近の筋肉が風船を膨らますように大きくなっていく。
身体が変化していくにつれ、精神的な圧迫感が増大する。
このままでは自分がたどり着くその前に、オーガは災害級へと変化を果たしてしまうだろう。
せめて知識神の加護、あの三つ目のオーガを灰すら残さず燃やし尽くした炎さえあれば・・・
その時、エルミアのミスリルソードの剣先から、勢い良く炎が出ていた光景が脳裏によぎった。
もしや、あの赤い粒子を使えば再現できるか!?
刀身に赤い粒子を纏わせ振動させると、刀身全体から勢い良く炎が吹き出した。
だめだ、これでは足りない。いや、そもそもあの炎とは根本的にナニカが違う。
オーガのその肉体は膨張を止め、赤熱化し赤い蒸気が辺りを包み込んでいた。
間に合わない。三つ目のオーガになってしまったら、自分達は為す術もなく殺されてしまうだろう。
そしてそこには妹の変わり果てた姿が――そんなの認められない!
剣の柄を思いっきり握りしめると、柄が小刻みに震え始めた。
刀身を見るとそこには真っ赤に染まり、今か今かと刀身全体が点滅していた。
まだオーガとの距離は十分にある、今ならアレを使えるはずだ。
後方ではエルミアが結界を張ったのだろう、馬車の周囲を光の壁がそびえ立つのが視えた。
オーガの額には瞼が現れ、その中身がギョロギョロと動いているのが分かる。
両手で剣を持ち、そのまま肩口に柄を構え切っ先をオーガへと向ける。
激しく点滅を繰り返す粒子達を剣先へ誘導すると、もう臨界状態だと言わんばかりに赤く輝きだした
「間に合えーーーーー!!!!」
砂を巻き上げ両足を踏ん張りながら止め、剣をオーガへと思いっきり突き出すと、剣先から一際明るい光が溢れだし、その中から一筋の赤い光芒がオーガへと疾走した。
剣先から細長く伸びる一筋の赤い光とオーガが接触する、と同時に周囲の音という音が消え去った。
次の瞬間、オーガを中心に巨大な爆炎が立ち昇った。身体を伏せて続けて来るであろう衝撃波から身を守る。
ドン!という空気の壁が身体を震わせ、身体がひっくり返りそうになるのを必死で耐える。
そうして伏せた頭を上げると、オーガがいた周辺の上空には、雷鳴を轟かせている巨大なきのこ雲が発生していた。
あの日の夜のものとは比べ物にならない威力に唖然とする。
ハッとしてすぐさま粒子達を先行させ、その砂煙の中へと突入させる。
粒子達から次々と状況が伝達されてくる。そこには直径100M程のクレーターが生まれ、その中心に蠢くナニカを見つけた。
その付近の粒子達から情報を拾うと、そこにはビクビクと動いている全身黒焦げの物体があった。
半透明の粒子の流入は既に止まっており、恐らくはもうすぐその命の灯は消えることだろう。
横に転がっていた剣を拾い上げ、抉れた大地に足を踏み外さないよう気をつけながら、クレーターの中心へと向かう。
中心部にたどり着くと四肢が吹き飛び、辛うじて息をしているオーガがいた。
目からは透明なゲル状の物質が流れだしており、額の開きかけの瞼からは脳漿を飛び散らせている。
突然吐き気が押し寄せ、その場に朝食べたものを撒き散らした。
自分の呼吸が荒いのが分かる、このままでは過呼吸になってしまう。
目を瞑り、浅く浅く息をして気持ちを落ち着かせる。
どのくらい経っただろうか、漸く落ち着きを取り戻し、改めてオーガを見るとまだ息があるようだった。
剣に赤い粒子を纏わせ、数瞬毎に振動を繰り返すと、剣から竜巻のように炎が溢れだした。
やはり三つ目のオーガを倒した時の炎と比べると弱々しく感じるが、今はこれで十分だろう。
炎を纏わせまま、剣をオーガの頭上へと掲げる。
自分はこれから命を一つ奪う。三つ目のオーガの時とは違い、その場の感情に任せたものではない。
殺さなければ殺される、その先にあったものがこの現実だ。
今回は自分の方が分があった、ただそれだけの事。
この異世界で生きていく以上、自分はこれから同じ事を繰り返していくのだろう。
背負っているのは自分の命だけではない。それでも――命を奪う事は正しいのだろうか。
覚悟が揺らぎそうになる。
「私が変わろうか?」
振り返ると、エルミアが心配そうな顔でこちらを見ていた。
いつからいたのだろうか、随分と情けない姿を晒してしまった。
思えば妹の静止を振り切ってまでも、戦場にきたのだ。そうまでしたのは――
首を横に振る。
そして剣を振りかぶり、思いっきりオーガの頭へと突き刺す。
頭蓋骨を割り、脳を突き破る生々しい感触が手のひらから伝わる。
せめて苦しまないようにと、粒子の動きを加速させ一気に脳を焼きつくす。
オーガは声をあげる事もなく、静かにその生命の火を消した。
「そう、決めたのね」
こんな自分を見守ってくれた彼女に心の中で感謝し、ゆっくりと剣を引き上げる。
「ああ、決まったよ」
粉塵の隙間から太陽が覗き、自分達を祝福するように辺りを照らす。
この時、この瞬間。自分はこの世界で生きる覚悟を決めた。
エルミアの指示に従い、オーガの遺体を紋章の中に収納した。
なんでもターシャさんの村・カナエ村付近は危険だという事を、隣村・サーリア村に伝える時の材料になるそうだ。
あと、三つ目のオーガになりかけていた姿は、その希少性からそれなりの恩賞も出るだろうとの事だ。
エルミアもターシャさんも、オーガが災害級に変化するなど聞いたこともないらしい。
そして、戦いの中ほっぽり出してしまった我が妹はというと。
「なぁ亜奈、そろそろ離してくれないか」
馬車の中で膝を付き、自分の胸に頭を埋めていた。
「本当の、ほんっとーに具合が悪いところはないんだよね?また頭痛とかしてない?」
「だから、本当の本当の本当に、どこも調子の悪いところなんてないって。ウンディーネも太鼓判を押していたんだろ?」
そうなのだ、あれだけ粒子制御をしたというのに、今回は頭痛の一つもなかった。
「ねぇアンナちゃん。少年もそう言ってることだし、いい加減離したら?」
目の前に座るエルミアは、こめかみの辺りをピクピクと痙攣させていた。
「それでも心配なものは心配なの。それにこれは、私達兄妹の問題だからエルミアさんは口を出さないで!」
プイッとエルミアの視線から逃れ、また自分の胸に頬を当ててくる。
「亜奈、エルミアにそんな言い方はやめてくれ。今回の件は俺からお願いした事だって言っただろう」
「そうだけど・・・それでも私は、にぃにの事が心配で・・・」
そうして瞳から溢れる涙を自分の胸に押しつける。
エルミアは肩をすくめ、やれやれといった感じで窓の外へと視線を移した。
妹の頭をゆっくりと撫でて落ち着かせる。
「心配させてごめん。でも、これからこの世界に生きていく上で必要な事だったんだよ」
今回の戦いで、自分の意思で魔物を殺し、この世界で生きていくという覚悟を得た。
その中で魔物に対する有効な手札もいくつか手に入った。
しかしそれでも今の自分には、静かに流れる妹の涙を止める事は出来なかった。
そうこうしている間に、馬車は昼の休憩場所へと辿り着いた。
馬車を降りても妹は自分の腕から離れそうにないので、仕方なくそのままにしている。
エルミアの凄然たる視線が背中に突き刺さるのを感じ、こちらはこちらで頭を悩ませる。
ターシャさんが馬を引き、一本の大きな木へと誘導する。周辺には草も生えており、餌には困らないだろう。
辺りを見渡すと古めかしい石垣が乱雑に山積みになっており、その周囲には人が住んでいたであろう石積みの壊れた家が点々とあった。
「ターシャさん、ここって一体なんだったんですか?」
水と岩塩の入った桶を手にしているターシャさんに話しかける。
「ここは大昔の戦争で使われてた砦跡じゃよ。なんでもここら一帯は国境沿いじゃったらしいからの、その名残じゃて」
国境――それは他種族とのものだったのか、それとも人族同士のものだったのだろうか。
日本にも戦争の爪あとは各地に残っている、世界を見渡せば今なお紛争状態の地域だってあった。
しかし、現代日本で戦争とは無縁の生活を送ってきた自分にとって、目の前に広がる光景はどこか現実味のないものだった。
「ここらで昼食としようかね。あんたらも用意をお願いするよ」
「ええ、分かりました」
ターシャさんは手際よく石を重ねて簡単な竈を作り、ヤカンに水を入れお湯を沸かしていく。
自分達は小石の少ない場所に、レジャーシートを広げ昼食の準備を始めた。
エルミアはピカピカの皿とコップを、馬車の収納スペースから取り出し、複雑そうな顔をしている。
それもそのはず、我が家にあった食器は全自動食器洗い機・ウンディーネさんにより、全て綺麗に洗われたのだ。
昨晩、妹とターシャさんが見張りをしていた時に、バックアップとしてウンディーネを召喚したらしいのだが、暇を持て余した彼女が勝手にやらかしたそうな。
油のこびりついた焼き肉のプレートもなんのその、洗剤すら使っていないのに水の圧力だけで汚れを落としてしまった。
汚れを全て落としきったウンディーネは晴れ晴れとしたイイ笑顔をしていたそうだ。
その話を聞いたエルミアは、朝っぱらから真っ白な灰になっていた。
それでも、彼女の敬虔な信仰心は折れずに「これも精霊様のお導きこれも精霊様のお導き」と念仏ように唱え、その精神をすぐに回復させた。
彼女もこの状況に対する耐性がついてきたのだろう。
レジャーシートの上に鍋敷きを置き、その隣にターシャさんから頂いた黒パンの入ったバスケットを置く。
ターシャさんが急須に茶葉を入れ、ヤカンからお湯を注ぐ。使っている急須と緑茶の茶葉はターシャさんに贈呈したものだ。
緑茶をいたく気に入ってくれていたターシャさんは、それを手放しで喜んでくれた。
そしてターシャさんから、そのお返しとして例の王室御用達の紅茶の茶葉を丸々一瓶頂いた。
急須もお古だし緑茶の茶葉だってそんなに良いものでは無いので、釣り合ってないと固辞したのだが、その価値を決めるのは儂じゃと無理矢理押し付けられた。
「それじゃあ食べようか」
「そうねーなんだかんだで良い時間になっちゃったしー」
紋章から鍋を取り出して鍋敷きの上に置き、蓋を取ると湯気と共にシチューの香り辺りを包み込む。
昨日の夜、一旦シチューを沸騰させてから紋章に収納したのだが、やはりそのままのようだ。
妹も空腹だったのだろう、シチューを見ると目の色が変わり、率先して皆の皿についで回った。
そうして、黒パンをシチューに浸しながらゆっくりと食べ始める。
「やっぱりこうやって外で皆と食べると美味しいね、にぃに」
良かった、どうやら機嫌を直してくれたようだ。
しかし、この先また同じような事になると思うと気が気が出ない。妹の心の事も心配だ。
どうしたものやらと考え込んでいると、ターシャさんが妹に話しかけた。
「アンナちゃんや、坊主が魔物と戦う事がそんなに嫌なのかい?」
「だって、また怪我して帰ってきたらと思うと、心配で堪らないから・・・」
シチューを食べる手を止めて、俯く妹。
「そうじゃね、心配するじゃろうね。じゃがそれはアンナちゃんに許された特権でもあるんじゃよ」
「私の特権?」
「そうじゃ。好いた女子の為に勇気を振り絞って魔物に立ち向かう。口では簡単に言えるがの、実際にやってのけるのは男子はそうはおらん。そして坊主に勇気を与えたのはアンナちゃん、おまえさんなんだよ」
いい加減、ターシャさんの誤解をきちんと解かねばならない。しかし今、説明するのは無粋だし次の機会にしよう。
「そんな・・・私のせいでにぃにが・・・私そんなつもりじゃ」
「勘違いしなさんな、あんたのせいじゃない。男はほんに馬鹿な生き物でね。儂らがいくら止めても自分が守ると言って聞かん。それがどんなに絶望的な状況でも、やせ我慢してまで堪える。ほんに、馬鹿な生き物じゃよ」
そういうとターシャさんは空を見上げ、どこか懐かしげな表情をした。
「じゃがね、アンナちゃん。そんな馬鹿な男を送り出して、また帰ってくる場所を守るのが儂らなんじゃよ。そして、その心配する想いは誰のものでもない、儂らにだけ許された特権じゃ。じゃから、あんたも坊主を少しは信じて送り出してみてはどうじゃね。なに、怪我して帰ってきたらこっぴどく怒るのも泣きつくものええ。好いた女子にそんな事をされるのが、一番男には堪えるからの」
エルミアはどこか面白くなさそうな顔をしてシチューを食べ続けている。そんなにお腹が減っていたのだろうか。
「にぃにを信じて・・・」
「それに災害級を倒した坊主じゃ、簡単にはやられたりはせんよ。儂らの常識外の力も持っとる。今朝のとんでもない爆発魔法もみたじゃろ?あんなの王都の宮廷魔術師様でも無理じゃろうて」
ターシャさんのその言葉に、妹はこちらに顔を向ける。
「うん、そうだね・・・私、少しだけにぃにの事を――」
「災害級と爆発魔法ですって!!!」
その叫び声に反応にして、エルミアとターシャさんが一瞬にして立ち上がり、それぞれの武器を構えた。
自分も慌てて声のした方へ顔を向けた瞬間、ガツンと頭を殴られたような衝撃を受けた。
「斎藤、もう諦めろってそんな子がいるわけないだろ、いい加減現実見ようぜ。センターまで半年切ったし、また俺の家で勉強するか?」
教室の机の上で、アニメ雑誌とコスプレ雑誌をペラペラと器用に両手で捲る斎藤。
「止めてくれるな如月。世界は広い、絶対にいるはずなんだよ。貸したDVDは見てくれたよな?」
「いや、世界は広いかもしれんがアレはぶっちゃけ無理だ」
「そんな事はない!古今東西のレイヤーさんが実現させようと今なお努力してるんだ、絶対に最適解があるはずなんだよ!」
一体何が、この男をここまで追い詰めたというのだろうか。
「おっこの人、そこそこ似てるじゃないか。てかめちゃ可愛くね?」
コスプレ雑誌には――恐らくは貸してくれたアニメの衣装なのだろう――やたらと胸を強調させ、華々しい衣装を身に纏った可愛らしい女性がいた。
「いや確かに似ているが、なにかが違うんだよ!」
「そりゃ二次元のキャラを三次元の人間が真似てるんだから、完全に一致するわけねーだろ」
「如月の妹にも可能性を感じたが、あれではやはり無理だ」
「人様の妹をあれ呼ばわりするな、殴るぞ」
壊れた石積みの家から現れた少女。歳は今の自分と同じ14、15歳くらいだろうか。
白を基調とした一見ドレスにも見える戦装束と腰には細かい意匠の入った剣、そしてその凛々しい表情からは彼女の揺るぎのない気高さが伺えるが、ロングのツーサイドアップの髪型とリボンが相まって歳相応にも見える。
しかし、特筆すべきはその凛々しい姿や髪型ではなく髪の色である。
日本ではコスプレ雑誌以外では終ぞ見ることはなかった、そのローズゴールドの長い髪は、彼女を一層に綺羅びやかに魅せる。
そして胸が開いた戦装束に、今にも溢れそうな程にぶるんぶるんと揺れる胸部。アレはエルミア以上の逸材に違いない。
――ピンク髪ツーサイドアップ爆乳少女騎士が本当に存在するとは・・・おまえの求めた理想形が異世界にあったぞ!斎藤ーーー!!
「あなた!私の話を聞いておりますの!?あなたが災害級を倒して、朝方の爆発を起した張本人って本当ですの!?」
何時の間にかその少女が自分の前に立っており、顔真っ赤にして怒っていた。
エルミアとターシャさんは警戒を緩めず剣を手にし、妹はその後ろで守られている。
すると突然糸が切れたかのように、少女が自分の方に倒れてきた。
慌てて抱きかかえると、胸の付近に今まで感じた事のない違和感を覚える。
下を向くと有り得ないものが目に入ってきた。
――スイカだコレ。
そう将にスイカップ。少女のその豊満な胸が、自分の胸に押されて形を変えていた。
エルミアを背負った際の、背中を弾かんばかりの弾力があったそれとはまた違い、こちらはまだ少し硬い感じがした。
この期に及んでまだ成長の余地を残しているのか!?
胸とはなんだろう夢が詰まった宝箱だろうか、いやしかし成長する宝箱ってなんだ?と碌でもない事を考えていると「キュルルル」と可愛らしい音が鳴り響いた。
「あの・・・できればそこのスープを頂けないかしら・・・一昨日からお水しか飲んでなくて・・・」
既視感を感じる。
異世界では、胸が大きな人物とのファーストコンタクトの際は、腹ペコ状態が基本なのだろうか?
誤字・脱字等ありましたら報告をお願い致します。




