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おじいちゃんの宝物

作者: れいこ

 ユキちゃんは、楽しそうにスキップをしています。

 なぜって?

 今日は、待ちに待った幼稚園の入園式。

 ママも、そして仕事を休んで来てくれたパパもニコニコ、本当に嬉しそうです。

 でも、ユキちゃんにはたったひとつ、とても残念なことがありました。

 それはー。

 ユキちゃんが大好きなおじいちゃん。

 おじいちゃんも、今日の入園式に一緒にきてくれるはずですた。

 けれど、おじいちゃんは、三日前にカゼをひいてしまい、まだおうちで横になっているのです。

 もちろん、おじいちゃんもこの日をとても楽しみにしていました。

 わざわざカレンダーに赤いマジックで丸をつけて。

 「必ず行くからね」

 ユキちゃんと約束していたのです。

 入園式が終わると、ユキちゃんはパパとママの手を引っ張って急いでおうちへ帰りました。

 ユキちゃんは、一分でも一秒でも早くおじいちゃんに今日のことを話したくてたまらなかったのです。

 おじいちゃんは、ユキちゃんのことをとてもかわいがってくれます。

 ユキちゃんも、そんなおじいちゃんが大好きでした。

 「おじいちゃん、ただいま!」

 ユキちゃんは、元気よくおじいちゃんの部屋に入ります。

 でも、おじいちゃんの返事はありません。

 ベッドに横になったまま、ぼんやり窓の外を、空を見つめています。

 「おじいちゃん!」

 もう一度、ユキちゃんは声をかけました。

 「あ、ユキちゃん、おかえり」

 おじいちゃんはユキちゃんの方へ顔を向けてそう言うと、またすぐ窓の外の空に目を向けました。

 (どうしたんだろう・・・)

 ユキちゃんは不思議に感じます。

 いつもなら、おじいちゃんはユキちゃんが疲れてしまうくらいユキちゃんとお話をしたり遊んだりするからです。

 それに おじいちゃんの声には元気がありませんでした。

 前にもカゼをひいたことはあったけれど、ユキちゃんの顔を見るとおじいちゃんはもうカゼがなおったのかと思うくらい元気に話しかけてくれていたのです。

 (まだ気分がわるいのかなあ・・・)

 ユキちゃんは、静かに部屋を出ました。

 次の日。

 おじいちゃんは、まだ、部屋で横になったままでした。

 ユキちゃんは幼稚園から帰ると、幼稚園であったことを真っ先におじいちゃんに話そうと部屋に飛び込みました。

 でもー。

 「ユキちゃん おかえり」

 そう言うと、おじいちゃんは昨日と同じように、すぐに窓の外の空に目を向けます。

 ユキちゃんの話を聞いているのかいないのか・・・。

 ユキちゃんは、途中で話をやめると部屋を出て行きました。

 次の日も、その次の日も、おじいちゃんは横になったまま空を見つめています。

 (いつになったら、カゼがなおるのかなあ・・・)

 ユキちゃんは心配に、そしてとても不安になりました。

 ある日、ユキちゃんは思い切って、

 「ねえ、おじいちゃん、空に何かあるの?」

 おじいちゃんにたずねました。

 おじいちゃんは、

 「空には、おじいちゃんの宝物があるんだよ」

 空を見つめたまま、そう答えました。

 「宝物?おじいちゃんの宝物って、なあに?」

 ユキちゃんは、またたずねます。

 「それはね・・・、とても大切な宝物なんだよ」

 おじいちゃんは、ユキちゃんではなく空に向かってにっこり微笑みました。

 ユキちゃんは、急に悲しくなりました。

 おじいちゃんはカゼをひく前までは、

 「ユキちゃんは、おじいちゃんの一番の宝物だからね」

 いつもユキちゃんを抱きしめて、そう言っていました。

 ユキちゃんは、おじいちゃんの部屋を飛び出しました。

 そしてー。

 ユキちゃんは気がつくと、おうちも飛び出して幼稚園の近くの公園にきていました。

 薄暗くなりかけた公園には、もう誰もいません。

 この公園でも、こんなふうに暗くなるまでおじいちゃんとよく遊んでいました。

 でも、しばらく、おじいちゃんとはきていません。

 ユキちゃんは、ブランコに腰かけました。

 キィ〜。

 いつもは楽しく聞こえるブランコの揺れる音が、今日は、とても悲しげにユキちゃんの耳に、そして胸にひびいてきます。

 (おじいちゃんには、あたしよりもっと、ずうっと大切なものがあるんだ)

 涙が、あとからあとからあふれます。

 ふと、どこからか、楽しそうな笑い声が聞こえてきました。

 ユキちゃんが顔を上げるとー。

 目の前のベンチに、おじいちゃんがすわっています。

 そしてその隣には、おじいちゃんよりずっと若くて、きれいで、とてもやさしそうな女の人がすわっています。

 (誰だろう・・・?)

 ユキちゃんは、初めて見る人です。

 おじいちゃんとその女の人は、楽しそうで、嬉しそうで、そして、とっても幸せそうです。

 ユキちゃんは、今までにあんな素敵なおじいちゃんの笑顔を見たことがありません。

 ユキちゃんは、また悲しくなりました。

 「おじいちゃん」

 声をかけたいけれど、なかなか声が出せません。

 悲しくて、寂しくて、ユキちゃんのほうを見てほしいけれど、でも声をかけてはいけないような・・・ そんな気がしてきたのです。

 「ユキちゃん!」

 突然、背中で声がしました。

 振り返ると、そこには、目を真っ赤にしたママが立っていました。 

 「おじいちゃんが・・・、おじいちゃんが、ついさっき・・・、なくなったの・・・」

 ママの声はふるえています。

 そして、真っ赤になった目から涙かこぼれます。

 ユキちゃんはびっくりします。

 「えっ!でも、おじいちゃんはここにー」

 そう言いながら、ベンチの方を振り返ると、そこにはおじいちゃんも女の人もいなくなっています。

 ユキちゃんは、訳がわからないまま、ママと走っておうちへ帰りました。

 「おじいちゃん!」

 ベッドに横になっているおじいちゃんは、瞳は閉じていたけれど、とても幸せそうな顔をしていました。

 公園のベンチで、女の人と一緒にいた時のように・・・。

 ユキちゃんには、おじいちゃんが死んでいることが信じられません。

 おじいちゃんは、右手に一枚の写真を握っていました。

 写真には、若い頃のおじいちゃんが写っています。

 そして、その隣には・・・。

 公園で見た女の人が写っていました。

 「あっ!」

 ユキちゃんは、思わず叫びました。

 「その人は、おじいちゃんの奥さん、ユキちゃんのおばあちゃんよ。でも、ユキちゃんが生まれるずっと前になくなったの。ユキちゃんは会ったことがないけれど。おばあちゃんはとってもやさしくて、おじいちゃんととても仲がよかったのよ」

 まだ目を赤くしたママが言いました。

 (・・・・・)

 ユキちゃんは、何も言えなくなって部屋を出ました。

 ユキちゃんは、おじいちゃんとよく遊んだお庭で空を見上げます。

 夜空には、数えきれないくらいのお星様がまたたいています。

 おじいちゃんが言っていた「とても大切な宝物」、それはおばあちゃん、そしておばあちゃんとの思い出。

 おじいちゃんは、今日、その「宝物」に会いに行くことができたのです。

 「よかったね、おじいちゃん、そしておばあちゃん」

 お星様が、キラキラと、よりいっそう美しくまたたきます。

 ユキちゃんには、おじいちゃんとおばあちゃんがにっこり微笑んだように思えました。

                   

                                       

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― 新着の感想 ―
[良い点] お話の構成がとても上手だと思いました。
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