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新しい絆

エルミアの行動が少し唐突すぎたので、後ほど後半部を大幅に書き換えます。

申し訳ありません。


9/21 13:00 後半部を大幅に加筆修正しました。

 水の身体をした女性――精霊ウィンディーネに、改めて命を救ってくれたお礼を言うと、別にいいのよと言わんばかりの笑顔で両手を振ってきた。


 眼鏡を掛けたモグラ達――精霊ノームは自分を取り囲み、頑なにスマホをせがんできたので、後ほど以前使っていた機種を貸し与えるという事でその場を収めた。


 自分には精霊の声が聞こえないため、彼らには一旦帰ってもらうよう妹に頼むと、精霊達は宙に溶けるように消え去った。


 そんなこんなで我が家に帰り、テーブル越しにエルミアと対面する。妹には遅くなった昼食の準備を頼んだ。その際、自分の好物よりも、傷みやすい食材を優先的に使ってもらうようお願いした。妹は不満気だったが。


「それで何故、亞人種は亜奈を召喚したんだ」


「なんでそれを私に聞くの?」


 紅茶を飲みながら、したり顔でそんな事を言うエルミア。


「誤魔化すなよ。自分は精霊信仰だって言ってたのに、亞人信仰に対して少し詳しすぎやしないか」


「私達亞人種は人族よりも長命なの。それにナーナリアは基本的に亞人信仰だし、嫌でも耳に入ってくるわ」


「自分で大昔の文献を読む程、他の宗教に傾倒していたのか?」


「・・・」


 エルミアの紅茶を飲む手が止まる。


――「文献上だとハイ・エルフ様も顕現された記録もあるわ」


 彼女は確かにそう言った。前回の亜神、ハイ・ドワーフが旅立ったとされる1000年以上前の歴史を、彼女自身の目で確認していたのだ。


「さっきは精霊達に敬意を払っていたけど、亜神である亜奈に対してはその姿勢をほぼ崩していない。その点では、エルミアが精霊信仰者っては信じる」


「でもオカシイんだよ。宗教って言うのは自己証明手段の一つでもある。他の宗教の歴史を事細かに調べるだなんて、歴史家・宗教家か余程の暇人ぐらいなもんだ」


「エルミアのナーナリアでの立ち位置は、亞人信仰の本殿に近かったんじゃないのか?それこそ巫女や神官――」


「あーもう言いたくないのに、なんでそうズケズケと人の心に土足で入ってこようとするかなーデリカシー無いって言われたことない?」


 テーブルに手をついて上半身を乗り上げ、こちらを睨んでくる。


「いや、そのすまん。そんなつもりはなかった。でもこれだけは教えてくれ!なんで亜奈を召喚しようとした!旅立ったハイ・ドワーフってのは元の世界に戻ったのか!?」


 その言葉に深くため息を付き、座り直しながらエルミアは語り始めた。


「私も詳しくは知らない。書庫にある文献はほとんど読んだけど、召喚理由なんて載ってなかった。ハイ・ドワーフ様や歴代亜神様のその後なんてぼかした表現ばかりで、居なくなった理由なんて書かれてなかったの。ただ――」


「亞神様は世界を導く存在だって公には言われてる。そして世界に危機が迫った時に神託が下るって。そして今回、神託が下って長老達が大降臨祭で神降ろしの儀をしたらしいって事だけ。それ以上は分からないわ・・・」


 どういう事だ?世界に危機が迫った時に亜神を召喚するという大義名分があるなら、それは文献に記述されててもいいはずだ。しかも、その後の消息は不明となっている。何か後ろめたい、隠さなければならない事があるとでも言うのか?




「とこでさー」


 思考の海に沈みかけたとき、声が掛けられた。横を見るとエルミアが隣で座りながら、ジッとこちらを見つめている。


「アンナちゃんは亞神様って事で・・・分かりたくないけど、一応分かったわ。それであなたは何者?いくら人族でも私達亜人種や精霊様の事を、全く知らないなんてあり得ないわ。あと召喚されて間もないはずのアンナちゃんから、兄って慕われてるみたいだし」


 その言葉に思わず視線を横にズラす。ところが両手で強制的に頭の向きを変えられ、視界にはエルミアの顔とその金色の髪が広がった。


「何か理由があるのは分かる。でもね、それを聞いたからって私が簡単にあなたを裏切るような真似をするだなんて思われたくはないの」


 ほんのりと頬を紅潮させながらエルミアが続けて言う。


「あなたには二つも恩がある。その内の一つはこの命を救われた。文字通り命がけでね」


 ――それはエルミアの姿が自分には眩しかったからで。


「旅を始めてもう10年以上になるけど、これまで私は自分の力だけで切り抜けてきた。命を狙われそうになった事も一度や二度じゃない」


 ――その歩んできた生き様に。


「これからも自分の力だけでやっていける。そんな自惚れてた時に現れたのが、あの三つ目のオーガだった。自分の力じゃどうしようないと思った。それはきっとあなたも同じだったはず」


 ――その誇り高い姿に。


「それでもあなたは立ち上がって、身体をボロボロにしてオーガを倒して私を救ってみせた。人族に助けられた事は、正直悔しかった――でもね、嬉しくもあったの」


 ――決して自分自身は裏切らないという、その強い意思に。


「だから教えて、あなたの事。次は必ず、私があなたを守ってみせるから」


 頬を染めながら笑うエルミア。その心から溢れた笑顔が綺麗だと思った。


 長いまつげにパッチリとした猫目、光り輝く金色の髪に整った顔立ち。


 そんな彼女の笑顔が、自分に向けられているなんて信じられなかった。


 鼓動が高鳴るのが感じる。そのふっくらとしたピンク色の唇に視線が奪われる。


 エルミアは瞳はどこかとろけるようになっていた。


 そうして見つめ合い、どちらともなく二人の距離が縮まっていき――




「二人でなにしてるの?」


 突如リビングに響いたその声に、エルミアと一斉に距離をとる。


「いやー少年の目にゴミが入ったから取ってあげてたんだー」


 そう言いながら、自分の席に戻ろうと立ち上がるエルミア。


「そうなんだ。どうしても取れなかったからエルミアに取ってもらったんだ。うん、助かったよ」


 自然体でカップを手にとり、紅茶を口に含む。


「ふーんそーなんだ。仲良くて羨ましーなー。そーいえば二人は「キス」してたし、トーゼンだよね」


 エルミアは足が滑り床に頭をぶつけ、自分は口から紅茶を吹き出した。


「えっとアンナちゃん?どこから見てたの?」


 エルミアがそう言うと、妹は顔を無表情にしながら笑った。無表情で笑顔ってどういう事だ!?


「にぃにが死にそうになってたとき人工呼吸してたでしょ?あ、そうかあれはキスじゃなかったかー間違えちゃったー」


 自分とエルミアが凍りつく。そもそもあの時、人工呼吸とかされてたのか。つい視線でエルミアの唇を追いかけてしまう。


「ねぇにぃに?どこみてるの?もう昼ごはんだよ。早く食べようよ」


 テーブルにドンドンと置かれるサンドイッチ、見るからに美味しそうだ。しかし・・・


「なぁ亜奈、コレ何?」


 目の前には皿には、食パン一枚が載せられていた。


「食パンの賞味期限が今日までだったから。にぃにも傷みやすい食材からって言ってたし」


 それは構わないが付け合せというか、せめて焼いてくれと。それに確か、昨晩のサラダが余っていたはずだが。


「せめてマーガリン――」


「マーガリンもバターも賞味期限まだまだ先だよ。こんな状況だし勿体無いよ」


 テーブルの上のサンドイッチを見ると、マーガリンかバターだかが塗られているのが分かる。


 妹をみやると、とてもいい笑顔をしている。


 ヤケクソ気味に食パンを喰らい尽くした。エルミアはそんな自分の姿を、サンドイッチを片手に笑っていた。




「いやー少年のご飯も美味しかったけど、アンナちゃんのも美味しかったーあんな柔らかいパン食べたの始めてだよーこんな生活してたら旅に戻れなくなりそー」


「うん、お口に合ってよかったよ」


 そんな自分は冷蔵庫から牛乳をコップに少量注ぎ、胃袋にある食パンを少しでも膨らませ、腹持ちを良くしようと試みていた。


「ところでエルミアさん、私達の関係、にぃにから聞いた?」


「えっと、まだだけど・・・」


「私達はね。ちゃんと血の繋がった兄と妹なんだよ」


 慌てて牛乳を飲み干し、リビングへと飛び込む。


「亜奈、ちゃんと説明しただろ。なんで――」


「にぃに口の周りに白いヒゲが付いてる。あとにぃにも言おうと思ってたでしょ」


 急いでティッシュで口周りを拭う。


「・・・なんでそう思った」


「これでもにぃにの妹歴14年だからね、考えてる事は大体分かるよ」


「そうか・・・それじゃあ仕方ないか」


 覚悟を決め、妹の横へと正座する。妹もそれに習い足を正す。


 目の前のエルミアは、目をパチクリさせながらこちらを交互に見比べている。


 妹と共に両手を床に付く。そして――



「「騙しててごめんなさい」」



「えっなに?」


 二人で頭を起こし、エルミアに向き直る。


「信じられないと思うが、まずは聞くだけ聞いてくれ。」


 そうしてこれまでの経緯を語った。


 自分達は異世界で人間の兄妹であり、その世界には魔法などは存在しない事。


 自分が高位次元の転送事故で若返り、その時に神に助けられ、その神から加護を貰って妹の召喚に割り込んだ事。


 この世界に召喚されたあと、妹は人間からエルフの姿となっていた事。


 この家は、召喚に巻き込まれた異世界の自分達の家である事。


 この世界の情報が揃うまでは、自分達は姉弟としてこの世界の住人を演じようとした事。


 三つ目のオーガと戦った時の力は既に自分にはなく、今は神の加護すらない普通の人間に戻った事。


 そして元の世界に戻るための方法を、これから探そうとしている事。


 まずはこの周辺にあるらしい召喚陣を、探そうとしている事。


 これらを話した。エルミアは真剣な様子で聞き入っていた。




「ふーん、なるほどねー。色々納得はしたかなー。でも精霊様のいない世界なんて想像もつかないなー。代わりに色々と便利なものがあるようだけど」


 電気ケトルを手に取りそういうエルミア。


「信じてくれたのか?」


「一応ね。でも高位次元?の神様っていうのが良く分からないんだけど。亞神様とは違うの?」


「なんて説明したらいいかな。亜神はこの世界で崇められてる存在だけど、高位次元の神様達は色々な世界を管理している存在らしい。まぁ色々と制約があって、こちらの世界にはあまり干渉できないようだけど」


「神様の神様って事?」


「俺も詳しくは知らないけど、その認識で大体合ってると思う」


「・・・そう、よし決めた!」


 エルミアは突然立ち上がり声を上げた。


「あなた達が元の世界に帰るまで、私が護衛してあげる」


「エルミアさん、旅の途中じゃなかったの?」


「まぁ急ぐような旅でもないし大丈夫よ。それともアンナちゃんは、愛しのにぃにと二人っきりの方が良かったのかなぁ?」


 ニヤァと口を歪ませ妹に語りかけるエルミア。


「い、愛しのって何いってるのエルミアさん!にぃにと一緒に居たいのはエルミアさんの方じゃないの?さっきはキ、キスしようと迫ってたし」


「な、なな、何言ってるのかなぁこの子は!そもそも人族との恋愛なんて不毛よ不毛。あり得ないって」


 ぎゃあぎゃあと言い争っている二人の様子に、笑いがこみ上げてくる。


「なぁエルミア、本当にいいのか?俺としては正直ありがたいんだが」


「さっきも言ったけど、あなた達には大きな借りがあるの。人族に借りを作りっぱなしなんてエルフ失格だわ」


「そうか・・・じゃあこれからよろしくな」


 立ち上がって手を差し出す。そんなこちらの行動にきょとんとして、次には自信ありげに胸を張り笑ってきた。


「人族の護衛なんて普通ならやらないんだから。ちゃーんと感謝してよね」


 そんな口調とは裏腹に、しっかりとこちらの手を握りしめてくる。


 日本にいる時は友人とは疎遠になり、最近では話し相手と言えば妹ぐらいだった。


 そんな中、突然の異世界からの召喚。そこには、知識神やエルミアとの新たな出会いが会った。


 未来の事なんて分からない。でも今はこの新しい絆を大切にしたいと心から思う。




「それじゃあ、話も纏まったところで、エルミアさん。私についてきて。にぃには、そこにあるサンドイッチ食べながら待っててよ」


「えっちょっとなにアンナちゃん。そんな風に引っ張らないで、ちょっと苦しい、苦しいって」


 エルミアの首筋を引っ張りながら、二人で二階へと上がっていく。


 妹が座っていた場所に目を向けると、自分の分らしきサンドイッチが隠されていた。


 すぐさま頬張るようにして口に入れる。どうにも自分が思っていた以上に空腹だったらしい。


 食パンだけの味気ないものとは違い、卵・ハム・レタス・トマトがふんだんに使われたそれに思わず唸ってしまう。


 しかし残りの食材が心配になってきた。


 保存食の乾パン・缶詰・レトルト食品など切り詰めれば1ヶ月程は持つだろうが、こういった生鮮食品はあっという間になくなってしまうだろう。


 召喚陣の行方も心配だが、闇雲に動き回らずに、まずはこちらでの生活基盤を整えるが先か。あとでターシャさんに色々と聞いてみよう。


 すると、上から二人がドタバタと騒ぎながら階段から降りてきた。


「エルミアさん、なんでそんなに恥ずかしがるの?さっきのミニスカートだって似たようなものだったじゃない」


「いやーでもそれとこれとは話が違うよー。何この服。ひらひらしすぎじゃない?それに下着だって・・・」


「もう覚悟決めなよ。それに服だってもうぼろぼろだったでしょ」


「だからさー予備の服は持ってるから大丈夫だってー」


「でもそんなに綺麗なのにオシャレしないだなんて勿体無いよ。ほらさっさと歩く」


 そうしてリビングに現れたのは、妹と同じく異世界のエルフという既成概念を根本からひっくり返す、現代日本の衣装を身につけた金髪のエルフだった。


 その姿に思わずサンドイッチが手からこぼれ落ちそうになった。


 ふんわりとしたフレアスカートの白いワンピース。上には紺色のアウターを纏っている。


 陶磁器のような白い肌と黄金色に輝く金髪によくマッチしている。


 そしてファッション雑誌に出ているモデル顔負けのスタイル。


「どうにぃに、エルミアさん似合ってるでしょ。やっぱり綺麗な人は何着ても似合うなぁ」


「あ、ああそうだな。よく似合ってるよエルミア」


 その言葉にエルミアの頬がみるみる紅潮する。


「そ、そう。ありがと」


 なによりも、そのワンピースが持ち上げられる程の胸部が素晴らしい。


 思わずガン見してしてしまう。


「あのさー目つきがなんか怖いんだけどー」


 片手でスカートの端を抑えながら胸を隠そうとする。胸が腕に抑えられその形を変えていく。



 マーベラス!



「別ににぃにを喜ばせるために、着替えてもらった訳じゃないんだけど」


 エルミアと妹が、目を細め冷ややかな視線でこちらをみてくる。


 その重圧に耐え切れず思わず明後日の方を向く。


「でもサイズがギリギリ合って良かったよ。新しく買ってたブラも丁度良さそうだったし」


「そのブラっていうのがこの下着なんでしょ、なんだか胸が窮屈なんだけど」


「・・・」


 恐る恐る妹の方に顔を向けると、前髪でその表情こそ分からないが、なにやら自分の胸を見つめていた。


 突如、両手でエルミアの胸をわしづかみにした。


「ねぇこれ返してよ。私だってこのくらいあったんだよ。なんでエルミアさんだけあるの?ずるいずるいよ!」


「いた、痛いってばアンナちゃん。お願い離してってば!取れちゃう取れちゃうってば!」


「それだけあるなら、少しぐらい分けたっていいじゃない!むしろもげろ!」


「痛いってば!!くっ!この!」


「ひぁあ!ど、どこ触ってるのエルミアさん!やめ、やめてー!」




 ――もう現実から目を背ける訳にはいかない。


 なぜならそこには全人類の男達が夢みた、金髪エルフと銀髪エルフのキャットファイトが繰り広げられているのだから!

誤字・脱字等ありましたら報告をお願い致します。

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