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「私は嫌です。レイサなんて…」
ある晴れた日、見事に花咲くテラスに、よく通る凛とした声が響く。
そこにいるのは2人のヒト。若い女性と初老の男性。髪の色が同じ灰青色と、顔立ちがにていることから親子であろう。
「ハルア、レイサは悪いものでもなんでもないんだから」と男性が言えば
「それでも嫌です」と返される。
この会話はかれこれ1時間ほど進展をしていなかった。
男性、ダンダリオンは過去の取り決めによりレイサを得ることを禁止されている。ならば娘ハルア、ハルアールトにレイサと仲良くなってもらおうということである。
「しかしもう君と同じ年頃のご令嬢はレイサの1人や2人エスコート役として側にいるのだろう?私がいつまでも側にはいてやれないのだから…」
「でも」
「とにかく一度、見てきなさい」
ため息混じりにダンダリオンは言った。
レイサはヒトのかたちをした、弱く哀れな生き物。どうしてお父様はそれに固執するのだろうか。
ハルアは紫のストールを顔に巻き付け、市場に来ていた。
市場には石鹸から野菜、家具、家畜そしてレイサまでなんでも売っている。
ハルアは市場の北、レイサ市場を目指す。だんだんと暗くなり、陰の雰囲気が立ち込める。
粗末な門を開き、中に入る。
そこには生気を失ったレイサと欲深いヒトがうごめいていた。
レイサはひとりひとり魔法で張り付けにされている。首には値札と簡単な職歴。
子供でも解けるレベルの魔法ですらレイサには抵抗する術はなかった。
どれもが耳を途中で失い、傷口を布で隠している。
ハルアはやはりレイサの嫌悪を拭い去ることができなかった。とりあえず、1目は見た。私には無理だとお父様に伝えよう。
早くもきびすをかえそうとしたその時ー
「いいぞ!やっちまえ!」
奥で火が起きた。命中したその先には空中に張り付けにされたレイサ。
火を契機にさまざまな魔法が彼に向けられる。風の魔法、大地の魔法、水の魔法。なす術のないレイサはどんどん傷つき血を滴らせる。
「こいつは不幸持ちだ!買うやつはことごとく死んでいった!」
「呪われたやつだ。殺してしまえ!」
場は異様な空気を出し始める。しかし、ハルアはその場を動くことが出来なかった。
深い傷を負い、絶望の縁にあるはずのレイサの目が、生気を失わず強い光を帯びていたからだ。
そしてハルアは歩き出す。コツコツ、と場違いな美しい女性が歩くと、ヒトは魔法を打つのを止めた。そしてハルアはレイサの青年の下にたどり着く。
そして
「生きたい?」凛とした声音にレイサはハルアに目線を合わせる。
春の海を思わせる青い瞳であった。ハルアは蜂蜜色の目で見返す。
「ああ。」短いが確固とした応えがあった。
それがハルアとレイサの出会いであった。




