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8 ユウの秘密1


 セシルは、家に籠るのが好きなタイプのようだ。

 本を読んだり、庭を散歩したり、楽器を弄ったりしていることが多く、外出している姿をあまり見かけたことがない。兄のレファーンが百六十キロをわずか三日で歩き終えてしまう健脚の持ち主だけに、意外だった。

 そのレファーンと言えば、とにかくよく動く。体力に底が無いのではないかと思うほど。

 ハンターと貿易事業の両方をソツなくこなし、その合間に時間を作っては、私に魔法を教えてくれる。習うより慣れろが座右の銘らしく、それはそれはもう、乱暴な教え方だけど。

 切ったり、吹っ飛ばされたり、夏なのに霜焼けを作ってしまったり、まったく生傷が絶えることがない。おかげさまで使える魔法は格段に増えたけど、そのうち後遺症が残りそうな大怪我をしそうで、戦々恐々としている日々だ。


 私がこの世界に落っこちてから、二か月が経っていた。


 住めば都じゃないけれど、わずか二か月で馴染んでしまった自分が怖い。

 食べ物は美味しいし、屋敷のみんなは優しいし、当然知っていなければならないような一般常識も、この二か月の間に吸収した。残すはハンターの正規登録だけだけど、それも近いうちに実現しそうな勢いだ。

 相変わらずセシルだけはツンケンしているけど、なんか憎めないんだよね、あいつ。

 兄さん大好き! な必死さが伝わってくるというか……。

 レファーンが私に対してあれこれと世話を焼いてくれたのも、たぶん、同じ年頃の弟がいたからだろう。八歳も離れていると、同性の兄弟間に有りがちなライバル意識も芽生えるはずがなく、ただただ可愛いだけのようだ。

 

「うーん。今日は久々に外の風呂に入ってこようかなぁ」


 深夜。

 私は、自室のベッドの上で胡坐をかいて、自分自身に提案した。

 この立派な屋敷の私が与えられた部屋には、なんと、風呂がもともと備え付けられている。いつも綺麗に掃除されてなみなみと湯を湛えた浴槽が、毎日入り放題なのだ。なんという贅沢! と思うのだけど、たまに、大衆浴場の広いお風呂が恋しくなる時がある。

 そんな時、石鹸と手拭いを用意して、私は真夜中にいそいそと出かけるのだ。

 この時ばかりは、いつも用心して巻いているさらしも身に着けない。開放感に浸って、大して上手くもない鼻歌を歌いつつ、すっかり馴染んだいつもの道を歩いていた。


「よしっ! 今日はあっちの風呂屋に行ってみよう!」


 うきうきと足取り軽い私の後ろを、こっそりと付け回している不逞の輩がいるなんて、この時は、むろん気付くはずもなく。

 せめてキッチリさらしを巻いて油断しなければ良かったと、わが身の浅慮を呪うことになろうとは……知る由もなかった。



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