勿忘草 〜 Forget Me 〜
夜中に目が覚めた。
エレベーターのまたそのなかにある小さなエレベーター。“何か”を入れるためのエレベーター。そこに入れるべき物はただひとつ。間違えると、エレベーターからは出れず、女は全部死に、男は半分死ぬ。正解すれば、女は全部生き、男は半分生きて、エレベーターを出ることができる。
私は答えがわかった! それは
「ナプキンのゴミだ!」
途端目が覚めた。
スマホを見ると、夜中の2時を過ぎたところ。
23:28。着信。
履歴を開くとどうやら娘の入院している精神病院からのようだ。一体全体何の用事だろう。…また娘が何かやらかしたか。折り返すにも今日はもう遅い…。着信は一度のみ。大したことはないだろう。用があるならまた掛かってくる…。そうしてその晩はまた、夢のなか。
動かない。
映像はずっと同じ。右向きに横になっているベッドで、視界の下方で左手のスマホの画面がぼぅと光っている。夫にラインを送るところ、あと一押しというところでさっきから、身体が動かない。
反面、周囲が忙しない。男が慌てたように、視界のスマホの向こう、ドアを開けて出て行った。わたしの視点は動かない。金縛りか。ひとり必死になるもどうやっても動かない。諦めて目を閉じる。それも、夢―――。
ドアが開く音。夫の声。駆け寄ってきて叫んでいる。視点が少し高くなった。夫がわたしを抱き上げたのだろう。ああ。
わたしは、死ぬのだ。
昨日の電話。娘の訃報。ほら、大したことない(笑)。