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第16節
静流の葬儀は、ごく一部の親族だけで、ひっそりと行われた。お袋は、あの日以来心を病み、専門の病院に入院している。親父は、この数週間で一気に十年も老け込んだように見えた。高槻家は、静かに、しかし完全に崩壊した。
俺は、大学を辞め、家を出た。健太は幸いにも一命を取り留めたが、事故の記憶は曖昧で、俺が何かに関わっていたことには気づいていない。それが、唯一の救いだった。
全てを失った。家族も、友人も、そして、妹との大切な思い出さえも。
俺の記憶の中には、もう「高槻静流」という妹と過ごした日々の具体的な光景は残っていない。ただ、「大切な妹がいた」という事実の輪郭と、彼女を守るために何かをした、という行為の熱だけが、胸の奥に空虚な勲章のように残っているだけだった。あの夏祭りの夜のことも、もう思い出せない。花火は、どんな色だっただろうか。
それでいい、と俺は思った。
ある日、雑踏に紛れて歩いていると、ふと空を見上げた。その時、一瞬だけ、あの「謎の声」が脳裏をよぎった気がした。
その声に、賞賛や侮蔑の色はなかった。ただ、観測者が一つの現象の終わりを確認したかのような、静かな響きがあった。
俺は、声がした空を振り返ることなく、再び前を向いて歩き出した。




