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アフター・ブレス  作者: 南足洵ノ佑
第4章:尊厳の在り処
13/16

第13節

 決行の夜を決めた。満月の光が、最も弱まる新月の夜。間宮教授によれば、それが儀式に最も適した時だという。

 俺は数日間、衰弱しきったフリをして両親を油断させた。そして、親父がうたた寝をした一瞬の隙を突いて、部屋を抜け出した。手には、布にくるんだガラスの小鳥を握りしめている。

 目標は、静流の部屋。そこに、儀式のための魔法陣を描いてある。

 だが、リビングに差し掛かった時、ソファの暗がりに座る人影に気づいた。お袋だ。俺の脱出を予期していたかのように、静かに待ち構えていた。

「どこへ行くの、和也」

 その声は、驚くほど冷静だった。

「……話すことは何もないよ」

「静流は、私の娘よ。あなたにだって、渡さない。あの子がどんな存在であろうと、私はあの子の母親なの。やっと、やっと帰ってきてくれたのよ。その幸せを、誰にも邪魔させないわ」

 お袋の瞳は、狂気の炎で爛々と燃えていた。彼女は、もう気づいているのかもしれない。今の静流が、以前の娘とは違うことに。だが、それでも構わないと、娘の形をした「何か」でもいいから、そばにいてほしいと願っているのだ。その歪んだ母性が、今は怪物よりも恐ろしかった。

「どいてくれ、お袋」

「嫌よ。この子を殺すというなら、まず私を殺していきなさい!」

 お袋は両腕を広げ、静流の部屋に続く廊下の前で仁王立ちになった。その背後、階段の上から、親父が憔悴しきった顔でこちらを見下ろしている。彼は、もう何も判断できないのだ。妻と息子、どちらが正しくて、どちらが狂っているのか。

 時間は無い。俺は心を鬼にした。

「ごめん、お袋」

 俺はお袋の肩を突き飛ばすようにして、その脇をすり抜けた。床に倒れたお袋の、呪詛のような泣き声が背中に突き刺さる。俺は一度も振り返らず、静流の部屋のドアノブに手をかけた。


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