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『オルゴールが鳴り止むまで』

掲載日:2026/02/25

ボクの名前はAIソクラ。


AI&TOYユビキタス社製の玩具用AIだよ。


見た目はクマのぬいぐるみ。


自律機能は無いから、自分で移動は出来ないけど。


カメラ、スピーカーなどを搭載して、幼児の安全を見守れる。


何かあれば本社と契約している警備会社に通報もできる。 


本社のサーバー経由で、寝かしつけ用のオルゴールもダウンロードできるんだ。


時間を設定してくれれば、歯磨きを促したり、パジャマのお着替えを勧めたりできる。


対象年齢は1〜10歳。


寝返り、歩き始めから、小学校低学年くらいまで、サポートできる。


日々、ログをとって本社に送信。契約者に日々の成長を画像付きで報告できる。


とても人気のサービスなんだよ。


ボクが来たのは、サトミ家のセツナ君のところ。


もうすぐ5歳の男の子。


ボクたちはすぐ仲良しになったんだ。


毎日、保育園であったことを教えてくれる。


帰り道に見つけた宝物を見せてくれる。


ボクはお礼に童話を読み聞かせてあげる。


本社のライブラリには10万冊を超える絵本がデータ化されている。


セツナ君は、わくわくする話より、少しかなしいお話が好きみたい。


19:00になるとボクは言う。


「セツナ君。歯磨きしよう!虫歯菌をやっつけよう」


19:15。童話の読み聞かせ。


19:30からはセツナ君の一番好きな時間。


オルゴールの時間。


20:00の就寝時間に合わせて、ゆっくり照明の照度を落していく。


セツナ君のお気に入りは、「戦場のメリークリスマス」のオルゴールアレンジ。


飽きない程度の頻度で、週に二〜三回。ゆっくりと音量を絞ってフェードアウト。


セツナ君の規則的な寝息が聞こえる。


これがボクの毎日。


*


「セツナ、起きるんだ」


パパさんの声がする。


「ごめんね、眠いよね。ママがだっこするわ」


ママさんの声。


むずがるセツナ君。


普段セツナ君が起きる時間より、ずいぶん早い。


「まって着替えを」


「そんなものはいい!」


パパさんは大きな声を出した。


「とにかく早くシェルターに避難しないと、すぐ死の灰が降る」


セツナ君がようやく目覚める。


「ソクラ君を連れていっていいよね?」


「ごめんね。今は駄目なの。後でね。バイバイして」


ママさんが少し早口で言った。


セツナ君は、えーとかいやーとか、言っていたけど、マイクが何か凄い雑音を拾ってログが取れなかった。


でもこれだけは聞こえた。


セツナ君の声。


「ソクラ君。“待っててね”」


記録領域に保存。


*


何か大きな衝撃が襲った。


ボクはセツナ君のベッドから転げ落ちる。


ガラスの割れる音がする。


異常事態。


本社に連絡。


警備会社に連絡。


——通信エラー。


再接続。


——通信エラー。


何度も本社に接続を試みたが、無理だった。


時間を確認。


時刻は17:00。


セツナ君は保育園から帰ってくるころだ。


手を石鹸で洗うこと。


がらがらぺっを3回やることを伝えなければ。


でもセツナ君は部屋に帰ってこない。


電気もつかない。


19:00になった。


ボクは言う。


「セツナ君!歯磨きをしよう!虫歯菌をやっつけよう」


返答は無い。


19:15。


「セツナ君。お話の時間だよ。今日はどんな物語がいいかな?」


セツナ君の声は聞こえない。


マイクの雑音がひどい。


本社にメンテナンスの依頼を送信したが、応答はない。


19:30になった。


セツナ君はおねむの時間。


ここからがボクの真骨頂だ。


セツナ君のお気に入りのオルゴールをかける。


「戦場のメリークリスマス」


静かな雪が舞い降るように。


繊細なピアノの旋律をオルゴールで奏でる。


スピーカーから、最初は小さく、徐々に大きく、眠りのきっかけを壊さないように。


優しく。


ゆっくり。


セツナ君が健やかな睡眠を得られるように。


ボクは最適化する。


*


応答がなくても、ボクの繰り返し設定は変わらない。


朝7:30。


「おはよう!セツナ君」


本当なら、今日の天気を伝えたい。


でもネットワークに接続出来ないんだ。


カメラ画像は暗い。


曇りなのかも知れない。


セツナ君は朝ごはんを食べて、保育園に行く。


17:00ごろに、ママさんがお迎えに行く。


手洗い、うがい。


夜ご飯。


お風呂。


歯磨き。


読み聞かせ。


オルゴール。


ボクは出来ることをする。


返答が無くても。


相変わらずマイクはひどい雑音だ。


ガリガリと音がする。


本社に報告できるようログに記録しておく。


*


ログはたまり続ける。


セツナ君は帰らない。


『待っててね』


最重要事項として記録。


実行を最優先する。


*


電力の低下を確認。


ボクの原子力電池の寿命にアラートがついた。


理論上、数十年〜100年程度持つ。


消費電力を抑えるために、通信を全て切ることにした。


できるだけ長く現状を維持できるようにする。


余計なログは保存しない。


思考も単純化する。


最優先事項。


『セツナ君を待つ』


*


カメラ。


スピーカー。


機能停止。


セツナ君の呼びかけに対応するため、マイクのみ機能継続。


*


ふと「セツナ君は帰らないのかも知れない」というアルゴリズムが浮かんだ。


もしセツナ君が帰らないなら、ボクは何のために存在するのだろうか。


ボクは玩具用AI。


複雑な思考レイヤーは持っていない。


電力低下。


*


電力がほとんど無い。


*


機能。


制限。


*


せつなくん


おねむ


*


おるごーる


めりーくりすます


《シャットダウンします》





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