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僕の隣の座席はドラゴンです。  作者: 遠藤戦争
第二部「日常の侵食。」
13/23

第二話 「矛先は何処。」



気付けば午後六時を回っている。六月が近いだけあって太陽が沈むのが大分遅い。

ぼんやりと考えごとをしながら、赤石の家を目指す。

ふと、ゴールデンウィーク中の今より少し辺りの暗い廃ビル内での事を思い出す。

何一つ現実感のない、不思議な記憶が脳内に再生された。

契約。能力。技能。魔物。ファンタジーの世界がそこには確かにあった。

実際過ぎてみるとそうたいしたこともないと感じる自分もいたが、

今だに事態を飲み込めていない自分もいた。自分の頬を唐突に引っ張ってみる。

痛い。どうやらあの時から長い夢を見ている訳ではないようだ。

そんな風に変に現実から目を反らそうとしている自分がとても阿呆らしく感じる。

事実は小説より奇なりという言葉通り、現実なんて不思議で当然な物だ。

そうこうしている間に、赤石の家に辿り付いた。最近赤石の家に行き過ぎのような気もする。

とはいうものの、こうしてまたここで不思議な事が起きたのだった。


「佐藤さん、服を持ってきてくれましたか?」

「ほらよ。……俺のでも小さいと思うがな。」


京子に持ってきた服を渡す。最近やたらと俺の服が無くなる。

今度何かのついでに、古着を購入しておく必要があるかもしれない。

どうして俺の服が必要になったかというと、赤石の拾ってきた『犬』に、

首輪を付けようとした所、犬の姿から突然女性になったのだ。全裸の。

俺は恐らく魔物だろうと考える。幸い、赤石の妹にも魔物の事情は説明しておいたため、

酷くパニックにはならなかったが、やはり少し慌てているようだった。赤石は首輪を女性に付けると、

買い物に行ってくると言って突然家を出ていってしまった。一体何を買いに行ったのだろう。

しばらくリビングで待つと、俺の服を着た先程の長身の女性がでてきた。

Tシャツにジーパンという普通の物で、スラッとした印象を受ける。

龍野より小さいからだろうか。身長ではなく、上半身のあれが。というか龍野がおかしいのか?

そんな失礼な事を考えている場合ではない。気にしているかも知れないだろう。

しかし改めて全体をみてみると本当にでかい。

俺の身長は全国平均より少し高いくらいと決して小さくないはずだが、

女性を見ると服にあまり余裕があるようには見えない。

だとすると身長が百八十以上あるのではないだろうか。羨ましい。

女性の首にはやはりまだ首輪が付いている。ネームプレートには「ジャンヌ」と書いてある。

よく見ると鍵付きの首輪のため、赤石がいないと外せないのだろう。

先程の光景がフラッシュバックする。裸首輪、永久保存したい絵だったなぁ。


「……いろいろとすまなかった。本当に変質者とかそういった類では無いのだ…」


頬を掻きながら顔を赤くして長身の女性はそう呟く。割と常識人のようだ。

咳払いをひとつし、俺はテーブルを挟んで女性の向かいに座った。

京子は俺の右側に座った。女性はゆっくりと喋り始める。


「驚かせてすまなかったが、ここで少し私について説明させて貰う。

 もう大体予測がついていると思うが、私は人間では無く、

 この世界では化物や『魔物』と呼ばれるものが私の正体だ。」


魔物の部分を強調して言っている所から、やはり魔物だろう。

今、龍野はこの場にはおらず、別の部屋で待機している。

龍野や俺が今恐れている事は『龍野の正体が相手に知られる』という事だ。

まず確実に髪の毛の色で、龍野が『魔物』である事は分かってしまうだろう。

今行われている『魔王選定式』というものは、

『子』『丑』『寅』『卯』『辰』『巳』『午』『未』『申』『酉』『戌』

『亥』の十二種族が、魔王の座を競って戦うというものである。

しかし問題は、『辰』の種族が他の十一種族に対して攻撃を行ったという疑惑を掛けられている事だ。

そんなことをするはずがないと思ってくれている種族もいるにはいるだろうが、

当然恨みを持っている種族もいるだろう、むしろそちらの方が多いだろう。

そして龍野は今回の魔王選定式に『辰』の種族の代表としてこの世界にやってきた。

龍野の目的は『魔王になる』の他に『この式で死者を出さない』という事がある。

最もこの考え方は一般的では無いようで、黒松との戦闘の時も危うく殺されかけたのだ。

故に、理解者を作ることが龍野の目的には不可欠なのである。

しかし理解者を作る上で相手が恨みを持っているかも分からないうちに、

自分の正体を下手に晒すことは非常に危険である。

ともかく、今は契約をしている事も悟られないようにしたい。


「……とは言うものの、君達の側にももう『魔物』はいるみたいだね。」

「なっ…!?」


しかし長身の女性は一発でそれを言い当ててしまった。動揺を隠せない。


「私達は確かに人間じゃないものだけれども、

 いくらなんでも体に開いた穴がこんな短時間で塞がらないよ。

 これは他者の『能力』か『技能』によるものだろう。

 きっとさっきまでいたチビとそこの女の子と君の誰かが関連しているはずだ。」


そこの女の子というのは京子のことで、チビというのは赤石のことだろう。

龍野の『治癒』が仇になってしまったか。リビングに異様な緊張感が漂う。


「私を襲った奴が誰かを見る事はできなかったんだけどね。

 ただ、突然コンクリートから『棘のような物』が生えてきてそれにやられたんだ。」


どうやらこの女性も、俺達と同じ人物にやられたようだ。

しかし先ほどの犬の時の状態を思い出すと、不可解である。

完全にあの時、この女性はただの野良犬にしか見えなかった。

考えられる可能性は二つ。やつあたりで野良犬に『能力』を使ったか、

本当に見抜いて狙ったのか。どちらでも厄介である。

前者なら説得が難しく、後者なら説得が難しいと予測できる。


「それで、お願いがあるんだけど……私を見逃してくれないか?

 正直、私はこんな所でほいほい死ぬ訳にはいかないんで。

 あなたにメリットはないかもしれないけど、傷ついた野良犬を放っておくことが、

 できないようなお人よしないでしょう?だったら見逃してくれ。」

「……お前の目的を聞かせてくれ。」


今更俺が魔物との関係を否定した所で、特に意味はないだろう。

思い切って聞くしかない。今は何より、この女性が敵なのか味方なのかという情報が必要だ。


「…あなたが契約を行っているんなら、相手から聞いたんじゃないか?

 『辰』の種族の行いの事を。私は復讐をしたいんだ。

 私から全てを奪った、憎き『辰』の種族に。」


長身の女性の目には明確な怒りが感じられた。女性は不意に立ち上がる。


「もし仮に私をここで殺すにしても、一度貴方の契約相手と話をしたい。

 仲間を少しでも増やしておきたいんだ。何もせずにこんなところで死にたくはない。

 私が気に入らなかったら、私には抵抗手段がない。

 話あった後、潔く殺されようじゃないか。」


行動理由は違うが、行動しようとしていることは龍野と一緒だ。

間違いなく、この女性は龍野のことを殺す気だ。


「…いや、それはできない。」

「いいや、それはできます。」

「なっ…!」


龍野はそう言ってリビングに入って着た。今の話を聞いていたのだろうか。

精神を集中する。恐らく口振りからおかしな事はしないだろうが、油断はできない。


「貴方がそこの男の契約相手かい?

 私は『戌』の種族の代表である、大神利香だ。」


女性が初めてここで名前を名乗った。成程、彼女は『戌』の種族だったのか。

大神利香といっていたが、魔物の時の姿はあんなボルゾイの子犬のような姿なのだろうか。

随分可愛い魔物もいたものだ。


「『戌』…確か『辰』のせいで王に当たる者が殆ど死んでしまったんですよね。」

「その通り。私の種族は他の種族と比べて、

 種族内でそれぞれ別の勢力にたくさん分かれていてそれぞれの勢力に長がいる。

 今回でその全ての勢力の長が殺されたんだ。ズタズタにされてね。

 勿論それだけじゃなく家族も友も殺されている。だからこそ私は復讐を考えてる。

 あんたの種族もきっと酷くやられたんじゃない?どう?私と手を組む気は無いか?」

「すみませんが……恐らく私は貴方と手を組むことができません。」

「どうして?被害が無い訳じゃないでしょ?

 私を殺すのも、最悪『辰』の種族を殺してからでいい。」

「確かに被害はありました。何もしていないのに、十一の種族に恨まれるという被害が。」

「…は?」

「言い方が悪かったですね。手を組みたいのは私も一緒です。

 ですが、きっと貴方は私を許してはくれないでしょうから。

 申し遅れました。私は、『辰』の種族の代表、龍野初代です。」


龍野はそう言って、自分の種族を明らかにした。

大神の顔から笑顔は消え、驚愕と怒りと悲しみが混ざったような不思議な顔をしていた。


「……は、はは、ははは。そっか。いきなり大当りだったんだ。

 は、はは…ついてないなぁ本当に…契約してから会いたかったよ……」


乾いた笑い。大神は泣いていた。そしてどこに持っていたのか、

龍野が持っていた物に似た装飾の多いナイフを握り、龍野の方向に走っていった。


「危ないっ!」


危険を察知し『防壁』を作ろう時、龍野が逆に大神を抱きしめに行った。

脇腹には深々とナイフが刺さっているが、龍野は平然としている。

大神も予想外の行動だったのが非常に動揺していた。

目の前で刃物沙汰が起きているというのに、京子は何一つ悲鳴を上げなかった。


「は、離せっ…嫌だっ…まだ…まだ死にたくない…嫌ぁぁ!!」


龍野の腕の中で大神はもがき、そのまま腕から離れ地面に倒れこんだ。

そしてガタガタと震えながら泣いている。戦意喪失といった所か。

ゴールデンウィーク中に戦った黒松の事を見ていて忘れていたが、

魔物は契約をしていなければ元の姿に戻る以外にやれることがない。

龍野と初めて会った時も確かに黒松に一方的にやられていた。

大神からしてみれば、恐らく今は絶望的な状況なのだろう。

虐殺を行った憎き相手の前に、対抗手段もなく放り出されたのだから。


「ごめんなさい。」


龍野はまず、そう言って怯えている大神に一歩近付いた。


「ひっ……」

「貴方の種族に私は顔を上げる事ができません。

 本当にごめんなさい。ですが、その上でこう言わせてもらいます。

 私の父親は、『辰』の種族は、そんなことをしませんし、していません。」

「……うあ…私は…」

「私を憎んでください。復讐は何も生みませんが、何かを消してはくれます。

 ですが、私もやらなければならないことがあるのです。」 

 

龍野はナイフを引き抜く。少し勢いよく血が出たが、直ぐに傷口が塞がる。

服の穴も無くなっていたが、滲んだ血はそのままだった。


「…あ……」

「こちらからもお願いがあります。

 私を『辰』の種族と知った上で、私と手を組みませんか?

 私はこの選定式で、死者を出したくないんです。」

「……あなたは何をしようとしているの…?」

「もう誰にも死んで欲しくないだけですよ。」


龍野がそういうと、玄関のドアの開く音がした。


「兄さんが帰ってきたみたいです。」

「……一言も喋らなかったな、お前。」

「喋ると邪魔になるかと思ったので。」


どうやら邪魔になると判断して、京子は『今は黙る』と不言実行していたようだ。

あの兄故に、この妹ができたのか、と痛感する。

リビングに入ってきた赤石は桜島ジャスパーのビニール袋を持っている。何か買ったようである。


「ふむ。ただいまだ、佐藤。」


そう言ってビニール袋を置いて、


「ほーらジャンヌ、帰ってきたぞー。」

「…うわっ!えっ、ちょっ!うひゃぁ!どこ触ってるんですか!?」


突然、地面でうろたえている大神に抱き付き体中を触り出した。

赤石は身長が百六十代のため、身長の高い大神にうまく抱きつけていないのだが。

体の色々な部分に赤石の手が這い回っている。

なんというかもう言い逃れようのないセクハラである。


「あの、赤石さん?……犯罪、ですよ?」

「ほう、この国には飼い犬とのスキンシップを取り締まる法律があったのか。」

「ひゃぁ!?脇触らない…でっ…やめっ…やめてぇっ!」

「お前の知る犬は喋ったりするのか。」

「最近は犬だってよく喋るものだと思うが。携帯のコマーシャルとかで出てくるだろう。」

「あれは後から編集してるんだよ!」


まずい。今のこの状況から判断すると、恐らくこいつは、

『ジャンヌを飼う』という有言実行を未だに続けてしまっている。

だから人間状態の時でもお構いなしで犬のように撫で繰り回すのだろう。

犬に服を着せる文化が無かったら恐らく服も脱がせていたに違いない。

先程までの緊迫した雰囲気が台無しである。


「ふむ。夜も近いし体調もよくなったみたいだ、少し遅くなったが散歩に行こう。」

「…!?お、お前、なんて恐ろしい事を!?」


赤石は先程のビニール袋からリードを取り出していた。

わざわざ新品の物を買って来たようだ。というかそれはまずい。

なんというかもう絵面がやばい。写真を取って保存したいレベルでやばい。

大神の方を見てみると、顔面蒼白という言葉が似合いそうなレベルで、

先程の龍野が『辰』の種族と分かった時の恐怖とはまた別のものを感じているようだった。

確かに恐怖であろう。見知らぬ世界にやってきたら、

深夜に首輪とリードをつけて野外を徘徊するという変態プレイに巻き込まれるとは。

ちなみに妹の京子の方も同じく顔面蒼白という状態である。


「ペットだしな。しっかり飼うと言ったからにはトイレまでしっかり見てやるのが、

 飼い主としての最低限の義務だと思うのだ。面倒はちゃんとするから安心しろ。」

「に、兄さん…ほ、本気で言っているんですか……」

「ああ。僕の帰りが遅い時は申し訳無いがお前にも手伝ってもらう事になると思うが。」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!?私だって一応うら若き乙女なんですよ!?

 あなたのそんな変態プレイに巻き込まないで下さいよ!?」

「ほう、この国では犬との散歩を変態プレイとする文化が確立されているのか。」

「私の姿を見てどこが犬だって言うんですか!?」

「そういう犬種なんだろ?限り無く人間に近くて、言語を話す事が可能な犬なんだろう。

 車のコマーシャルでも二足歩行してるしな。」

「どんだけ自分の判断を正しいと思ってるんですか!?」

「ほらいくぞ。」

「うわぁ!首を引っ張るな!ふざけるのもいい加減にしろよこのチビ!

 ってわぁ!?何その腕力!?絶対魔物より強いんだけど!?」


繰り返しになるが、先ほどまでの緊迫した雰囲気はどこに行ってしまったのだろう。

龍野も口を開けたまま放心状態である。恐らく、赤石のこの様子に飽きれているのだろう。

言ったことをそのまま実行できる人間は少ない。ただ実際に居ればそれはいいことなのか?

と聞かれれば、俺は赤石のせいで素直に首を振ることはできないだろう。

ふと思う事があって、龍野に話しかけてみる。


「龍野。」


名前を呼ばれてようやく正気を取り戻したようだ。


「え、えとどうしました?」

「大神をどうする気だ?」

「……彼女は私の行いを許してくれる事はないでしょう。

 その上で説得を試みます。少なくとも他の魔物を殺さないように。」

「非現実的だな。」

「分かっています。完全な平和というのは絶対に不可能です。

 他人との出会いがある限り争いは無くなりませんし、

 他人との関わりがある限りいさかいは無くなりません。

 だからといって平和を目指さない事が正しい訳がありません。

 諦めるまでは、ずっとこの目標を貫いていきたいんです。」

「……やっぱり龍野は立派だな。」


立派過ぎて、まっすぐ見れそうにない。

とてもじゃないが、俺と契約をするような魔物ではないはずだ。


「佐藤さんにはたくさん迷惑を掛ける事になります……

 本当にごめんなさい…。」

「別に気にしないし、どんどん掛けてくれよ。

 それくらいしか、俺にできる事はないだろうしな。」

「……そうですか、ありがとうございます。」


龍野はどこか寂しげに笑っていた。赤石と大神の騒ぎ声がまだ聞こえる。

結局この日は、必死に「この犬は人間と同じトイレを使う犬種だ」と説明することで、

俺の友人が警察に補導されることはなかった。





「五人目、しかも俺のクラスか。」


翌日の昼放課である。クラスが静かな雰囲気に包まれている。

朝からずっと泣いている生徒もいる。気の毒なことだ。

朝に緊急集会が開かれ、校長の言った言葉は俺達を驚愕させた。

五人目の行方不明者が発生したのだ。しかも今までの中等部のクラスではなく、

高等部の俺のクラスで発生したのだ。昨日の廊下での襲撃から、

恐らく相手に自分は特定されているのだろう。俺達が相手の正体を特定ができるのなら、

向こう側も俺達を特定は可能なはずだ。だが、こうなってしまうと学校で一瞬も気が抜けない。

このクラスの生徒が行方不明になったのも、まるでかかってこいと言っているようだ。

迂闊に攻めることはできないが、これ以上無関係の人間を巻き込みたくないというのは本音だ。

どうにかしなければならない。俺は弁当のエビフライを食べながら考える。

相手の『能力』か『技能』を今まで得たデータから考えると、

自分の『能力』ではうまく戦うことができないと思う。

今一度、自分の『能力』をしっかりと見極める必要があると改めて思う。

今、自分ができるのは、『防壁』『籠』『円柱』くらいだ。

他に何か作れるものはないだろうか。弁当を食うのを止めて手をすっと前に出してみる。


「なーに馬鹿な事やってんの?」

「痛っ。」


すると突然後ろから小突かれた。振り返ってみるとそこには女子がいた。

少し釣り目気味でショートヘア。活発な印象を受ける出で立ちをしている。

陸上部所属のうちのクラスの咲野曽根美である。


「なんだお前か、自称情報通。」

「自称じゃないことを証明してあげるよ。君と龍野は同棲している。」

「……帰り道つけてたのか?」

「さぁー。どうだかね。」


明るく誰にでも人当たりがよく、自称情報通ということもあって、

クラスの事だったら大体知っている。寧ろコイツに何かを知られたら、

その情報は明日には学校全体は愚か、地域住民にも知られるような結果になる。

龍野との同棲生活は勿論隠している。バレてしまったら面倒臭い上、

母親に申し訳無い。というよりうちのクラスに転校初日に設立された、

龍野ファンクラブによって殺されてしまうだろう。


「……後でジュース奢るから黙っとけよ。」

「情報というものは皆で共有するからこそ意味があるのですよ。」

「知らぬが仏という名台詞を知らないのかよ…。」

「冗談ですよ。流石にこんな事、大きな声では言えませんし。」


といいながら咲野は小さく笑った。

こういったリアルが充実している奴らのノリはあまりついていけない。

村田や赤石や俺は暗いわけではないが、ハイテンションな訳ではない。

故に俺はクラスではあまり喋らないし喋れない。赤石と五十嵐くらいしか進んで喋ろうとはしない。

だが、優しい人間とは俺のような人間にもしっかりとリアクションをしてくれる。

時々それが溜まらなくうっとうしく感じる時があるが、かといって一切話しかけられないとそれはそれで凹む。

俺は面倒臭い人間だとつくづく思う。話は少し変わるが、時々女子に喋り掛けられただけで、

「俺に気があるんじゃないか」と思う男子を馬鹿にする人が居るが、実際体験してみれば分かる。

そういう時に話しかけて来る女子は、その男子からしてみれば神のように見えるものなのだ。

気持ち悪いといった印象を持たないで上げて欲しい。


「あれ?珍しい組み合わせでしゃべってるね?」


咲野と喋っているとそこに来たのは超絶イケメン。

男の俺から見てこういうのだから間違いない。こいつは間違いなくイケメン。

漂うオーラ、「あれ?」の言い方、制服の着こなし、日頃のやさしさ。

全てにおいてイケメン度が高い。しかもクォーターで成績も良く、運動もでき、

絵のセンスとか歌のセンスとかがないわけではない。むしろハイセンスである。

確か彼女もいると聞くが、少女漫画のような恋愛をしているという噂も聞く。(咲野情報。)

会話もしやすく、本当に妬ましいレベルのイケメンだ。はやくしんでしまえばいいのに。

加納.Last.純助。こいつもクラスメイトの一人でリア充の一員である。


「お前が俺に話しかけるのも珍しいだろ。」

「そんなことないさ、佐藤君の事、僕は友達だと思っているよ。」

「そうかいそうかい。で、何の用だ?咲野なら別に持って行っていいぞ?」

「人を物扱いするんじゃないの。」

「いやいや、要件は別にあってね。赤石君って今日学校に来てないよね?」

「ああ。あいつは今日家の用事でな。」


赤石は家で大神を必死に止めている。大神が逃げ出そうとして必死なため、それを止めているのだ。

まぁあんな扱いを受けているから当然と言えば当然なのだが。

普通に犬待遇を受けたら怒るに決まっている。朝、不安になって見に入ったら服を脱がそうとしていて、

見てはいけない気がして全力で逃げてきた。

ちなみに京子も一緒に家で待機している。あのブラコンシスコンめ。


「いやぁ。今回のうちのクラスの行方不明者の子が、体育委員会に所属していてさ、

 そのせいか高等部の体力テストの結果が無くなったことが問題になってて。

 それで、赤石君確かこの前、それを読んでいるのを見たから、早いうちに返しておくように言おうと思ってさ。」

「あぁー……あいつ、まだ返していないのか。」


そういえば返している姿を見ていなかった。大きな問題になる前に早く返さないと確かに面倒くさい。


「分かった。俺の方から言っておくよ。」

「そういえば佐藤、知ってる?」

「何だよ?」

「今回の行方不明の不思議な噂。」

「……原因不明の行方不明自体が不思議なことだと思うのだが。」

「実はね。今回の行方不明、もしかしたらこの世の物ではない物が関係してるんだって!」

「!……この世の物ではない物?」

「化物が関わってるかもしてないって事。」

「化物?」


咲野の言葉に妙に引っかかりを覚える。


「今回の行方不明が起きたと考えられる現場は他と違って周りに不思議なところが多かったんだよ。

 周りはコンクリートまみれ、しかもそのコンクリートから『棘みたいなの』が飛び出しているんだ。」

「…!?」


間違いない。俺を襲ったやつ、大神を襲った奴と同一人物だ。


「……でもそれだけで化物って発想にはならんだろ。」

「えー。でもそんなこと普通考えられないでしょ。廃ビルで突然そんなことが起こるんだよ。

 しかも周りにはファミレスのナイフがぶっ刺さっていたり。」

「…」


それは俺と五十嵐との戦闘の跡だ。

ということは、今回の行方不明は廃ビルで起きたのか。

危険ではあるが、一度調査にいく必要があるかも知れない。


「……まぁ怖いもんだな。」


そういって赤石に連絡をしようと携帯を取り出す。

メールを送ろうとすると、突如電話がやってきた。赤石からである。

学校にいる人間に普通電話をするだろうか?あまりに非常識だと思う。


「すまん、ちょっと電話だから席外させてもらうわ。」

「うん、分かった。」

「先生にばれないようにね。」


龍成学校群は大学部の生徒以外、校内での携帯電話の使用を基本的に禁止している。

破ったところで一日の間取り上げられるだけであるが、反省文やらなんやらでとても面倒くさい。


「……おい。そこ俺の席だ。どけ。」

「ああ、ごめんよ。」


教室に出ようとしていると五十嵐が加納に突っかかっていた。

やけに強い口調で加納をどけていた。そんなに怒る必要なんてないだろうに。


「んじゃちょっと行ってくる。」


そういってトイレへと向かおうとする。


「おい。」

「ん?どうした五十嵐。」


教室から出ようとした時、五十嵐に呼び止められる。


「……お前は今の会話におかしな点を感じなかったか。」

「何がだ?」


五十嵐の言っている意味が分からない。何かおかしいことがあっただろうか。


「……分からないならいい。早く電話に出てやれ。」

「おいおい、なんなんだ?」


そういうと五十嵐は購買のパンを食べてこちらの方を一切向かなかった。

何だったのだろうか。とりあえず俺はトイレに向かい、着信を受け取る。


「どうしたんだお前。」

「落ち着いて聞いてくれ。いや、僕を落ち着かせてくれ。」


やたらと赤石の息があがっている。何かあったのだろうか。


「……何言ってんだお前?」

「京子が、『コンクリートの手』にさらわれた。」


携帯電話を落とした。赤石の「もしもし!」という声が遠くから聞こえる。

うまく、頭が回りそうにない。ついに、知り合いが巻き込まれてしまった。

気付いた時には俺は昇降口まで走っていて、赤石の家へと全力で駆け出していた。




-fin-

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