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18 青の移動魔方陣


 ギデオンの中枢、つまりギルド本部の敷地内に、古の叡知の結晶である移動魔法陣がある。

 今回、フォルトリガに行くにあたり、私たちはこれを利用することにした。

 もちろん、こんな便利なものが、ただで使い放題のわけがない。けっこう高額な料金と、それを使用するに相応しい理由とを求められる。

 ハンターが依頼をこなしに行くという理由は、正当なものとして、優先順位が高く設定されていた。私たちは何ら待たされることなく、スムーズに魔法陣の広場へと通された。


(ふわー……)


 ギデオン本部の奥、ほとんど手つかずの剥き出しの地面に、確かに、巨大な魔法陣があった。

 周囲はまるで遺跡のような様相をなしている。折れた柱に、崩れた壁。両腕のない女神像の朽ちた微笑みが、放置され続けた長い年月を物語っているようで、薄気味悪さすら感じさせた。

 魔法陣はともかく、この惨めな遺跡は直してやれば良いだろうに……と思ってレファーンに尋ねると、それが出来ないのだと彼は答えた。

 柱も、壁も、女神像も、全て含めて、この場そのものが、移動魔法陣、なのだそうだ。

 勝手に周囲の物を取り除いたり、違う材質の石で補修をかけたりすると、「場」が乱れてしまい、最悪、二度と使えなくなってしまうのだという。


「どういう原理になっているのか、まだ解明されていないんだ。多くの学者たちが調べてはいるが……永遠に謎のままかもしれないな」

 

 原理はサッパリわからないけど、便利だからとりあえず使っている……らしい。

 人の貪欲さって、何処の世界でも変わらないのかもしれないなぁ……なんて、ちょっと思った。


「ユウ」

「ん?」

「この魔法陣……何か感じないか?」

「? 何かって?」

「この魔法陣だけは、補修され続けている。これを描いている塗料が何であるか、既にわかっているからだ」

「……塗料?」


 私は、足下にある円陣を見下ろした。

 レファーンが言う通り、これだけは直され続けているのだろう……周囲の物の古さに比べると、格段に真新しい。

 複雑な文字も、絵も、目の覚めるような青色で描かれ、それが仄かに燐光を放っている。何一つ欠けることのない……完璧な青の魔法陣だ。


「……青?」


 まさか。

 私はレファーンを振り返った。

「これ、ヴェーラ?」

 レファーンが頷いた。

「そうだ。これはヴェーラから採れた染料で描かれている。……ユウ、本当に、何も感じないんだな?」

 私は慌てて青い線を踏んでいる自分の片足を上げた。

 ヴェーラ、と聞いただけで尻尾を巻いて逃げ出したくなったけど、別に何も感じない。あの力が抜け落ちるような感覚が襲ってくることも、無かった。

「もしかして……直接触らなければ大丈夫なのかも。それか、加工してある塗料だから……もう俺に影響がないのかな」

「そうか」

 だが、直接触れるのはやめた方がいい。レファーンが言った。

 言われなくとも、正体を知ってしまった以上、こんな危なっかしいものに触る気は毛頭ない。それでも不安は拭い去れず、私は無意識にレファーンの腕へと手を伸ばし……はっと引っ込めた。

(何やってんの、私! 男同士で腕なんか組んだら不気味すぎ!)

 と、思っていたら、大きな手が肩に置かれた。

「レファーン?」

「油断するな。魔法陣が無事動くまで」

「うん」

 ヴェーラの青で描かれた魔法陣は、私たちが危惧したような異常な事態はもたらさなかった。

 むしろ、いつもよりずっと発動がスムーズで負荷が無かったと……後に、その場に居合わせた他の人々から聞かされることとなる。






 移動魔法陣の出口は、フォルトリガの聖都、イソウドの街外れに繋がっていた。

 フォルトリガの首都は王城があるアスレンだけど、人口が多いのも、物が豊かなのも、複製の移動魔法陣があるのも、このイソウドだ。国で一番の大祭である、星祭りが行われるのも。

 いかに、大神殿の……聖職者たちの力が強いかが、わかる。


 街外れの割には妙に整備された大きな道を歩き続けると、間もなく、市街地へと入った。

 

 ギデオンと同じく石造りの街並みだけど、フォルトリガは、もっと華やかで、繊細で、そして豪奢な印象が強い。

 街の至る所に、装飾過多な神殿がそびえ建っているためだろうか。それに、やたらと人の彫刻が目につく。フォルトリガの代々の聖人たちの像らしいが、私だったらこんな人達に説法されるのは嫌だなと思った。

 ごてごてと宝石を身に纏い、贅沢が服を着て歩いているようなその姿に、悪いけど、神々しさなんて欠片ほども感じない。

 私が心の中で聖人像に文句をつけている間、宿を取りに行っていたレファーンが戻ってきた。

「予想以上に混んでいるな。何とか一部屋確保できた」

 祭り期間なだけあって、何処もかしこも凄い混みようらしい。一部屋でも空いていたのは運が良かった。元いた世界みたいに、ネットで予約……なんて出来るはずもないから、宿探しは、いつも現地ぶっつけ本番だ。

「一部屋で十分だよ。ベッドで寝れるだけ幸せ」

「一人部屋だから、そのベッドも一つしかないけどな」

「二人で寝れるかなぁ」

「いや、無理だろ……」

 宿に行き、一人部屋の寝台を見て、無理と首を振るレファーンとは対照的に、これならいける! と私は思った。

 男同士でくっついて眠るの図、という、決して健全ではない光景が一瞬頭の中に浮かんだけれど、この際無視することにした。自慢じゃないけど何度も一緒に野宿をした仲だ。いまさら寝床が一つという事態に、ジタバタしたりはしない。

「狭いけど、二人で寝れそうだよ」

「いや、俺はいい。ベッドはお前が使え」

「レファーン何処で寝るの?」

「床」

「硬いよ! 一緒に寝ようよ」

「いや、俺は床でいい」

 どうしてそう頑なに言い張るのだろう。かなり窮屈ではあるけれど、身を寄せ合えば二人ともベッドに入れるのに。

 男二人で一つの寝台に潜り込むって、変に抵抗があるのだろうか。男装はしていても、私はしょせん男ではないので、こういう時の男性心理はイマイチよくわからない。

「一緒に寝ればいいじゃん。床なんかで寝たら、明日、寝不足確定だよ」

「いいってのに」

 明らかにレファーンが不機嫌な声を出したので、私はそれ以上言うのをやめた。

 なにさ。せっかく心配してやったのに。

 明日、腰が痛いとか背中が痛いとかぼやいたって、知らないんだから!



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