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19 イソウド支部にて


 翌日、レファーンは、体のどこかが痛いなんて、ぼやかなかった。冷たい石の床の上でもしっかりと眠ったようで、ベッドを一人占めしていた私よりも、寝起きの顔は爽やかなくらいだった。

 宿で朝食を取った後、私たちはイソウドのギデオン支部に向かった。

 七つの国の主要な町には、ギデオンの支部が必ずある。数日の誤差はあるものの、本部と依頼を共有し、報酬の支払いやハンターの登録など、殆どの作業も、ここで完結できるようになっていた。

 支部の中に入ると、私の他に、巫女依頼を受けたハンターが二人、既にいた。

 栗色の髪の二十歳くらいの女性と、金の髪に赤いメッシュを入れた、二十代半ばくらいの、妙にぴらぴらゴージャスな……女性?


「いやぁん、可愛いっ!」


 と、赤メッシュの女性が言った。……私を見ながら。

 いや、普通、女の人がうっとりと恍惚の表情を浮かべるなら、その対象は私ではなくレファーンのはずだよね? 何故にハートマークを撒き散らしながら、真っ直ぐ私に向かって突進してくる!?

「君、可愛いわねぇ! いくつ? 十五くらいかしら? いやぁん、お姉さんがいろいろ教えてあげたいっ!」

 ぎうぅぅ、と、抱き締められた。服の布越しでもわかる……柔らかさの欠片もない、筋肉質なその胸に。

「お……男っ!?」

 いや、オカマか。

「おい……シルヴィス。ユウはお前のノリには慣れていないんだから……いきなりはやめろ」

「あらぁ、レファーン。相変わらずいい男ね。でも、いい加減、人の名前は覚えて欲しいわぁ。シルヴィアって呼んで頂戴」

 うふっ、と、シルヴィスさんは笑った。紅を塗った唇が艶めかしい……。

 その変な言動さえなければ、シルヴィスさんは、傍から見れば立派な女性だ。……さすがにハンターだけあって、ちょっと女の人にしてはゴツイけど……とても綺麗な顔立ちをしている。

 これなら女装もお手の物だろう。しかし、そんな、ばちんとウィンク飛ばされても……私としては反応に困る。

 ああ、冷や汗かいてきた……。色んな意味で、目の前の人が怖い。怖すぎる。


「あのー……。神殿の方、お見えになりましたよー」


 にこにこと、穏やかな笑みを浮かべつつ、栗色の髪の女性が言った。

 こちらは正真正銘の女性……だと思う。たぶん。

 でも、見た目よりも遥かに肝の据わった人に違いない。シルヴィスさんのウィンクを目の当たりにして、動揺のどの字も見せない彼女に、ある意味感動すら覚えたよ……私。

「こちらに……巫女のお役目を引き受けて下さったハンターの方々がいらっしゃると、伺ったのですが……」

 訪ねてきた神殿の人の台詞が、尻すぼみに縮んでゆく。

 変な奴らが来たなぁ、と依頼を出したことを後悔しているのかもしれない。

「そうよ。私たち三人が引き受けるわ。私と、そこの栗毛の女性と、この……可愛い男の子」

 また抱き寄せられそうになり、私は慌ててレファーンの背に隠れた。

 シルヴィスさんがちっと舌打ちする。なんで、その舌打ちの仕方だけ、妙に男らしいんだ……。

 まさか男の恰好をして身の危険を感じることになるとは思わなかった。縋るようにレファーンを見上げると、いつもは頼りになるはずの彼が、とっても頼りない事を呟いた。


「奴にだけは、俺も関わりたくない……」


 ハンター最強の男は、金位の五人ではなく、赤メッシュのオカマであると、私は確信した。






 神殿の案内係の人に連れられて、巫女役の三人は、大神殿の各部屋へと通された。

 レファーンとは途中で別れた。大神殿には聖職者以外立ち入れない。巫女装束を着て化けた姿を見せてやるつもりだったから、ちょっと残念だ。

「衣装はこちらになります。一度、お召し替えをお手伝いいたしますね」

「いえ、すみません。一人で着替えさせてもらえませんか。女の人に手伝ってもらうなんて、ちょっと恥ずかしくて」

 世話役らしい巫女さんに頼むと、彼女はくすりと笑って、部屋の外に出てくれた。

 彼女は私が男の子だと思っている。巫女は当然女性でなければならないけど、ハンターの増員に限っては、男が女に化けることも暗黙の了解となっている……とシルヴィスさんが教えてくれた。

 もちろん、レファーンのように、何をどう頑張っても女装が無理なタイプは除外して。


(うーん。こうかな……)


 世話役の女性が用意してくれた衣装に、袖を通す。ゆったりとしたシンプルな白い法衣だ。布をふんだんに使っている割には、驚くほど軽い。

 そのままではゆったりしすぎて締りが無いので、ウエスト部分を、飾り紐と腰帯で縛る。

 着替えてから、部屋の外で待機している巫女さんを呼んで、確認してもらったけど、着方は間違えていないようだった。巫女は頭を全部むき出しにするのは無作法とされていて、世話役さんが、小さなカチューシャとベールを付けてくれた。

 鏡の前に立って、改めて自分の姿を眺めてみる。


(男の子には見えないなぁ……さすがに)


 この姿でいられるのは、レファーンが踏み込めない神殿の中でのみ。

 この姿で、実は女の子なんです、今まで一緒に寝泊まりしてましたけど、と、打ち明けたら、どんな顔をするだろう……あの意外に真面目な魔法剣士は。


 楽しい想像は、胸の内だけに留めておくことにした。


 私は男の子でいい。

 私は、彼の戦友で……そして、いつかは元の世界に帰る、異邦人なのだから。



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