Ep22
今回は普段しないようなことをしたのでかなりの難産でした…。
最近暑いので熱中症には気をつけてください!
「ええっ!?」
そんないきなり言われても、私の【料理】アビリティは未だに10を超えていない。そんな私に常連さんが多いような、しかもこの災害みたいな言われ方をしてるリザードマンさんと一戦交えられるような強い人たちなんて絶対味にもうるさいはずだ。ふーちゃんがそんなことを言った所為で、本人にすごい見られてる。凝視されるとさすがに大きいし貫禄みたいなオーラみたいなのがあって少し怖い。
「一応資格はありそうだけど、もし教えるなら結構厳しくいくよ?」
あ、これ結構ノリノリだ。私にはわかる。だって目がキラキラしてるんだもん。こんな目をされてしまうと断りづらい。そう思ってるとれー君がおもむろに私の耳に顔を近づけて、小さな声でやっぱり勧めてきた。
「はーちゃんやっちゃえよ!ここで修行すればアビリティのレベルも上がるし、それに何よりクエストの前についてる「R」これって多分特定の条件下でしか発生しないんだよ。今回は誰も取らないような【料理】アビリティがキーだと思う。だからここは貴重な体験だと思って受けとこうぜ」
うーん、れー君ははーちゃんと違ってちゃんと考えて喋ってくれてそうだけど。そう思って顔を見ると、あ、やっぱりこの顔は面白がってるだけだ。ここに私の味方はいないんだ。
そうは言ってみたものの、私の中ではもうすでに答えは決まってる。
「わかりました!よろしくお願いします」
やっぱりこんなに楽しそうで、ゲームの中だけでしか体験できなさそうなことだもんね。体験しておかないと損だよ、損!
「じゃあ後はお任せしますと言いたいところなんだが、」
「分かってるよ。二対一かな?」
「さすがの私たちもエリアボスに一対一で勝てるなんて思ってませんから」
「それは二対一なら何とかなると思ってるってことでいいのかな?」
「どうでしょう?」
リザードマンさんの質問にも答えず、寧ろ煽っていくれーくん。大丈夫なのかな。
私の修行イベントから急に模擬戦の話になる三人。一体どうなってるんだろう。しかも結構みんなやる気みたいだし。
「大丈夫なんですか?リザードマンさんは死んじゃったら私たちと違って生き返れないんですよね?」
「確かに僕には冒険の女神様の加護がないから死んだら生き返れないよ。でもね、まだまだこんなひよっ子には負けないよ」
私の心配にもリザードマンさんはどこ吹く風だ。
「それになんて言うんだっけ?君たちの加護の中に相手を殺さないように戦える加護があるんでしょ?それを使えばいいんじゃないかな?」
リザードマンさんの言ってるのは私たちのゲームとしてのシステムのなんて言うんだっけ?プレイヤー同士が戦うときに使われるあれだ。でも…
「それってモンスター相手にも効果あるんですか?」
「あるんじゃないかな?冒険の女神は基本的には公平だったはずだからね。モンスターでも冒険の女神の加護を持ってるやつらもいるよ」
衝撃の新事実だ。
「んじゃ、申請送りますねー」
そんな新事実にまったく驚きもせずに受け入れる幼馴染二人。この二人の順応性は高すぎるんじゃないだろうか。
「別に驚いてないわけじゃないんだけどね。今倒すための作戦会議で忙しくて。模擬戦が終わったら驚くんじゃない?」
いや、模擬戦終わったら驚くってそれ驚きがくるの遅すぎるし。
「ふーむ。頭の中に直接声が聞こえてくるようで気持ち悪いな。なるほど意思で決定とかの返事ができるのか」
興味深そうに私たちのシステムを体験している。しかしその目はさっきまでの温厚な目じゃなくて、本当に捕食者のような、細まった目をしていた。闘争本能が高まってるんだ。
◇ ◇ ◇ ◇
さっきハルを助けくれた大型のサーベルを構えたリザードマンさんと対峙する。さっきの話の途中からずっとレイから個人チャットが入ってきて模擬戦を申し込もうってうるさかった。
それにしてもさっきまでは優しかった目が嘘みたいに細まっている。それと同時にさっきまでとは打って変わってかなりの威圧感がある。
作戦会議はさっき個人チャットで十分した、というかレイが結構張り切ってる。
「作戦会議は大丈夫かな?」
「はい。さっき十分やりましたから」
たぶんレイも勝てるとはは思ってないだろう。攻略組みの人たちもエリアボスにはボコボコにされてるっていうし、たぶん二人じゃ荷が重いだろう。
「じゃあまずは君たちに先手を上げよう。今までの冒険者は全部あっちから襲い掛かってきたからね。勝負事はフェアじゃないと。さ、いつでもどうぞ」
本当に私たち二人を前に余裕の表情。実際負けるなんてこれっぽっちも考えてない顔だ。そんな顔を見せられたらレイじゃないけどあたしも、その表情を変えて見せたいって思っちゃうね。
「じゃ、お言葉に甘えて遠慮なく」
レイのアイコンタクト。出し惜しみは無しだ。
「【超加速】、【弌太刀-鏡花一閃】」
「【サンダー二ドル】」
レイも知ってるはずの私の切り札のひとつ、【神速の刃】っていう恥ずかしい二つ名の由来だ。
踏み込みの一歩目から【超加速】でレイの魔法が構築されきる前に相手の動きを止める!PvP機能を使ってるから、このリザードマンさんが死んでしまうこともない。なら、心置きなく急所を狙う!
「んー速いなぁ流石に若いってことかな」
私の首を狙った必殺の刃はそんなのんきな考察とともにしっかりと上に逸らされた。
「うそっ」
このリザードマンさんを見て完全にパワー型だと勘違いした私の早計だ。
「さてお返しだ」
剣が逸らされてがら空きの私の胴体に回し蹴が叩き込まれ、息もできずに吹き飛ばされる。
「おい風!魔法とかち合うぞ!避けろ!」
「くぅ…!!」
蹴り飛ばされた先にあったレイの魔法を体をひねって紙一重で直撃を避ける。でも避けきれずに少しだけかすっちゃった。自分のHP残量の確認。あの一撃だけで三割くらい削られてる。元々パワー型の魔物にほかの人間との戦いで巧さを取り込んじゃったんだ…。
「予想以上に力の逸らし方が巧い。たぶんスキルの硬直とか意識的に狙われるから、あたしはもうあんまり使えない。火力のほうはレイ任せになっちゃうね」
「それは任せろ。ただあんまり正面から打ち合うなよ」
「わかってる」
悔しいことにあたしの速度についてこられてる間はちゃんとした剣の技量で勝負する必要がある。相手に悟られないスピードで斬るって言うのがあたしのロールみたいなものだったのに。
気持ちを切り替えて今度は真っ向からあたしのスピードと純粋な剣技で!
もう一度【超加速】を使ってリザードマンに接近する。
「お、何回やっても僕には効かないよ?それは」
今度はスキルは使わない。でもしっかりと相手の鱗の間を狙って攻撃を仕掛ける。
「へぇ、すぐに切り替えられるあたり僕がやった人たちより強いんだねぇ」
リザードマンは余裕の表情であたしの剣をさばいている。それだけじゃなく、隙を見つけては攻撃が飛んでくる。うぅ…やっぱり結構きついなぁ。レイはまだかー!
「風!」
あたしのその愚痴が届いたのか知らないけど、ぴったりのタイミングでレイからの合図がきた。それと同時にあたしはリザードマンの剣を受け流して思いっきり横にとんだ。
「食らえ、【雷】」
今度はレイの切り札。上空設置型の落雷魔法だ。当たると大ダメージだけど発動してから雷が落ちるのが遅すぎる上に現実とは違い範囲が狭すぎて滅多にあたらない、ほとんどネタ魔法だ。それを扱えるレイだからこそ【雷精の魔道師】みたいな恥ずかしい二つ名を持っている。
そして雷はかなり速い。流石のリザードマンでもこれは避けられない。
そして雷が落ちる。
「グガァァァァ」
「おいおい…嘘だろ」
レイの諦めたような呆れたような声がひどく鮮明に聞こえた。
確かに雷は直撃してリザードマンのHPバーは減った。ほんの少しだけ。
スッと何かが私の横を猛スピードで駆け抜けていった。
「えっ」
「マジか…」
そしてまたレイの呆れたような、諦めたような声。レイのHPが一撃で全損していた。
「取り敢えず、最後まであがいてみますか」
一分後に私もHPを全損した。
次回は8月第2土曜日朝6時更新予定です