第10節
手掛かりは、血筋と土地にしかなかった。俺は大学の図書館に籠り、郷土史の資料を漁り始めた。祖父母が住んでいた、あの山深い村。何かがあるはずだ。
何日も古文書や民俗学の論文を読み漁るうちに、俺は一つの記述に辿り着いた。
「マレビト憑き」。
その村には、古くから「マレビト」、つまり異界からの来訪神を憑依させる家系の話が伝わっていた。その家系は、常人にはない特殊な霊媒体質を持ち、神をその身に降ろす「器」としての役目を担ってきたという。だが、時に降りてくるのは神とは限らない。正体不明の、邪悪な存在であることもあった、と。
そして、その「器」の家系の苗字は、「高槻」と記されていた。
全身から血の気が引いた。ライラー病という特異な病は、この霊媒体質が肉体に及ぼした影響だったのかもしれない。静流は、生まれながらにして、異界の存在を呼び込むための「器」として運命づけられていたのだ。
俺は衝動的に、論文の著者である老年の民俗学研究家、間宮教授に連絡を取った。事情を話すと、彼は意外にも「やはり、現れたか」と静かに呟いた。
電話口で、間宮教授は重い口を開いた。
「君の一族は、呪われているとも、祝福されているとも言える。彼ら『マレビト』は、生命力が希薄になった『器』を好んで選ぶ。君の妹さんの病は、彼らにとって格好の目印だったのだろう」
「どうすれば、あいつを祓えますか! 方法があるはずです!」
俺は必死に食い下がった。
「……古文書によれば、儀式は存在する。だが、それは『器』そのものの生命を終わらせることと同義だ。そして、術者もまた、無傷では済まない。自らの魂の一部を『代償』として捧げる必要がある」
魂の、一部。その言葉の重みに、俺は息を呑んだ。
教授は、儀式に必要なものを教えてくれた。それは「器」が生前、最も強く心を宿した『縁起物』。そして、術者の『最も幸福な記憶』。
電話を切った後、俺は静流の部屋に忍び込んだ。机の上に、見覚えのあるものが置かれていた。幼い頃、俺が祭りの出店で買ってやった、手作りのガラスの小鳥の置物。陽の光を受けて、青くきらきらと輝いている。静流が、最後まで大切にしていたものだ。
俺は、そっとそれを手に取った。ひんやりとしたガラスの感触が、俺の震える指先に、これから為すべきことの重さを伝えていた




