プロローグ
ニーチェの格言にこのようなものがある。
悪とは何か?
弱さから生じる
すべてのものである。
なるほど。確かに的を得ている。
高校時代とある書籍でこの格言に出会ってからというもの、自身の弱さを克服するため常にこの言葉と向き合ってきた。
流され易く優柔不断な性格、内向的で常にネガティブな思考、自己否定。
これらは生まれついての先天的なものか、生活環境による後天的なものかは分からない。
それでもそんな弱い自分が嫌いで必死に自己研磨をした。
状況に合わせ素早く論理的に「答」を導き出し決断する。
それまでのらりくらりと生きてきた自分にとって「思慮深く考える」という事は思いのほか難しかった。
その為に書籍や新聞を読み始め勉学に勤しみだしたのだが、突然の変わりように心配した妹から本気で病院を勧められた。
とにかく動こうと高校2年から運動系の部活に入り、成績はともかく青春の汗を流した。
惚れていたマネージャーに告って振られ目から塩水を流したりもした。
愚直にもその言葉を胸に刻み努力を続け、気づけば第一希望の大学に合格していた。
しかし努力したのは善であろうとしたからでは無い。ただ純粋に弱い自分を変えたかったそれだけなのだ。
大学では様々な出会いがあり、自分より何倍も努力している数多くの人を知った。
60億という数えるのも億劫になるほどの人間。その一握りに存在する「特別」が自分では無い事を知った。
ヒーローはいるだろう(他の誰か)ヒロインもいる事だろう(他の人にとっての誰か)
第一希望の大学に入るという結果は残せた。しかし自分は「何に」なりたかったのだろう。
これまで築いきたアイデンティティが揺らぎ始めたのを感じた。
弱さを克服したいという想いの結果から先が見えず、その場で立ち往生してしまったのだ。
そこからは坂道を転がるように堕落していった。
自主休講する日が増え日中からネットゲームや巨大掲示板にのめり込むようになった。
引きこもりがちになり友人とも合う機会もめっきり減った。
妹は自分の変化に気づいていたようだったが、敢えて以前と変わらず振る舞ってくれているようだった。
今はそれがとても有りがたかった。
季節は巡り大学生になってから2回目の夏を迎え、
俺こと如月 将登は今後の人生を揺るがす大きな出来事を経験する事となる。
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