逃げ行く先にあった者
「車の残骸ばかりだね」
「そうね。でも、そんなこと悠長に言ってる場合?青函トンネルは既に狂った連中に占拠されて陸自も対処してる途中なのに」
「でも、その陸自だってゲリラ戦している、革命共産主義者達に苦戦しているよ?しかも、肝心な治安を預かる道警だって既に落ちたんでしょ?」
何も、言い返すことは無かった。いや、言い返すことなど出来なかった。何故なら、彼、地名猛一の言うとおり、北海道の治安を預かる北海道警察は、既に革命共産主義者達によって陥落してしまい、多少の抵抗などはあったものの、すぐに降伏し、すぐさま制圧下に置かれてしまった。この状況を重く視た道駐屯地の自衛隊は札幌市や政府に対して、出動許可を貰う為に緊急連絡したが、その頃には政府も市内も機能して居なかった。その事をいち早く知った猛一の姉であり、道警の唯一の生き残りである、地名強美は弟を乗せ、道内の陸自基地に避難することを決断し、今に至る。
「それより、どうして分かったの。狂った連中《革命共産主義者》がゲリラ戦しているって?」
「お姉ちゃん、よく考えてもみてよ?この車道に転がってる車の残骸。一見何も考えずに襲っているように見えるけど、燃費の悪い大型車、整備に手間が掛かる外車はそのままだ。逆に燃費が良さそうな…例えば軽自動車とかほとんど見当たらないでしょ?」
「確かにそうね。それにそれらを考慮してるなら、長期戦に備えてるって事?」
「そうかもね、でも、ここからどうするの?ここ一週間ずっと彷徨ってるし、何回か襲撃を受けてるせいで肝心なパトカーはボロボロで、燃料も少ないでしょ?陸自基地も無事か分からないし…ちなみに最後に陸自と連絡取れたのは?」「…四日前ね」「こりゃ、最悪海に出てボートで、逃げる?」そう、猛一が冗談ぽく聞いた瞬間だった「!?伏せて!!」正面から、銃撃音共にフロントガラスを割れた音が聞こえた。強美はすぐさま、パトカーを近くの残骸の陰に止め応戦の準備をする。「猛一は伏せてて、私が応戦する」「応戦するって!?多数一でどうやってやるの。しかも、武器の質だってあっちが上なんだから!」「そんなの分かってるわよ!!」分かってはいた。強美はそれを誰よりも分かっていた。目の前で同僚を公開処刑されるのを見てしまったから。だからこそ、そんな狂った連中から、弟を守りたいと心から思ったからこそ、抵抗すると、抗うと何があっても何を「犠牲にしようとね」覚悟を決め、撃ちに行く姿勢をした瞬間、他の所から、先ほどとは、まるで違う射撃音がなったと思うと、銃撃を受けた方角から、人が倒れるのを割れたガラス越しに見えた。
「新手?」「新手なら、最悪だけど…」「…」「…」短い沈黙の後声が聞こえた。「危なかったな?」男で若々しく、それでいて威圧的な声が響いた 「助けてくれたと、言うわけでは無いのよね?」「この情勢下で人助けをするなら、心からの善意か、それとも何ならかの対価を求めてかだろうな」「何が言いたいの?」「我が軍門に下るが良い」数秒間沈黙が流れやがて、「ちなみに、断ったらどうなるの?」猛一がそう口を開く「どうなるかは…まぁ想像に難くないな?」猛一、強美は彼の発言を受け止めた上で思考する。
「さぁ、どうする?諸君?」そして各々の思考に決着をつけ重たい口を開く「断るわ」「いいよ」「「え?」」「意見の相違があるとは驚きだな…で?結局どちらなんだ?見る限り姉弟関係に見えるが…」「ちょ、猛一どういう事なの?どう見ても、怪しい奴じゃない付いていって生き残れる保障は無いわ!」「僕なら、大丈夫だもん。自分の身くらい自分で守れるもん」「相手は武装してるのよ!?何考えてるの!」「それはお姉ちゃんもでしょ、武装してるんだから勝てないってわかるでしょ?ここは大人しくして…」「おい、時間は常に限りがあることを認識してくれ。先の戦闘では、数が少なかったから太刀打ち出来たものの次襲われたら、一溜まり無いぞ」「「…」」
「分かったわ。貴方について行くわ」「正しき判断だな」「だたし、一つ条件を付けるわ。」「ほう?条件か、良かろう話を聞こ─」「私の弟である猛一を必ず守ると誓いなさい」「…」
「お姉ちゃん…人の話は最後まで聞かないと」「うるさいわね!良いって言ったじゃない!なら、言うまでよ」若干気まずい空気の中青年が口を開く「はぁ、まぁ良い。その条件呑もう。その代わり我が軍門に降る事を確約させて貰うぞ」「確約?」そう言うと謎の男は近づいてくる「何をする気?!」「なに、君が出した条件と確約を同時にケリを着けようと思ってな」「まさか─」「あ、僕かぁ」「察しが良いな」「そりゃね。武装してる警察官よりカメラ片手に持って隠れてる僕を選んじゃうでしょ?」そう言い猛一は男の隣に行く「ちょそんな早々に信じられるの!」「信じようと思う!」「思う?!」「それにさ、」一拍を置いて「普通に今の現状で逆らえる立場に無いと思うしここは大人しくしようよ」「…」強美は理解は出来てはいたが納得はいかなかったこの男について行って無事の保障は無いからだ。「賢明な判断だな。さて、時間は無いぞ…奴らは必ずここへ確認しにくるからな。そういう連中だ」そう言い青年は、強美に車のキーを渡す。「運転しろ」「はぁ?私が?」「貴様意外に誰がいる。安心しろ場所は教える…自分の基地にな」「基地とか有るの!?」「当たり前だろう。こんな状況で─」「え?ホントに?どんな基地?ねぇ!君、教えて!何があるの?規模は?」猛一は青年に詰め寄り、輝かしい目で訴える。「まぁ待て、着いてから教えるから。それと私の名前は「カモト」だ。だから、そう呼べ」「分かった!」
(意外に素が出やすいのかもしれない。さてさて、どうなることやら)猛一はこれから起きる事に胸を膨らませ、期待を寄せるのであった。