ep3
一ヶ月とか言いつつストックが二つ分できたので投稿します。
1000PV突破、評価、ブクマありがとうございます。
これからも運動音痴をよろしくお願いします。
「とりあえずはハルは弓だから後衛で。私は長剣だから前衛ね。レイは魔法使いだから後衛か。まぁバランスが悪いのは仕方ないからいいとしてとりあえずまずはゴブリンでも狩る?」
「私分かんないから任せるよ」
「いいんじゃないか?あれは今のままだとソロじゃ厳しいけど三人で俺らがいればいけるだろ」
と、いうことで私たち一行は南の森、通称『初心者の森』にやってきた。
『初心者の森』はその名通り初心者向けのモンスターが出る森で、『始まりの街フィレイツ』の南位置する。
同じく東に位置する『初心者の草原』とは違い、ある程度戦闘慣れした初心者のソロか、パーティでの戦闘慣れに使われる場所だそうだ。
βテスターが言うのだから間違いはなさそう。
今の私の心配は二人より先に動けなくならないか、ということだ。
このISOには存在は明言されていてもゲーム内では確認不可能なステータスが多い。
っていうか殆ど確認できない。
確認できるのは自身のHPとMPのみ。
空腹度や疲労度なんかは隠しパラメーターがあって、プレイヤーたちの体感による判断になる。
他にもおなじみのSTRやAGI、INT、VIT、DEX、DEFなどの能力値なんかも見ることができない。
これらの値は努力すればそれに対応するものが上がるらしい。
例えば、走り込みをするとAGIが上がるとか、ランニングすると疲れにくくなるとか。
本当にリアルに近いからそれが逆に面白いらしいんだけど、このゲームにはひとつ致命的な欠点がある。
「最初の能力値がリアルの運動能力依存」
「え?」
「なんでもなーい」
あまりにも衝撃的過ぎてついつい言葉にしてしまった。
つまり私が言いたいのはリアルで運動音痴の私は運動に関するSTR、AGI、DEFが低い可能性がある。ついでにスタミナとHPも。
これはVRの体に違和感をあまり生じさせないという仕様のためなのだが、正直言って私には要らない。
それでも最低値は設定されているというし、それ以下ならプレイヤー間の不和をなくすためにしっかりと補正が入るといわれているからそれほど考える必要はないのかもしれない。
「おーし着いたぞー」
考え事をしている間に目的地に着いたらしい。
「じゃあ探しますか」
◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ギギャギャギャ」
目の前にいるのは初心者用のモンスターのゴブリンだ。
「おー」
これはすごい。
素直にため息が出るクオリティだ。
まさに目の前にいるこのモンスターは『生きている』という感じがする。
「よし。じゃああたしは前に出るからレイとハルは後ろから援護お願い」
「「了解」」
承諾の言葉を聞いてふーちゃんは駆けていった。
すぐに打ち合い始めたが、どうやら攻撃は後衛に任せるようで受けるばかりで攻撃していない。
「じゃあまずは俺から、『サンダー』!!」
「おぉ!」
杖から出た魔法はまっすぐゴブリンにぶつかる。
ゴブリンのHPバーが目に見える形で減る。
「よし!」
気合を入れて初期装備の弓を構えて矢筒から矢を取り出して番えて放つ。
ビョイン!!
弦は間抜けな音を発して矢は狙いをつけたゴブリンへ向かわず、ふーちゃんに直撃する。
ふーちゃんのHPバーが若干減る。
「ちょ、はーちゃん!?このゲームフレンドリーファイアあるんだけど!?」
「ご、ごめん!!」
焦って素の呼び方に戻っているが誰も気に留めない。
今度こそと意気込んでもう一度矢を放つが今度は当たらない。
そうして慌てている間にふーちゃんの長剣がゴブリンの首を刎ね飛ばした。
「ふー疲れたー」
「本当にごめんね。全然当たらなくて…」
「まーそんなこと分かってただろ。元々弓は結構プレイヤースキルいるし、ある程度レベル上がらないとあんまあたんねーからな」
「木に向かってでも練習していようかな…」
「まー最初はそれでいいんじゃない?」
「むむぅ…」
その後結局一時間狩りをしたが、全く弓は当たらないからレベルも全然上がらないし矢も底をついてしまった。
そこで『始まりの街フィレイツ』まで帰ってきた。
ふーちゃんとれー君はβ版の知り合いとゲームを進めるらしい。
べ、別に寂しくなんてない。
最後には何かあったら連絡してよーと言って去って行った。
勿論フレンド登録済み。
「むー何しようかな?」
とりあえず今の自分のアビリティを確認するためにメニューを開いてステータスを見る。
NAME:ハル
アビリティ:【弓:2】【闇属性魔法:1】【観察:1】【細工:1】【料理:1】【調合:1】【視覚拡張:1】【魔力:1】【魔力制御:1】
「ぜ、全然成長してない…」
一時間も狩りをして上がったのが弓だけ。
しかも初心者装備についていた石の矢セットは10本×3あったから30本撃って1しか上がらなかったということだ。
「弓は夜にセーフティエリアで動かない木に向かって練習するとして、でも今は矢がないからとりあえず安い矢を買わないと…。あとは初心者用の調合セットと料理セット、細工セットが必要…。お金足りるかな」
IAOの初期にあるお金は1000Y。
優先順位は戦闘に必要な矢、回復薬を作るための調合セット、矢を作るための細工セット、それから空腹度回復の料理セットの順番。
まずは武器屋に行って石の矢セット10本×5これで250Y。
次に道具屋に行って調合セットを買う450Y。
そのまま細工セットを買う300Y。
「む、無一文だ…」
合計1000Y。見事に無一文になりました。
「ま、まぁ先行投資だよこれは。うん先行投資だ」
なんとか自分を納得させてもう一度南の『初心者の森』に行く。
『初心者の草原』は人が多すぎてモンスターを狩れる気がしないし、そもそも矢が当たらない時点でモンスターを狩れない。
森では採取中心でセーフティーエリアを目指そう。
◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「よし。なんとか来れた」
運よく一度もモンスターと遭遇しなかった。
そして森に落ちている収集可能アイテムは片っ端からインベントリに放り込んで一目散に駆けてきた。
三回転んだ。
「日が落ちるまで生産しようかな」
まずは調合と思ってメニューを開くとそれとは関係なくお腹が鳴った。
これが空腹ゲージが減ったということだろうか。街中でなったら絶対恥ずかしいと思う。
あんだけ走ったし仕方ないよね。
インベントリから初期に配られる乾パンを取り出して食べる。
「…美味しくない」
乾パンはパサパサしていて、味もほとんどない。
これは早く500Y稼いで料理セットを買わないと。
あれ?でも食材は自分で調達だから狩りができないと美味しい料理も食べられない?
「ゆ、弓の練習頑張ろ…」
そんなことを考えながら乾パンを凝視していたら乾パンの横にウィンドウが出た。
【初心者の乾パン】
初心者が飢え死にしないために配られる乾パン。
栄養はあるが味はない。
空腹度20%回復
どうやら乾パンのステータスらしい。
私が料理のアビリティを持っていたから出てきたんだろうか。
でもこの乾パン一枚で20%も空腹度が回復するなんて案外いい効果なのかもしれない。
気を取り直して調合セットを取り出す。
調合セットの見た目は完全に化学の実験用の装置っぽい。
理系の私には嬉しい見た目だ。
「とりあえず何か調合用の素材は拾ったかな?」
見た目も気にせずに色々と放り込んだために調合セットを出したが果たして調合用素材を持っているかは不明だ。
自分の計画性の無さを恨みつつインベントリを漁る。
「木の棒、石、蔓、うーん?ん?ミルの実?」
インベントリにあったミルの実を取り出して凝視する。
【熟しすぎたミルの実】
霊木になる果実。
熟しすぎているため品質は下がっているが、使えないことはない。
食べると体力と満腹度を微回復する。
「ミルの実で食べると体力回復かー。体力は減ってないけどとりあえず食べてみるかな?」
思いつきでミルの実をかじる。
「お、美味しい」
甘酸っぱい味が口いっぱいに広がる。
確かに熟しすぎというだけあって少し実が柔らかすぎたりしたけど、十分に食べられる。
しかもこれは地面に落ちていたから、木の上を探せばちゃんとしたのが生っているかもしれない。
「これは素材だし料理に使うのかな?でも体力回復ってことはポーションが作れる?」
思いついたら早速実験だ。
幸いインベントリにはまだまだ癒しの実はある。
攻略サイトに載っていたポーションの作り方は薬草を水で煮出す方法だった。
じゃあこれも水で煮出せばポーションになる!という安直な思考の元鍋に水をは、水を…水…。
「お水がない!」
水筒の中に残っている水はあと少し。
こんなところで躓くなんて…とため息を吐きつつ周りを見渡す。
ちょうどよくセーフティーエリアぎりぎりに小川が流れていた。
「す、すごいタイミングの良さだ…。誰かが今設置したって言っても納得できるよ」
実際は色々な発見で視野が狭まっていただけ、ということに気づいて苦笑する。
小川まで近づいてみるとかなり透明度が高いきれいな水だった。
「綺麗な景色…。SSってどうやるんだっけ」
苦労しつつもSSのやり方を発見して(ヘルプを見た)綺麗な風景をフォルダに収める。
「セーフティーエリアの中だしこの透明度だけど実は毒が入ってましたとか嫌だしとりあえず」
汲んだ小川の水を凝視する。
【小川の水】
『初心者の森』を流れる小川の水。
栄養はないが喉が渇いた時には最適。
水質:良
使えるようだ。
早速その水を火にかけて沸騰させ、沸騰してきたところに潰したミルの実を入れる。
「薬草ならお茶みたいに煮出せばいいかもしれないけど、この実の使い方ってこれでいいのかな?そのまま入れても出汁?果汁?出なさそうだし。うーん」
鍋を無心でかき混ぜていると段々と透明だった水に色が付き始め、甘酸っぱい香りも出し始めている。
そのままかきまぜ続けること5分。ピコン!というシステム音が鳴ってアイテムができたことを知らせてくれた。
できたアイテムは【初心者用ポーション】だった。初心者用ポーションというのは体力を若干回復させるポーションだ。因みに苦い。それはもうこの世の終わりかと思うくらい苦い…らしい。
βテスターの二人にそう言われていたから未だにポーションを飲んだことがない。HPが減ったら飲むのより効果は落ちるけど振り掛ける方がいいって教えてもらった。
と、言うわけで試飲です。これが死因にならないように頑張ります。
まずは香り。これは全然いける。むしろ美味しそうとまで思わせるほどに香りはいい。
「肝心の味は…」
この世の終わりかと思うほど苦いと言われているポーション…。ゴクリと自分の喉がなるのを感じる。
「お、女は度胸!!」
グイッと一気に煽る。そしてこれから来るであろう苦味に備える。
「あれ…?美味しい?」
私の作ったポーションは美味しかった。なんだか拍子抜けしてしまった。
そのあと気をよくした私は材料があるだけポーション(果)を作って夕食のため一旦ログアウトした。
ログアウトする前にためしに飲んだ初期装備の普通の初心者ポーションを飲んであまりのまずさに悶絶した。
これでバッドステータスが出ないんだからすごいと思った。
誤字脱字、こんなイベントが見たい等あればお願いします。