ep19
ストックが…
あと1つに…
「まずはクエストNPCのところに話を聞きに行く」
れーくんの私たち3人はクエストNPCの老人がいるという民家にやってきた。民家は本当にごく一般的な?少し小さめの民家で、どことなくさびれている雰囲気を醸し出している。クエストの受注までの流れは、今回は完全にれーくんとふーちゃんにお手本を見せてもらうつもり(丸投げともいう)なので私は二人も後ろについてその家の前まで歩いて行った。
コンコン、とれーくんが民家の扉をノックすると少ししてからおじいさんが顔を出した。そのおじいさんはスキンヘッドと白い顎髭、鍛えられた体に無数の傷跡が刻まれていて、それだけ見ると威圧感を放ったり怖い感じがするはずなのに一切そんな感じがしない。でも優しいとかそういう感じでもなく――――そう、生気を失ったような、大げさかもだけどこの世に希望がないようなそんな感じで、むしろそのおじいさんは私の眼には小さく映った。
「こんにちは、お爺さん」
それでつい、声をかけてしまった。この辺の処理は全部レーくんがやってくれることになってたのに。
どうしても目の前のお爺さんが単なるゲーム上のデータなんて、思えなかったからかもしれない。
後ろでれーくんたちがやっぱりみたいなジェスチャーをしているのが視界の端で見えた。
「おお、お嬢ちゃんたち。こんな爺に何か用かね」
そのおじいさんは突然訪問してきた私たちに驚くでもなく、不審がるのでもなく、ただ淡々と聞いてるだけみたいだった。
「いえ、用というわけではないのですが…。何か寂しいそうな目をされていたので」
「面白いことをいう嬢ちゃんじゃのう。まぁ少し上がっていきなさい。ちょうどわしも暇をしていたんじゃ。見たところおぬしらは冒険者のようじゃし、この年寄りの暇つぶしにつきおうてはくれぬか」
中に案内してくれるおじいさんに従って私たちは中にお邪魔することにした。
部屋の中はよく言えばシンプル、気になるところをいえば物がなさすぎる部屋だったけど、部屋の隅っこに空いてあるきれいに磨かれた傷だらけのハルバードが異様な存在感を放っていた。
「これが気になるかい?」
「使い込まれてるみたいですね。あたしの刀よりも鋭いし、綺麗です」
「昔使っておったのよ。昔はそれで数多の獣を屠ってきたがもうそんなものを振り回せるほど気力も体力も残ってないがのう」
「残念です。こんな斧を使う人と一回でも戦ってみたかったので」
「それはすまんのう。こんな年じゃからな」
戦闘狂の幼馴染の発言は放っておくとして、私の身長ほどのハルバードを振り回してたおじいさんが何で今こんなに覇気がない感じになってしまっているのだろう?
「どうかしたかの?」
「いえ…何か元気がないような感じがしたので…」
私がそう言った瞬間、おじいさんは少し目を細めて、少し遠くを見ているようだった。
「何年か前にばあさんが死んでの。それ以来何をするにもやる気が出ないのじゃ」
「それは…すみません。答えにくいことをお聞きしてしまって」
「構わんよ。ただのう、最近思うんじゃ。わしはもう直ぐ婆さんの所に逝ける、その前に婆さんと行ったお店の料理を食べたいのう、とな」
そう言った時のお爺さんの目はどこか遠くを見ていて、それを諦めているようだった。
こんな目をしたままのお爺さんを放っておけないし、目の前のお爺さんがただのデータの存在であることは私の頭から飛んでいた。
「わ、私に任せてください。絶対そのお料理をお爺さんに届けてみせます!」
「そう言ってくれると嬉しいのう。でも、その店は街の外の森の中にある店でな、あの時は迷って辿り着いたから、場所もわからないんじゃ。それに森は危険じゃて」
「大丈夫ですよお爺さん!戦闘は2人が得意ですから!大船に乗った気持ちで私たちを待っていてください!」
「俺らに丸投げかよ…」
「適材適所だよ!」
【Sクエスト:幻の料理店を探せ!】を受諾しました。
次回は6月第二土曜朝6時です




