theater−1
こんにちは。STBです。
今回は武器商人の話です。『高校生に武器商人が出来るのか?』という疑問は一旦忘れて読んで頂けると嬉しいです。
フィリピン某所
現地時刻 午前2時39分。
辺りに響くのは、銃撃の音と悲鳴。
あるテロリストグループのアジトを襲撃したのは、アメリカ海軍の誇る特殊部隊−通称『SEALs』。
誰にも気付かれず侵入した彼らは、的確にテロリスト達の眉間を撃ち抜く。
「エリア1、クリア!」
「エリア2、クリア!」
隊員達の声が響く。
彼らは掃除屋だ。
テロリストという『ゴミ』を『死』の中へと放り込んでいく―。
一人の男が、血を流し倒れている。
しかし彼には意識があった。
「....様! 敏明様!」
声が聞こえる。
それは、男の護衛をしている少女のものだ。
「敏明様! もう少しの辛抱です! 必ず助かりますから!」
少女はそう言うが、男は自分がもう助からないと分かっていた。
男はポケットから紙とペンを出し、ある住所を書く。そして、
「沙耶!」
男は少女の名を呼ぶ。
「はい! 敏明様!」
沙耶と呼ばれた少女は急いで男の方へ駆け寄った。
「いいか。俺はもう死ぬ。だからお前は逃げろ!」
「しかし―」
「相手はアメリカの特殊部隊だ! まともにやり合って勝てる相手じゃない!」
そう言い、男は血で汚れた紙と一枚のSDカードを少女へと渡す。
「よく聞け。ここから逃げたら日本へ向かえ。そしてその紙に書いてある住所を探すんだ。そこに俺の息子が住んでる。お前はあいつを守ってやってくれ」
「でも、敏明様は―」
少女の問いにも答えず、男は最後の力を振り絞って話を続ける。
「それと、このSDカードに『取引先』のデータが入ってる。これをどう使うかはお前の自由だ。――とにかく、今は逃げろ」
少女は数秒考えたが、やがて無言で走り出した。
去っていく少女を、死にかけの男は笑いながら見送る。
「生きろ、沙耶」
九部 由樹という少年は、普通の人間より複雑な家庭環境に生きている。
始まりは由樹がまだ五歳の頃。
由樹の母が車に轢かれ即死した。
轢き逃げの犯人は休暇中だった米軍兵。その為に犯人のアメリカ人は軽い罪で済んだのだ。
そこから変わったのは、由樹ではなく彼の父。
由樹の父親は、当時勤めていた商社のルートを使い、ある仕事を始めた。
それは、テロリストやテロ支援国家と呼ばれる国に兵器を売る仕事。
武器商人というものだった。
全ては、自分から妻を奪ったアメリカへの復讐。
由樹の父は、その一心で仕事を続けたのだった。
日本 17時 56分
家に帰ってきた由樹は、玄関で硬直していた。
高校受験が一ヶ月前に終わり、無事第一志望の高校へ合格。
今日も友人達とカラオケに行き、自分一人しか住んでいない家に帰って『ただいま』と由樹が何となく言ったのが始まりだ。
今までにも何の気無しに『ただいま』と言ったことはあったが、
「お帰りなさいませ」
と返してくる者はいなかった。
由樹の目の前に現れたのは、一人の少女。
セミロングの赤い髪に全てを見通すような目。
まだ幼さを残した顔は、かなり可愛い部類に入る。
「えっと....」
混乱しつつ、由樹は一つ聞いた。
「君は、誰?」
由樹はリビングで少女にお茶を出し、取り敢えず状況を整理する事にした。
「じゃあもう一度聞くけど、君の名前は?」
すると少女は由樹に一礼して、
「申し遅れました。私、貴方のお父様の敏明様を護衛をしていました九部 沙耶です」
少女は沙耶と名乗った。
だが、由樹が気になったのは別の部分だ。
「九部、って言ったよね。もしかして....」
父、敏明が海外で作った腹違いの妹なのではないか。由樹は直感的にそう思った。
「いえいえ。あくまで私は敏明様の護衛です。....貴方のお父様のお仕事、ご存知ですか?」
由樹は父から一度だけ聞かされていた。
それが、世界を乱す悪事だということも。
「武器商人....だっけ。確かテロリストとかに武器を売ってたって」
「ええ、その通りです。敏明様は由樹様にお話しになっていたのですね」
そう言って沙耶は笑う。
彼女の笑顔は、年頃の少女特有のものだ。
「ご存知ならばまず結論からお伝え致します。―心の準備を」
沙耶の声色が変わる。
「貴方のお父様、九部 敏明様は、二週間前にフィリピンで亡くなりました」
「......え?」
亡くなった。
沙耶は確かにそう言った。
由樹は父の職業柄、こういうこともあるだろうと考えてはいた。
が、覚悟していたなどといえば嘘になる。
「死んだのか、父さん」
「はい。あるテログループと会合中、米海軍特殊部隊の襲撃に合い、私を逃がして敏明様は亡くなられました」
沙耶の笑顔は悲しそうなものへ変わっていく。
「じゃあ――何で君は僕の所に? 父さんの死を伝えに来ただけ?」
由樹の問いに沙耶は首を横に振る。
「私がここへ来たのは、敏明様の遺言だったからです」
沙耶が一枚の紙とSDカードを由樹に渡す。
血がべっとりと付いたその紙には、由樹が住むこのマンションの住所が書いてあった。
「これ、ウチの住所じゃないか」
「はい。敏明様は最後に『逃げたら日本へ向かい、その住所にいる息子を守って欲しい』とおっしゃいました。なので私はこの国へ入国し、ここへやって来た次第です」
「守るって、何から?」
「かつて敏明様を敵視していた組織や人からです。―なぜなら」
沙耶が含みある笑みを浮かべた。
「貴方には敏明様の後継として、武器商人になって頂くからです」
その瞬間。
後に世界を大きく動かすことになる少年、九部 由樹の『武器商人』としての人生が始まった。
こんにちは。STBです。
武器商人、というと最近では『ヨルム○ガンド』などで有名になっているでしょうか。
今回この話を書いたのは、『主人公が普通の高校生活と武器商人としての仕事を両立する』物語が書きたかった、というのが一番大きな理由です。
次回から本格的な『商売』が始まります。
では、今回はこの辺で。
ありがとうございました。