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下男

作者: 朝日 橋立
掲載日:2025/09/19

あらすじにも書いた通り、作品を独白だけで作ろうぜと思ったので書きました。

結果として、最初と最後に地の文を入れましたが、殆どはセリフです。

 夕暮れ時、大変大きな門に下男が走ってきた。





 衛兵さん、衛兵さん。

 何かそんな顔をしないでくださいませ、私は奉仕をしに来たんですよ。密告をしに来たんです。

 ええ、ええ、その通りです。

 私の主人、いや主人というのもおぞましいあの悪漢、悪代官を成敗してもらいに来たんです。


 ええ、ええ、私は全く何も知らなかったのです。

 あの悪漢があんなことに手を染めていただなんて……。考えるだけでも恐ろしい。


 もとより私は彼を恐ろしく、怪しく思っていたのです。

 ええ、彼のあのなんて信用のできない顔でしょう。

 あの醜悪な人相も、小太りの腹も思い出すだけで、寒気がしますとも。


 私は最初から彼を嫌疑していたのです。

 そもそもとして私が一体どうして、あんな男を主人と形容していたのかと言えば、彼を、悪漢を貶める尖兵になっていたに他ならないのです。


 思えば、あの香りさえなんて汚らわしいことでしょ。

 私は一旦は彼のあの、醜悪な、甘い、優美な香りに騙されてたのです。

 あの桃のような香りは、きっと彼の深淵な腹からはみ出してきた香りに違いがありません。

 あれはきっと腐臭なのです。甘くて優美な、人を堕落させる腐臭なのです。


 あの人を許してはおけません。

 ええ、殺さなくてはなりません。

 そうです、思えば彼は商人だなんて名乗っていますが、その実態何て全く分かりやしません。

 内で何か怪しく動いているばかりで、全く町民からも信用されてはいません。全く彼は悪人なのです。これをどうして許せるでしょう。


 いやいや、お待ちを、ええ、どうかお待ちを。

 考えてみてください。彼は沢山のものを持っているのです。だのに、それを独り占めにしている。これを一体どうして許すことができるでしょう。

 彼はそのすべてを、貴方に、衛兵に差し出して、ひいては街に差し出すべきで、彼はその貪欲な、許しがたい悪女ばかりに金をばら撒く悪癖、許しがたい罪と無知を罰するべきなのです。


 よく考えてくださいませ。そう、その通りなのです。

 彼は金を持っているのです。ええ、一体どうしてこれを許せるでしょ。


 一度、彼に海に連れていかれたことがあるのです。

 荷物を持て、と唐突に言われましてね、それで大変に大きな荷物を持たされて、浜辺で永遠と待たされ続けたのです。

 その挙句、彼は私を連れて幾度もその間延びした声で繰り返すのです。

 お前はよく働いてくれる、何時かはもっと良い立場に付けるだろう。そんな言葉に一体どうして私が騙されることがあるでしょう。


 爛々と輝いていたあの月も、大声を上げるキリギリスも結局のところ、彼が私を堕落させるために用意した舞台装置にすぎなかったに違いがありません。

 彼は悪魔です。悪魔に与した男なのです。


 ええ、ええ、私はあなたがそう言ってくれることが勿論わかっておりましたとも。

 私は全く協力を惜しむつもりなどありません。

 彼を殺しましょう。あのピエロを空疎な玉座から貶めてやりましょう。


 それはそうと、彼を殺した後には、何か謝礼……。いえ、そんな浅ましく強欲なわけではありませんとも、ただ協力のための資金を頂きたいと思いまして。

 ええ、ええ、それは! 私はあなたに協力しますとも、短い間ですが、よろしくお願いいたしますよ。ええ、ええ。




 さて、醜いものと言えば幾つかあるが、その最たるものとして裏切りがあることを否定はできない。

 そして、裏切り者を裏切ることというのは、何とも正義の色を持つものである。

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