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17 ハンターの階級


「おめでとうございます、ユウさん。ハンターの正規登録が認められましたよ!」

 と、我が事のように喜んでくれる目の前の青年は、二か月前にうっかりミスで私とグリフォンを戦わせた、あの試験監督だ。

 名をリュートという。

 元々は、彼もギデオンハンターだった。最前線で大活躍していた優秀な魔道士だったけど、二年前のある大きな戦いを契機に、ハンターを辞めた。

 彼は、利き腕である右手を、肘から先、ほとんど動かすことが出来ない。魔獣に食い千切られかけて、その時に、筋肉を、神経を、回復不可能なほどに痛めてしまったからだ。

 魔法は、発動するために呪文を、制御するために手を使う。決して器用ではない左手のみでハンターを続けるのは無謀と判断し、彼はやむなく現役を退いた。


「……で、今は、後輩を育てることに専念しているというわけです」


 リュートさんが、私の前に、小さな黒い布の包みを差し出した。

 何だろうと思って開けると、中から現れたのは……小さな星がたくさん散った、青い石のペンダントだった。


「ギデオンハンターの証です。身分証であり、各国に入る時の通行証の役割も持っています。大切な物ですから、なくしたら駄目ですよ。再発行する場合、階級を二段階も落とされますからね」


 ギデオンハンターには階級がある。青の十段階、その上に銀位と金位がいる。

 青い石の中に浮かび上がるこの星が、その階級を表している。私の場合、輝石に散らばる星は八つ。だから青の八位のハンターだ。

 この星が減るほどに、七位、六位……と、階級が上がってゆく。そして、金位、銀位になると、石そのものの色が変わる。言わずもがなだけど、銀位は白銀、金位は黄金だ。

 銀位のハンターは、現在二十二名。金位のハンターは五名いるという。

 そんな凄い人たち見たことないよと感心すると、リュートさんは笑いながら、いつも一緒に居るじゃないですかと言った。


「レファーンが五人のうちの一人。金位のハンターですよ」


「…………」

 なんかもう、今さら驚く気にもなれない。

 どんだけ「実は……」という設定が出てくれば、気がすむんだ、あの人は。そのうち、実は何処かの国の隠された王子です、とか、またとんでもない話が飛び出したりするんじゃないだろうか。

 王子様の知り合いなんて、はっきり言って、一人いれば十分だ。その一人だって、大いに持て余し気味なのに。

「そういえば、近々フォルトリガに向かうと聞きましたが」

「あ、うん。そうなんだ。ちょっと向こうに用事があって」

「そうですか。ならついでにフォルトリガから出ている依頼を受けませんか? 魔物退治から行方不明者の捜索、要人護衛まで、各種取り揃えていますよ」

「いやあ……あんまり時間かかりそうなのは。レファーンにも相談しないといけないし」

 とにかくカガリの御子に会うのが先決だ。場合によっては、大神殿に、刑事よろしく張り込みをかけるつもりでいる。

 その妨げになりかねない依頼なら……受けるわけにはいかない。


「そうですか。大神殿の臨時巫女の募集なんて、変わり種まであるのですが……残念です」


 は?

 今、なんて?


「間もなくフォルトリガでは星祭りが始まるのですよ。その時だけ、巫女を増員するのです。ギデオンハンターなら、巫女役と同時にいざという時の護衛にもなりますからね。毎年、何名か、ギデオンから行ってますよ。……うちは女性がどうしても少ないので、男が女装して潜り込んだりしていますが」

「へぇ……。女装、してまでね」

「報酬が良いのです。危険も無いですし、人気依頼の一つですよ」

 がしっ、と、私は、リュートさんの手を掴んだ。

 背伸びして、リュートさんが思わずのけ反るくらい顔を近づけて、満面の笑みとともに、私は言った。


「その依頼、是非、俺にっ!」






「女装して大神殿に潜り込むだって!?」

 大急ぎで屋敷に戻り、レファーンの部屋に駆け込み、寛いでいる彼の邪魔をしつつ、私はギルドでのやり取りを話した。

 レファーンは、もろ手を挙げて賛成、というわけではなさそうだった。性別を偽っていることが知れたら面倒が増えるだけだから止めておけと、彼はもっともな事を言ったけど、私は、降って湧いたようなこのチャンスを逃す気は毛頭なかった。

「だって、視察の時を狙うなら、本当に遠目から見るだけで終わっちゃう。でも、巫女になれば、大神殿の中に入り込める分、間近で会ったり、もしかしたら話が出来る可能性だってあるわけでしょ? これを利用しない手はないよ!」

「しかし……。巫女だろう? 神官や神殿騎士ではなく。さすがに俺は同行できんぞ……どう考えても」

「レファーンに女装して付いて来いなんて言わないよ。神殿内には俺一人で行くから大丈夫」

 レファーンが女装……思わず想像して、吹き出しそうになった。こんな大きな人が……ムリムリ! あり得ない!

 正確に測ったわけではないけれど、たぶん、レファーンは百八十センチ代の後半、もしかすると百九十センチくらいあるかもしれない。それくらい、彼は背が高いのだ。肩幅も胸囲も、二の腕も、あの重い剣を片手で軽々と振り回すだけあって、かなりがっちりしている。

 そもそも着れる女性服なんてあるのだろうか……ぷぷぷ。

「何を笑っている」

「ああ、いや、何でもないです。はい」

「まぁ、お前なら、違和感は無いだろうけどな」

「うん。リュートさんにも言われたよ。俺も完璧に化ける自信あるもんね」

「そんな変な自信、持たんでいい……」

 何を言っても無駄、と判断したらしく、レファーンは、肩を竦めて好きにしろと言ってくれた。

 私は、ありがたく、その言葉に従うことにした。


(巫女さんかぁ。本当になるのは嫌だけど、コスプレならありだよね)


 と、不届き千万なことを頭の中で考えていたなんて、口が裂けても言えない。



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