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僕の隣の座席はドラゴンです。  作者: 遠藤戦争
第二部「日常の侵食。」
17/23

エピローグ 「フェンリルがやってきた。」



赤石が宣戦布告のため教室を回ったのが5月17日。

木村との戦闘があったのが5月18日。

その翌日の5月19日、職員室に俺と龍野はいた。


「まさか反省文を書かされるとは思わなかった…。」

「うう…、学校にきて二週間くらいしか経ってないのに……不良だと思われる…。」


昨日赤石の電話があったのは昼休みでその時に俺達は突然学校から抜けだしたので、

当然無断早退に対する指導のため昼休みに俺達は呼びだされたのだ。

また弁当を食べる時間が減ってしまった。


「ほんっとにさー……これ以上仕事増やさないでくれるかな…。」


遅刻指導は母親の仕事だったため、一応言い訳はできた。

もちろんこの二人で抜けだしたため、母親には勘違いをされ散々冷やかされた。

ホテルにいっただの、朝帰りだの。職員室でそういう事を言って大丈夫なのだろうか。


「どう?編入、うまくやれそう?」

「手続きくそ面倒だからやめたーい。赤石君と五十嵐君の家にホームステイしてる、

 って扱いでゴリ押しておくけどさ…。」


母親には大神と黒松の編入を龍野の時のようにお願いしてある。

『同盟』がいつ襲ってくるか分からないので、少しでも居る時間を長くするためである。

母親には申し訳無いが背に腹は代えられない。


「というかあんたら気をつけなさいよ?また誰か行方不明になったんだよ。」

「……そうだね。」

「あの、やっぱり木村さん、戻ってないんですか?」

「残念ながら今だに連絡はないね。知り合いだったの?」


木村求は学校には来ていなかった。

本来ならこういった生徒指導は朝の内に行われるのだが、今回は緊急集会があったため、

俺達の指導が昼に移ったのだった。簡単に言えば緊急集会の内容は、

『「株式会社稜千運搬龍成地区店」のビルが原因不明の崩壊を起こした。』という事、

『木村求が行方不明になった。』、ということだった。

恐らく、あの発言の通りなら八戒が木村を捕らえているのだろう。

『同盟』に加入したきゅうそが『技能』の使用を維持するために、

わざわざ殺さないで捕らえているのだろう。なんだか胸糞が悪い。

知人が手を出されて、今までの行方不明の人もそのままだ。

木村は今回の騒動の紛れもない犯人だが、どこか手放しで喜ぶ事ができない。


「ともかくあんたら、教室戻っていいよ。次からは学校終わってから家でやりなさい。

 ビデオカメラとボイスレコーダー仕掛けておくから。」

「だ、だから違いますって!」


下衆な会話を交わした後、俺達は職員室を後にした。

職員室前の廊下を歩いていると、木村が『棘』を生やしてきた時の事をなんとなく思い出した。

考えながら教室に戻ろうとすると教室前に咲野と加納がいた。


「おー。昨日は災難だったね、御夫婦さん。」

「茶化すな、迷惑だ。」

「そんな怒らないであげてよ。咲野さんだって悪気がある訳じゃないんだからさ。」

「はい、龍野さん、休んだ分の授業ノート。もうすぐテスト近いし!」

「……しまった、テスト近かったんだっけ。りゅ、龍野、後でノート見してくれ…。」

「夫の方は相変わらず駄目だねぇ。」


ちなみに俺は勉強が苦手である。村田と赤石が出来過ぎるというのもあるが、

それを考慮したとしても、下の中くらいだと思う。


「それと新しい情報を入手したんだ!聞いて驚け!

 私達の学年に新しく転校生が二人やってくるんだってさ!」

「なんだってー、それはーすごいなー。」


咲野がどや顔で語りだす。社交辞令で驚いておいたが、恐らく黒松と大神の事だろう。

しかし一体どこからこいつは情報を収集しているのだろう。情報の広がりとは気持悪いものだ。

流石に俺の母が手続きをゴリ押ししているとは知らないだろうけど。


「……最近この学校や周り、変だと思わないか。いろいろな事が起き過ぎてる。」


笑いながら話していると、急に真面目なトーンで加納が喋りだした。


「転校生が連続で三人、六人の原因不明の行方不明、ビルの原因不明の崩壊、

 明らかに物騒だ。何かが、僕達の日常を『侵食』をしている。

 考え過ぎかも知れないけどね。」

「……確かにそうだな。」


魔物達は、『非日常』は確かに『日常の侵食』をしている。

少し前まで咲野、加納、赤石、五十嵐、クラスメイトとたわいもない会話をしていたのが懐かしく感じる。

行方不明の人間も未だ戻ってきていない。思えば俺達も今言った全ての事に関係している。

『日常』を侵食しているのは、俺達だって変わらない。


「気をつけないとな、俺達も。最近危ないし。」


自分への戒めとして俺はそう言った。

進んで俺はこちらに来てしまった以上、無関係の人間をこれ以上巻き込んではいけない。

都合のいい考えだと自分でも笑いたくなるほどだが、やるしかないのだ。

それはきっと、最低限の責任だろう。


「まぁ本当に大変な時は気をつけた所でどうにもならんだろうけどね。」

「身も蓋もないね咲野さん。んじゃあ僕は学食に行くよ。佐藤君、龍野さん、一緒にどう?」

「悪いが弁当があるんでな、寂しく一人で食ってろ。」

「彼女を待たせてるしね。」

「ああ……そうかい…。」


死んでしまえばいいのだ。


「んじゃあ私はお花でも摘んでくるよ。龍野さん、一緒にどう?」

「あ、大丈夫です。」


咲野と加納はそういって一緒の方へ喋りながら歩いていった。

あの二人はあんなに仲がよかっただろうか。最近いつも一緒に居る気がする。


「あの二人、付き合ってるんですか?」

「いや、加納は彼女がいるし、そもそも咲野はそういうのに興味ないと思うんだが……」

「だって咲野さん、お花を摘みに行きましたよ?きっと加納さんにあげるんですよ。」

「随分とアダルトな送り物なんだろうな。」

「素敵ですね。」


魔界から人間界にやってきたばかりだ。隠語を知らないのも仕方無いだろう。

咲野は恋する乙女というよりはキューピッドだ。

他人の恋路に土足で踏み込み、なんやかんやでまとめて帰る。そんな奴だ。

あいつはいろんな人間に臆さず話しているし、部活でも活発に活動している。

そんなあいつが一人の人間を好きになり続ける姿を、あまり想像できない。

俺は教室の扉を開け、自分の座席へと座ろうとする。


「そういえばお前、最近丸くなったな。俺が木村に襲われた文句を言った時、

 素直に謝ってたしな。どうした?妹にでも怒られたのか?」

「いや、純粋に申し訳無いが二割、非常時に働いてくれなくなると困るからとりあえずが八割だ。」

「……お前のはっきり言う性格は割といいと思うがもう少し抑えた方がいい。」


俺の席の周りで珍しく赤石と五十嵐がだべっていた。こいつら喋る事あったのか。


「でも、やっぱり丸くなりましたよ赤石先輩はー。」

「……待て村田。何故お前がこの教室にいるんだ?」


痛烈な違和感。こいつは後輩だからここにはいないはずなのだが。


「えっ、佐藤先輩何言ってるんですか?」

「えっ、何か俺間違った事言った?」

「いえ、言ってません。」

「……そこどけ、俺の弁当を取る。」

「少し全体的にしょっぱかったです。」

「…!?まさかその机の上に置いてある空の弁当箱って……」


残念ながら御名答のようで、空の弁当は紛れもなく俺の物で米粒一つ残っていない美しい食べ方をしていた。

どうやら村田はエビフライのしっぽは食べる派らしい。俺も食べる派である。


「何お前勝手に人の弁当食べてるんだ!?」

「この度は大変ごちそうさまでした…。」

「やかましいわ!どうすんだよ昼飯……」

「なんとぉ?ここにぃ?私の作ったぁ?お弁当がぁ?」

「……えー。」

「マジなトーンで嫌がんないで下さいよ。頑張って作ったんですから。」


背に腹は返られない。仕方無いので村田の弁当を頂き、適当な席に座る。

弁当を開けて見ると、焦げてる卵焼きらしきもの、加工したようにみえない野菜、

なにやらよく分からないパン粉を上げたものの塊みたいなものやら、なんだか非常に見栄えが悪い。


「お前これ、味見したのか?」

「味は大丈夫のはずです。」


若干の勇気を振り絞り、まずはパン粉の塊を食べようと試みる。

ソースがかかっているので揚げものだとは思うのだが、あまりに球体すぎる。

食べる。サクッというこきみいい音がする。海老の味が広がる。


「……これ、エビフライだったのか。」

「すみません、揚げてたら一個にまとまりました。」

「いや、確かにうまいけどさ……」

「本当ですか!?やったぁ。」


村田が何故か物凄い喜んでいる。うむ、見た目を除けば基本的に食べれるレベル、

というか普通にうまい。焦げてる物は若干食べにくかったが。


「まぁ弁当の毒見をやって欲しかったのもあるんですけど、

 実際は打ち合わせのためにきたんですよね。」

「打ち合わせ?…あぁ、龍成祭のことか。」


龍成祭とは、俗にいう文化祭と体育祭という二大行事の総称である。

龍成学校郡は非常に多くの生徒がいるため、こういったお祭りごとはそれはそれは壮大に行われる。

大体中間テスト終了後、一か月ほどの準備期間を経て、

三日かけて文化部門をやったあと、その一週間後には体育部門を行う。

勿論一般の人もたくさんやってくるため、一年に一度のビックイベントである。


「私と佐藤先輩たち、同じグループなんですよ。」


小等部と中等部と高等部と大学部の各学年から一クラスずつ選ばれ、

それが一つのグループとなって龍成祭のそれぞれの部門を行うのだ。

同じグループになるというのもなかなかに確立が低い。


「……思えば、村田と出会ってまだ一年しか経ってないのか。」

「…?村田さんとはそんな付き合いが深くないんですか?」

「まぁ浅いわけじゃないさ。一年前の時にいろいろあってな。」


そう、本当に色々あった。村田の方の顔を見てみると、特に変わった様子はない。


「頑張りましょうね、佐藤先輩。」


こちらが見ている事に気付いたのか、村田はほほえみながらこっちを見返した。

あまり目が笑っていない所を見ると俺の考えていることを察したようなのを俺は察した。


「あの、村田さん、根本的な所なんですけど、りゅーせーさい、ってどんなのなんですか?」

「えっとねー、それはね龍野ちゃん…」


村田と龍野が喋りだす。もう村田はこちらを見てはこない。

もやもやとした気持ちが自分を支配する。弁当が味気なく感じる。

村田は去年の事をどう思っているのだろうか。気にしていないわけがない。

あんなことがあって、どうして今こうやって自分から打ち合わせができるんだろうか。

今年はもう、大丈夫なのだろうか。


「そういえば佐藤、木村は戻ってきていたのか?」


赤石が突然話掛けてきた。思考から抜け出し、いつもの俺に戻す。


「いや、やはりいないそうだ。」

「ふむ…ふきんしんかもしれんがとりあえず僕は『有言実行』できたみたいだな。

 今後はさらに事件が起こるかも知れん。物ごとの一つ一つに気をつけよう。」

「ああ、そうだな。」


そう話していると、五十嵐が笑いだした。


「どうした五十嵐よ。何がおかしい。」

「いや、物ごとの一つ一つ気をつけたい、っていう言葉がおかしくてな。

 まぁ仕方無い事なんだけども。」

「どういうことだ。」

「俺はノートをつけるようにした。おかしいと思う事が奴らの『能力』か『技能』に対する、

 唯一の対抗作になるだろう。お前らもそうしろ。まぁまだ変な要素は残るが…。」


五十嵐が長ったらしくなにかをいう。

何だ、何をそんなに面倒臭く言っているんだ。


「ふむ、五十嵐。教えてくれないか。」

「…咲野はお前らに五人目の行方不明者の現場を教えてくれたんだよな。

 『行方不明の現場は一般人が入れるような状況だったか?』」

「…あ。」


5月18日の咲野の発言を思い出す。


「えー。でもそんなことふつう考えられないでしょ。廃ビルで突然そんなことが起こるんだよ。

 しかも周りにはファミレスのナイフがぶっ刺さっていたり。」


咲野は、ナイフが刺さっていたとあの時言った。

一般的なニュースでそんな細かい情報を入手することは恐らくできないだろう。

つまり、それを知っているという事は咲野は恐らくに廃ビルの中に入っているということだ。

しかしあの時廃ビルには木村が潜伏していたし、何より生コンクリートで埋め尽くされていた。

咲野は愚か、警察も、あの中にはいった人が居るならまた行方不明者が増えているはずだ。

なら何故、咲野がこの情報を入手できたんだ?考えたくはないことが頭に浮かぶ。

だが恐らく間違いない。咲野は、『契約』をしているから入る事ができたんだ。

あの現場に無事に入れていて、なによりこんな初歩的な事に俺は今まで『気付けなかった』。

この感覚は昨日味わったばかり、漆島と名乗っていた女の『技能』と同じものだ。

『能力』『技能』に同じものが二つできるのかどうかは知らないが、漆島と一緒という事は、

咲野は敵なのか。もしかしたらこの学校に、まだ他に『能力』を持つ人間がいるのか。

考えてもそんなことは分からなかった。


「もうとっくに『日常』は『侵食』されてる。俺達が殺しあう日も近いぞ。」


五十嵐はそういって、購買のパンのゴミを捨てにいった。

そして俺は、最悪な気分で龍成祭準備期間を迎えるのだった。




-fin- 

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